日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

2016年10月8日(土) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PA21] 幼稚園教諭養成課程における教育実践研究Ⅰ

簡易型マイクロティーチングと力量形成との関連

金子智栄子1, 金子智昭2, 佐藤広崇#3, 金子功一4 (1.文京学院大学, 2.慶應義塾大学, 3.聖セシリア女子短期大学, 4.植草学園大学)

キーワード:マイクロティ―チング, 力量形成, 幼稚園教諭志望学生

問題と目的
 金子(2013)は,保育者の力量研究を精査して,現代的視点から6分類20力量を構成した。態度(①保育への熱意と情熱 ②受容的態度 ③毅然とした態度 ④人権に対する理解と態度),技能(⑤専門的知識と技術 ⑥計画と環境構成 ⑦遊びと生活への援助 ⑧集団把握とその指導 ⑨得意分野の形成),技能向上(⑩反省による保育の模索 ⑪自己研鑽 ⑫要配慮児への対応),協働的関係(⑬保育者集団の質的向上 ⑭園運営での役割と見通し),連携(⑮保護者との連携 ⑯地域との連携 ⑰小学校との連携),視野の拡大と深化(⑱今日的な保育の課題への関心 ⑲他の学問領域への関心 ⑳研究への理解と深化)である。また,保育技術の向上を目指して養成校にて長年マイクロティーチング(MT)を行っているが,実際の幼児ではなく,学生が幼児役になる模擬保育を導入したMTを簡易型と定義している。訓練を受けた学生の9割が力量①②⑥⑩⑬,6割から7割が力量⑤⑦⑧の形成を認めていた(研究Ⅰ:保育学会, 2015)。しかし,MTの有効性を測定する尺度は,保育現場で観察参加実習を経験した学生を対象に作成したものである。そこで本研究では,実習未経験の学生対象にMTの有効性ならびに力量形成の尺度を構成し,両尺度の関連性を検討する。
方   法
対象者:埼玉県内の4年制A大学1学年の保育者志望学生111名(3クラス構成で1クラス約36名)。
訓練期間:2015年11月から翌年1月。保育心理学の演習として,6コマ(1コマ90分)を使用した。
訓練手続き:学生が幼児役と教師役になる模擬保育形式の「簡易型MT」を実施。クラス別に3班に分け,1つの班12人程度が幼児役となり2つに分かれて,他の2つの班の教師役の学生から指導を受ける。教師役ではない学生は,観察者となり記録をとる。手順は,(1)各班で指導案と教材作り,(2)各班で模擬保育の練習,(3)指導実践,(4)前回の反省を生かして再度指導実践,(5)班別反省会,(6)学習成果の公表と教員の総評。訓練が終了した1週間後,アンケート用紙に回答させた。
調査内容:(1) 幼稚園教員養成用MT有効性測定尺度(EMTKS,金子ら,1995)作成時に使用した60項目:現代の保育内容に合うように表現を修正。「4. あてはまる~1. あてはまらない」の4段階評定。(2)力量形成:20力量を,MTの経験で身に付いたかを「3. あり~1. なし」の3段階評定。
結果と考察
1)実習未経験者用簡易型MT有効性と力量形成の尺度構成:MT有効性を因子分析(プロマックス回転)したところ,5因子が得られ,負荷量.40以上を尺度項目とした。『保育者としての自覚と指導技術(保育者自覚と指導技術)14項目』『学習状態の認識と学習意欲(学習意欲)6項目』『指導の難しさ(難しさ)4項目』『幼児理解(3項目)』『指導案の書き方(2項目)』の計29項目となり,α係数は.63~.83だった。力量形成を因子分析(プロマックス回転)したところ,4因子が得られ,因子負荷量.35以上を尺度項目としたところ,【連携(3項目)】【態度(6項目)】【技能(3項目)】【視野の拡大・深化(4項目)】の計16項目となり,α係数は.69~.92だった。
2)有効性と力量形成との関連:力量形成の各下位尺度を従属変数,有効性の5下位尺度を独立変数にして重回帰分析を行ったところ,決定係数はすべて有意となった。有効性『保育者自覚と指導技術』は,力量【連携(β=.262(p<.05))】,【技能(β=.309(p<.01))】に,有効性『学習意欲』は,【態度(β=.246(p<.05))】,【視野の拡大・深化(β=.408(p<.001))】に正の影響を与えていた。MTは,保育者の力量形成に効果的であることが示された。