The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PA24] 子どもの思考を基にしたカリキュラム構成

割合概念における等全体に及ぼす効果

栗山和広1, 吉田紗也#2, 中島淑子3 (1.愛知教育大学, 2.立命館大学, 3.名古屋大学大学院)

Keywords:教授介入, 子どもの思考, 割合概念

 割合概念は,小学校の算数の中で,子どもにとって理解することがきわめて困難な概念である。本研究では,数学教育でほとんど考慮されていない,子どものインフォーマルな知識や等全体の認知的障害を取り入れた新しいカリキュラム構成を用いた教授介入から子どもの割合概念の理解について検討する。
 栗山(2011)は,割合のインフォーマルな知識として,子どもは%を量という視点から理解していることを見いだしている。栗山・吉田(印刷中)は,割合の認知的障害として等全体を見いだしている。等全体とは,2つ以上の大きさを比較する際に,比較する割合の全体の大きさは同一であるという概念である。
 本研究では,(1)既存のカリキュラムで指導されている小数倍からではなく,量的な%を最初に導入し,割合モデルを具体化した教材を用いる。(2)割合の比較は,全体が等しい時に%の比較が可能であるという概念図を導入し,等全体の理解を深める。という視点を組み込んだカリキュラム構成について検討した。
方   法
被験者:実験群にはA小学校の5年生59名,テキスト群にはB小学校の5年生68名が参加した。
課題:5年生の割合単元(啓林館)14時間。事前テストでは,割合の単元を学習する前に,割合に関するインフォーマルな知識について尋ねた。割合単元を学習して,1週間以内に事後テストを実施した。事後ストでは以下の内容の一斉テストが行われた。(1)割合の3用法の解決課題3問(2)変換課題4問(3)関係課題2問(4)作図課題2問。(5)等全体課題:文章問題1問。グラフ問題1問(6)割合の構成要素の課題3問。
手続き:テキスト群のカリキュラムは,最初の1時間で割合の意味を導入し,その後の4時間で小数倍としての割合の3用法を指導した。第6時から第8時まで,%としての小数倍の関係を指導し,%としての割合の3用法を指導した。第9時はまとめであった。第10時から第14時までは割合のグラフについて指導された。
 実験群のカリキュラムは,第1時から第2時までは,量概念を強調する割合モデルに基づく教材を用いて,割合を部分と全体といった点から指導し,量としての大きさが指導された。第3時では,比較すべき割合について,基準量が異なると%を比較することはできないことを,子ども同士の討論から引き出すように指導した。第4時では,比較する割合の全体の大きさは等しいという概念図を導入し,全体が等しいときに%の比較が可能であることについて子ども同士の討論から引き出すように指導した。第5時で,小数倍が導入された。第6時で第2用法,第7時で第1用法,第8時で第3用法が教えられ,第9時がまとめであった。第10時から第14時まではテキスト群と同じであった。
結   果
事前テスト:意味表象の正答率は,実験群は94%,統制群は94%,量的表象の正答率は,実験群77%,統制群は75%であった。両群の統計的な差は見られなかった。両群は等質であると言える。
事後テスト:割合の3用法課題の正答率は,実験群は67%,テキスト群は57%であった。両群の統計的な差は見られなかった。変換課題の正答率は,実験群は86%,テキスト群は88%であった。両群の統計的な差は見られなかった。関係課題の正答率は,実験群は73%,テキスト群は50%で,両群の差は有意であった(t(125)=3.00,p<.01)。作図課題の正答率は,実験群は59%,テキスト群は21%であった。両群の差は有意であった(t(125)=5.84,p<.01)。等全体の基準量が異なる場合の文章問題とグラフ問題の正答率を図1に示した。等全体の文章問題とグラフ問題において,それぞれ,実験群はテキスト群より成績の高いことが示された(χ2=17.37,df=1, p<.01;χ2=21.87,df=1, p<.01)。
考   察
 子どものインフォーマルな知識と等全体の視点を組み入れた新しいカリキュラム構成による教授介入は,子どもの概念的理解,等全体の理解を深化させることが明らかになった。認知心理学からの支援において,カリキュラム構成の支援は,21世紀型学習スキルの中でも重要であると考えられる。