The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PA30] ヘルス・コーチング演習の授業効果

看護コミュニケーション教育における比較対照研究

西垣悦代 (関西医科大学)

Keywords:コーチング, コミュニケーション, 高等教育

背景と目的
 コーチング(coaching)とは,「個人の潜在能力を開放し,その人自身の能力を最大限に高めること」(Whitmore,1992)と定義されている。日本では2000年頃より医療者や医療教育の場にも積極的に取り入れられてきた。しかし,西垣(2015a)が指摘するように,日本で発表されたコーチングに関する600以上の論文の多くは総説や単純な実践報告であり,理論に基づく実践の効果を,適切な測度を用いて比較対照実験として行われた効果研究は極めて少ない。
 西垣(2015b)は,看護学生を対象に人間関係論の授業にコーチング演習を取り入れ,学生のコーチングに対する印象の変化,一般的自己効力感の上昇,会話のスキルの自己評価の向上がみられることを明らかにした。今回の研究では看護教育におけるコーチング演習の効果を,介入群と対照群の比較検証によって明らかにすることを目的として実施した。
方   法
対象:看護学生84名(介入群43,対照群41)
時期:2015年10月~1月
実施者:授業担当者は生涯学習開発財団認定コーチ,日本コーチ協会認定メディカルコーチ,Centre for Coaching, London の認定コーチ資格の保持者である。
手続き:事前アセスメントの後,介入群は②~⑤回目にコーチング演習,対照群は②~④回目に通常授業を行った後,⑤~⑧回目にコーチング演習を行った。介入群は⑤回目,対照群は④回目の授業の最後に事後アセスメントを行った。演習はKolbの学習サイクルに基づき,コーチング演習―振り返り―説明による概念化―次週までの実践,を繰り返しによって進めた。
アセスメント測度:西垣他(2015c)の開発による,コーチングコンピテンシー自己効力感尺度(CCSES(24)),自己効力感尺度(10),KISS-18(18),ALAS(20),STAI(特性不安尺度20),強みテスト(24)を使用した。
結   果
 参加者のうち,全回出席し2回のアセスメントを完了した74名(介入群38,対照群36)を分析の対象とした。
 CCSESのスコアについて,群別,事前事後の2要因分散分析の結果,トータルスコアでは,事前-事後の主効果のみが有意であり,群別の有意差は見られなかった。下位尺度別の分析の結果,「会話のスキル」に関して,介入群において事前-事後に有意な変化の傾向が見られた。また,「態度」に関しても,介入群において事前-事後に変化(p=.086)の傾向が見られた。一方,「関係形成」については対照群においてのみ有意な変化(p=.003)が認められた。
 このほかKISS-18において介入群にアセスメント前後に有意差が見られ,ソーシャルスキルスコアが上昇した(p=.048)。ALASの下位尺度の「傾聴」には,介入群のみアセスメント前後に有意差の傾向が見られた。(p=.08) STAIの特性不安尺度においては,事前事後に有意差があり(p<.0001),両群ともに事後の不安が低下した。
考   察
 看護学生を対象に授業の一環としてコーチング演習を行った結果,CCSESのトータルスコア,KISS-18,STAIの特性不安に変化が見られた。そのうちコーチング演習を実施した介入群にのみ認められた変化はKISS-18のソーシャルスキルであり,CCSESの会話のスキルと基本的態度では有意な傾向に留まった。対照群にも効果が見られた理由として,座学といえども人間関係やコミュニケーションに関する内容の授業を受けていたため,その影響が反映した可能性が考えられる。また,コーチング演習が4回のみであったため,介入群に顕著な効果が出なかったのかもしれない。今後は,より完全な形での比較対象群を設定できるよう,工夫をする必要があると考える。
西垣悦代 (2015a). 日本におけるヘルスコーチングの特徴と課題 ヘルスコミュニケーション学雑誌 5. 22-36.