[PA16] 小学校高学年児童の読書動機の半年後の読書行動への影響
性差の分析を中心に
キーワード:読書動機, 性差, 縦断的研究
問 題
なぜ本を読むのか,どんな本を読みたいかに関する読書動機の研究の歴史は意外と浅いが,近年ではなぜ,何のために読書をするかの問題に焦点を当て,自己決定理論による研究が盛んになりつつある。例えば,De Naeghelたち(2012)は自律的と統制的の2タイプの読書動機尺度を開発し,自律的読書動機の高さは積極的な読書行動と結びつくことを明らかにした。また,日本の中学生を対象にしたBewickたち(2015)も同様の結果を得ている。しかし,こうした研究はすべて単一時点での調査研究であり,読書動機が果たして読書行動に影響するかという因果的分析では弱点があった。臼井(2015)は親の自律性支援が内発的調整とプラスの関係があり,そして内発的調整が半年後の読書時間へのプラス影響があることを示した。そこで,本研究の目的は,これまで研究が少なかった性差に注目し,①読書動機や読書関連行動と,②読書行動や読解力に関する認知的社会化の因果仮説について検討する。
方 法
①調査対象者:札幌市内の小学校5,6生で合計419名(男子208名,女子211名)。②調査時期:第1回調査(T1)は2014年7月,第2回調査(T2)は2015年1-2月である。③手続き:上記の2回の調査ではいずれも教室単位で担任教師により質問紙調査を行った。④質問紙の内容:読書動機は,De Naeghel et al.(2012)とBewick et al.(2015)を参考にして「読書をする理由」について自己決定理論の枠組みに基づいて作成した。そのほかに,学校の図書室の利用,朝の読書,家庭での読書時間,読書における粘り強さ,グリットgrit,両親の自律性支援の認知なども調べた。
結果と考察
① 読書関係の変数の性差:女子の方が読書時間が長く(普段:t=3.28**;前日:t=3.03**),読書が好きであり(t=5.28**),読書の感動経験が高く(t=4.53**),かつ読解力の自己評価が高かった(t=2.95**)。また,読書の粘り強さ(t=3.87**)と自律的読書動機(因子得点)(t=3.83**)に関しても有意に高かった。しかし,グリット,熟達目標志向性と統制的読書動機では有意な性差は認められなかった。これより女子の方が読書に対して積極的な動機と行動傾向があった。
② T1の動機づけ変数から半年後(T2)の読書と読解力への影響の性差
男女ともに,読書の粘り強さは,普段と調査前日の読書時間,読書好きの程度,読解力の自己評価のすべてに対して有意なプラスの影響があった。また,読書での感動体験も読書好きと読解力にプラスであったが,女子では前日の読書時間にもプラスの有意なβを示した。男女で対照的であったのは,自律的動機は男子では普段の読書時間にプラスだったが,女子ではこれはなくて,統制的動機が有意に近いプラスのβを示した。
③ パス解析の性差:これまでの自己決定理論の研究から大人の自律性支援が子どもの自律的動機を育み,それが読書活動を活発にし,それによって読解力が育つことが示唆されているので,これに沿ったモデルを立て,パス解析を男女別に行った(図1,2)。概ねこの因果モデルは裏づけられたが,統制動機と読書時間の影響に関して性差が見られた。
なぜ本を読むのか,どんな本を読みたいかに関する読書動機の研究の歴史は意外と浅いが,近年ではなぜ,何のために読書をするかの問題に焦点を当て,自己決定理論による研究が盛んになりつつある。例えば,De Naeghelたち(2012)は自律的と統制的の2タイプの読書動機尺度を開発し,自律的読書動機の高さは積極的な読書行動と結びつくことを明らかにした。また,日本の中学生を対象にしたBewickたち(2015)も同様の結果を得ている。しかし,こうした研究はすべて単一時点での調査研究であり,読書動機が果たして読書行動に影響するかという因果的分析では弱点があった。臼井(2015)は親の自律性支援が内発的調整とプラスの関係があり,そして内発的調整が半年後の読書時間へのプラス影響があることを示した。そこで,本研究の目的は,これまで研究が少なかった性差に注目し,①読書動機や読書関連行動と,②読書行動や読解力に関する認知的社会化の因果仮説について検討する。
方 法
①調査対象者:札幌市内の小学校5,6生で合計419名(男子208名,女子211名)。②調査時期:第1回調査(T1)は2014年7月,第2回調査(T2)は2015年1-2月である。③手続き:上記の2回の調査ではいずれも教室単位で担任教師により質問紙調査を行った。④質問紙の内容:読書動機は,De Naeghel et al.(2012)とBewick et al.(2015)を参考にして「読書をする理由」について自己決定理論の枠組みに基づいて作成した。そのほかに,学校の図書室の利用,朝の読書,家庭での読書時間,読書における粘り強さ,グリットgrit,両親の自律性支援の認知なども調べた。
結果と考察
① 読書関係の変数の性差:女子の方が読書時間が長く(普段:t=3.28**;前日:t=3.03**),読書が好きであり(t=5.28**),読書の感動経験が高く(t=4.53**),かつ読解力の自己評価が高かった(t=2.95**)。また,読書の粘り強さ(t=3.87**)と自律的読書動機(因子得点)(t=3.83**)に関しても有意に高かった。しかし,グリット,熟達目標志向性と統制的読書動機では有意な性差は認められなかった。これより女子の方が読書に対して積極的な動機と行動傾向があった。
② T1の動機づけ変数から半年後(T2)の読書と読解力への影響の性差
男女ともに,読書の粘り強さは,普段と調査前日の読書時間,読書好きの程度,読解力の自己評価のすべてに対して有意なプラスの影響があった。また,読書での感動体験も読書好きと読解力にプラスであったが,女子では前日の読書時間にもプラスの有意なβを示した。男女で対照的であったのは,自律的動機は男子では普段の読書時間にプラスだったが,女子ではこれはなくて,統制的動機が有意に近いプラスのβを示した。
③ パス解析の性差:これまでの自己決定理論の研究から大人の自律性支援が子どもの自律的動機を育み,それが読書活動を活発にし,それによって読解力が育つことが示唆されているので,これに沿ったモデルを立て,パス解析を男女別に行った(図1,2)。概ねこの因果モデルは裏づけられたが,統制動機と読書時間の影響に関して性差が見られた。