[PA35] 偶発記憶に及ぼす欲求処理型の効果
Keywords:偶発記憶, 生存欲求
人間の欲求に関する情報処理は記憶を促進する。Nairne, Thompson & Pandeiada (2007)は,単語の指示する対象が,仮想された「無人島」場面での生存(survival)のために必要か否かの判断を求め,その後の再生率を他の処理と比較し,生存的欲求処理が他の情報処理よりも効果的であることを示した。Toyota(2013)も,自分の生存のために重要であるという過去の出来事を処理させることによって分散効果(集中提示<分散提示)が大きくなることを示した。これらの結果は,生存的欲求処理が記憶に促進的効果をもたらすことを示している。しかし,人間の欲求は階層構造になっており(Maslow, 1962),最下層になる生存欲求よりも上位の欲求処理に関しては検討がなされていない。人間の欲求の中で対人欲求は重要であり,達成欲求や知識の欲求よりも下層にあり,基本的なものである。Toyota(2012)は,単語から想起する過去の出来事が他者を含んでいる場合が,含んでいない場合よりも分散効果が大きいことを示した。これは,他者の情報を含む出来事が含まない出来事よりも差異性が高いことによるだけでなく,他者に対する対人欲求処理が反映されている可能性がある。また,生存欲求処理よりも対人欲求処理の頻度が多いことを考慮すると,対人欲求処理の効果を,生存欲求処理の効果と比較することには意義がある。そこで,本報の目的は,偶発記憶に及ぼす対人欲求処理の効果を生存欲求処理及び快-不快処理の効果と比較することである。
方 法
a)実験計画 処理型(対人欲求,生存欲求,快-不快)を参加者内要因とする1要因計画。b)参加者 看護学校の学生30名(男5,女25)。平均年齢は20.89歳。c)材料 北尾ら(1977)から選択された漢字30語を記銘語とした。3つの処理型に10語ずつを割り当てるが,割り当てる条件を入れ替えて,3リストが作成された。いずれのリストでも,最初と最後にバッファー語を1語ずつ追加し,32語からなるリストとなった。Fig.1には,小冊子のページ例。処理型に対応して,方向づけ質問(対人欲求処理条件では「人と親しくなるために必要ですか?」,生存欲求処理条件では「生きるために必要ですか?」,快-不快処理条件では「どんな印象ですか?」)及び6段階評定尺度(対人及び生存欲求処理条件では,「必要でない~必要である」,快-不快処理条件では「感じが悪い~感じが良い」)が記銘語の下に印刷。挿入課題用紙はひらがな文字列が印刷されたB4判。自由再生テスト用紙はB5判。d)手続 偶発記憶手続きによる集団実験。1)方向づけ課題 参加者は,実験者の合図にしたがって,小冊子のページをめくり,各ページの記銘語への質問に対して評定をしていった。各ページの評定時間は10秒。2)挿入課題 語識別課題 3分。3)自由再生テスト 3分間の書記自由再生。実験終了後,全員が記銘の意図がないことを確認した上で,本実験の意図を解説し,全員が小冊子及び自由再生テスト用紙を提供してくれた。
結 果
Table 1。分散分析の結果,欲求処理型の主効果が有意傾向であった(F(2,58)=2.81, p<.07)ので,Ryan法による多重比較を行った結果,生存欲求処理が快-不快処理よりも再生率が高かったが,他の条件間に有意差はなかった。
考 察
対人欲求処理と生存欲求処理の偶発記憶に及ぼす効果には違いは見いだせなかった。ただし,統制条件としての快-不快条件と生存欲求処理の間には有意差が見いだされた。Nairne et al.(2007)による生存欲求処理の記憶促進の効果は追証されたといえる。しかし,対人欲求処理も生存欲求処理と差がなく,統計的に有意ではないが,統制条件よりも再生率が高いことは,生存欲求に限らず,欲求に基づく処理は他の処理よりも自我関与が高く,その結果,差異性を高め,検索を促進する可能性がある。欲求処理型による効果の違いをさらに検討するのが今後の課題である。
方 法
a)実験計画 処理型(対人欲求,生存欲求,快-不快)を参加者内要因とする1要因計画。b)参加者 看護学校の学生30名(男5,女25)。平均年齢は20.89歳。c)材料 北尾ら(1977)から選択された漢字30語を記銘語とした。3つの処理型に10語ずつを割り当てるが,割り当てる条件を入れ替えて,3リストが作成された。いずれのリストでも,最初と最後にバッファー語を1語ずつ追加し,32語からなるリストとなった。Fig.1には,小冊子のページ例。処理型に対応して,方向づけ質問(対人欲求処理条件では「人と親しくなるために必要ですか?」,生存欲求処理条件では「生きるために必要ですか?」,快-不快処理条件では「どんな印象ですか?」)及び6段階評定尺度(対人及び生存欲求処理条件では,「必要でない~必要である」,快-不快処理条件では「感じが悪い~感じが良い」)が記銘語の下に印刷。挿入課題用紙はひらがな文字列が印刷されたB4判。自由再生テスト用紙はB5判。d)手続 偶発記憶手続きによる集団実験。1)方向づけ課題 参加者は,実験者の合図にしたがって,小冊子のページをめくり,各ページの記銘語への質問に対して評定をしていった。各ページの評定時間は10秒。2)挿入課題 語識別課題 3分。3)自由再生テスト 3分間の書記自由再生。実験終了後,全員が記銘の意図がないことを確認した上で,本実験の意図を解説し,全員が小冊子及び自由再生テスト用紙を提供してくれた。
結 果
Table 1。分散分析の結果,欲求処理型の主効果が有意傾向であった(F(2,58)=2.81, p<.07)ので,Ryan法による多重比較を行った結果,生存欲求処理が快-不快処理よりも再生率が高かったが,他の条件間に有意差はなかった。
考 察
対人欲求処理と生存欲求処理の偶発記憶に及ぼす効果には違いは見いだせなかった。ただし,統制条件としての快-不快条件と生存欲求処理の間には有意差が見いだされた。Nairne et al.(2007)による生存欲求処理の記憶促進の効果は追証されたといえる。しかし,対人欲求処理も生存欲求処理と差がなく,統計的に有意ではないが,統制条件よりも再生率が高いことは,生存欲求に限らず,欲求に基づく処理は他の処理よりも自我関与が高く,その結果,差異性を高め,検索を促進する可能性がある。欲求処理型による効果の違いをさらに検討するのが今後の課題である。