The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PA29] 自閉症児に対する文章読解における表象の形成と表象間の関係づけ

読解を促進する表象を統合する視点にむけて

向井敦子 (大妻女子大学)

Keywords:文章読解, 表象, 自閉症

 高機能自閉症を疑われる対象児は,単文のできごとを読み取ることはできても情報が複合的な文章の読解はすすまない。単語や情景に対する基礎知識が不足していることと,文章から表象を構成することと,その表象同士を関連づけるところが不十分であることによる。その原因としてできごとを関係づけて処理することが機能していないことによると仮定する。本研究では自分自身の具体的な行動から表象を形成することと,表象間を関連づける視点について,実践経過から検討し,読解を促進する視点構成の問題点を検討する。
方   法
対象児:BAとBB(男,特別支援学校高等部2年在学)
実践期間:2016.4.16~2016.4.30(3回,一人1時間)
実践場所:知覚・言語障害教育研究所
使用課題:「動かない鳥 ハシビロコウ」(ジャポニカ学習帳)をもとに,教授者が書き替えた説明文。
手続き:課題文を学習者に音読させてから,教授者と学習者が対話する場面を構成する。具体的にはなりゆきに記述した(1)~(7)に沿って実施する。
実践のなりゆきとコメント<C>
(1)背景情報の整理:未知の単語や情報を辞書で調べてカード化して,読解の参考とした。
(2)ハシビロコウ(Hと略)の特徴を学習者自身の行動から類推:BAとBBは,長さ・重さの単位が自身の身体情報と対応していないので大きさがイメージできないこと,時間の表象が曖昧であるという新たな問題が現れた。他の鳥や幼児の大きさと自分の体を対比させて,数値との関係を再構成した。BAは水中で息を吹くと泡が出ることと泡の行方についての表象が対応づけられなかったので,実際に行動させた。<C>自分自身の身体像について単位を統合した表象を形成することが,文中の記述の理解の基礎となる。
(3)Hの行動の表象の形成:具体的な動作と対応づける。例,学習者が魚を捕るときは手でつかまえるが,手が使えないHはクチバシを使う。<C>実際に動作してはじめて類推が可能になる。しかし動作できたからと言って,その動作をする必然や意味(より高次の視点)へ一挙に繋がるわけではない。
(4)狩りについての表象の関連づけ:Hの視点と魚の視点とを対比的に扱い「魚の呼吸-泡-捕る」へと表象を関連づけることを試みた。ここでは読み取るポイントを文章で呈示してキーワードを埋めさせた。単語を入れる場合と,該当箇所をそのまま読み上げるばかりで,キーワードの焦点化ができない場合が現れた。設問を替えて焦点化を促したが,かえって局所情報に注目する結果になった。BBは,魚の呼吸と泡が出る関係とHが泡を待っているところを,この対話の中で関係づけたが,泡が魚の存在の合図になるところは読み取れなかった。<C>キーワードを対応づけるだけでは視点が局所に限定された状態にとどまる。全体の流れへと視点を移動するためには,それらの行動の目的や意図へと視点変換させなければならない。
(5)「動かない」という方略の意味:狩りの行動を時系列化して文を構成させると,学習者たちは「はじめに,次に,そして,最後に」という接続詞に対応づけて事柄をまとめて記述した。しかしHが「動かない」理由には繋がらなかった。個々のキーワードや文を対応づけたときも,全体としての表象には結びつかなかった。<C>時系列化だけでは狩り全体の要約に繋がらなかったので,動かないことの意義にも関連づけられなかった。原文の言葉を固定的なイメージでとらえているだけなので,狩りの成功や目的という新たな視点にそって行動の意味を再構成する必要がある。
(6)卵を冷やす道具としてのクチバシの表象:BAは暑いと卵が腐ると答えた。暑いときにBA自身がすることとHができることを対比してクチバシを使うところまでは関係づけた。しかし「どのようにクチバシを使うか」については答えがなかった。BBは「うがいと同じ,ペーする」と言って,クチバシに入れた水で卵を冷やす様子を表象化して答えた。しかし大きいクチバシの利点については答えられなかった。<C>自身の行動から類推して具体的行動の表象までは関係づけても,その意義としてまとめるところが繋がらない。
(7)Hが身体の特徴を生かした生活をしている意味の推測:クチバシが大きいことについての利点を尋ねると,BAは対応する文を棒読みした。BBも個々の具体的行動をあげただけであった。身体の特徴とは関連づけられなかった。<C>この質問は確認試行である。結果から,局所表象に留まっていることが明らかである。大きいクチバシを持って生活している意義は,個々の表象を統合した視点から再構成されるものである。
総合考察
 これらの結果は,同位レベルでの対応づけはある程度できても,上位への変換を導くことができなかったことを表している。上位水準への統合を導く仮説として,例えば,行動目標という視点や目標に向けた情動性も視点に含めた質問を提示して,そこに統合することで大意をつかむ方向づけが可能になることが示唆される。