[PA31] 認知的非流暢性と不安要因が演繹的推理に及ぼす効果
Keywords:認知的非流暢性, 不安, 演繹的推理
問 題
読みにくい形態のフォントやコントラスト低い色調のフォントを用いて課題の認知的非流暢性を強めると,課題の遂行成績が向上するという実験結果が最近の認知心理学の研究で報告されている(例えばDiemand-Yauman, 2011)。この結果は,非流暢性が場合によっては,人を注意深くさせ,より深い処理の分析的な熟考を促す効果があることを示唆している。しかし,非流暢性が個人の特性によって異なる効果をもたらすかどうかについてはこれまで調べられていない。そこで本研究では,個人の特性として不安レベルをとりあげ,認知的非流暢性がもたらす効果が不安と関連するかどうかを三段論法演繹推理課題の成績を指標に用いて検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生72名(男子44名,女子28名)。実験に先立って新版STAI(2000)を実施し,特性不安と状態不安のそれぞれについてパーセンタイル値50を境界として,実験参加者を高低の2群に分類した。
実験材料 大岸・中田(2015)が作成した仮言三段論法の形式(「pならばqである」)をとる演繹推理問題を90問用いた。被験者間要因の非流暢性は3条件から成り,白色の背景上に問題文を,流暢条件では黒色のHG明朝フォントで,色非流暢条件では黄色のHG明朝フォントで,フォント非流暢条件では黒色のピグモ01フォントで呈示した。また被験者内要因の情動価は, 問題文に含まれる語の意味内容により3水準(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 各実験参加者に対して,演繹推理問題を個別実験で90試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「不幸ならばため息をつく」)が最初提示され,スペースキーを押すと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「彼は今不幸だと思っている」),前件否定(例「彼は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「彼女はため息をついていた」),後件否定(例「彼女は最近ため息をついていない」)の4種類から構成された。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「彼女に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。問題呈示後18秒経過しても解答がなされない場合には,警告音と警告文を呈示し,すぐに解答するよう実験参加者を促した。
結果と考察
正答率について特性不安×非流暢性×情動価×推理形式の4要因分散分析をした結果,非流暢性×特性不安の交互作用が有意で(F(2, 66) =, p=.040, ηp2=.09.),色非流暢条件で特性不安による違いがみられた(Figure 1参照)。すなわち,低特性不安群では色による問題文の見にくさの増大が成績を低下させているのに対し,高特性不安群では逆に成績を向上させおり,非流暢性による課題遂行の促進効果がみられた。いっぽう,状態不安×非流暢性×情動価×推理形式の分散分析では,状態不安と非流暢性との間に有意な関連性はみられなかった。以上の結果から,パーソナリティ特性としての不安レベルが認知的非流暢性の効果に影響を及ぼしていると考えられる。
さらに特性不安と状態不安の関連性を調べるために特性不安×状態不安×情動価×推理形式の分散分析を行った結果,特性不安×状態不安×情動価の3次の交互作用が有意で(F(2,136) =, p=.046, ηp2=.044),低特性不安と高状態不安の組み合わせの場合に情動価による正答率の違いが認められ,特性不安が低いひとにおいて状態不安が強められたときに,外界からの刺激の情動的性質の影響を受けやすいことが示されている。
引用文献
大岸通孝・中田順平 (2015). 不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果.日本教育心理学会第57回総会発表論文集, 1002019-1.
読みにくい形態のフォントやコントラスト低い色調のフォントを用いて課題の認知的非流暢性を強めると,課題の遂行成績が向上するという実験結果が最近の認知心理学の研究で報告されている(例えばDiemand-Yauman, 2011)。この結果は,非流暢性が場合によっては,人を注意深くさせ,より深い処理の分析的な熟考を促す効果があることを示唆している。しかし,非流暢性が個人の特性によって異なる効果をもたらすかどうかについてはこれまで調べられていない。そこで本研究では,個人の特性として不安レベルをとりあげ,認知的非流暢性がもたらす効果が不安と関連するかどうかを三段論法演繹推理課題の成績を指標に用いて検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生72名(男子44名,女子28名)。実験に先立って新版STAI(2000)を実施し,特性不安と状態不安のそれぞれについてパーセンタイル値50を境界として,実験参加者を高低の2群に分類した。
実験材料 大岸・中田(2015)が作成した仮言三段論法の形式(「pならばqである」)をとる演繹推理問題を90問用いた。被験者間要因の非流暢性は3条件から成り,白色の背景上に問題文を,流暢条件では黒色のHG明朝フォントで,色非流暢条件では黄色のHG明朝フォントで,フォント非流暢条件では黒色のピグモ01フォントで呈示した。また被験者内要因の情動価は, 問題文に含まれる語の意味内容により3水準(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 各実験参加者に対して,演繹推理問題を個別実験で90試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「不幸ならばため息をつく」)が最初提示され,スペースキーを押すと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「彼は今不幸だと思っている」),前件否定(例「彼は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「彼女はため息をついていた」),後件否定(例「彼女は最近ため息をついていない」)の4種類から構成された。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「彼女に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。問題呈示後18秒経過しても解答がなされない場合には,警告音と警告文を呈示し,すぐに解答するよう実験参加者を促した。
結果と考察
正答率について特性不安×非流暢性×情動価×推理形式の4要因分散分析をした結果,非流暢性×特性不安の交互作用が有意で(F(2, 66) =, p=.040, ηp2=.09.),色非流暢条件で特性不安による違いがみられた(Figure 1参照)。すなわち,低特性不安群では色による問題文の見にくさの増大が成績を低下させているのに対し,高特性不安群では逆に成績を向上させおり,非流暢性による課題遂行の促進効果がみられた。いっぽう,状態不安×非流暢性×情動価×推理形式の分散分析では,状態不安と非流暢性との間に有意な関連性はみられなかった。以上の結果から,パーソナリティ特性としての不安レベルが認知的非流暢性の効果に影響を及ぼしていると考えられる。
さらに特性不安と状態不安の関連性を調べるために特性不安×状態不安×情動価×推理形式の分散分析を行った結果,特性不安×状態不安×情動価の3次の交互作用が有意で(F(2,136) =, p=.046, ηp2=.044),低特性不安と高状態不安の組み合わせの場合に情動価による正答率の違いが認められ,特性不安が低いひとにおいて状態不安が強められたときに,外界からの刺激の情動的性質の影響を受けやすいことが示されている。
引用文献
大岸通孝・中田順平 (2015). 不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果.日本教育心理学会第57回総会発表論文集, 1002019-1.