The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PA37] 空間的視点取得能力に現れる身体性

仮想的身体移動と平衡性との関連から

渡部雅之 (滋賀大学)

Keywords:空間認知, 身体性, 運動

 空間的視点取得とは,現在の位置から別の位置に自分自身が移動したと想像して,対象の見え方を予想する行為である。その処理過程には,仮想的な自己の移動操作と,それ以外の認知的情報処理が含まれる。前者は,自らの身体表象を空間内の任意の位置に心的に移動する操作を意味する。それは仮想的な行為であるため,運動感覚や体性感覚は本来生起しないはずであるにもかかわらず,実際には期待される感覚が伴い,それを処理する脳領域が活性化する。このことから,身体運動能力の高低と空間的視点取得能力の高低が対応すると予想される。また,感覚運動刺激は,身体運動能力の低い者に援助的に働き,空間的視点取得の成績をより大きく改善すると期待できる。これらの仮説を検証し,あわせて空間的視点取得と最も強く関連を示す運動機能を特定することを目的とした。
方   法
協力者 大学生20名(男9名)。運動能力や視力に問題となる障害はない。自発的な協力を要請し,終了後に相当程度の謝礼を渡した。
課題 空間的視点取得課題を2種類の感覚運動刺激条件下(拘束条件/不安定条件)で実施した。また,10種類の運動能力検査を実施した。さらに,結果の分析時に認知能力の影響を除外するために,空間的視点取得に関連する3種類の認知能力検査を実施した。
 「空間的視点取得課題」被験者が鬼となり隠れた子どもを探し出す,隠れん坊形式のテレビゲーム。画面上の家に2つの窓があり,いずれかから子どもが顔をのぞかせ,直後に窓枠に隠れた。隠れているのは左右いずれであるかを当てるよう求めた。その際,家は左右45度刻みの7種の位置に回転して現れた。各位置につき1問をランダムな順で実施した。手の動きをゲーム機本体のカメラが感じ取り,テレビ画面上に仮想掌を映し出した。窓にこの仮想掌を重ねることで解答することができた。回転角度と反応時間との間の一次関数関係から,回帰直線の傾きを180倍して仮想的身体移動時間とみなした。
 「運動能力検査」文科省の体力・運動能力調査で使用する検査(握力,上体起こし,長座体前屈,反復横跳び,持久走,50m走,立ち幅跳び,ボール投げ及びそれらの総合得点)及び,30秒間の片足立ち時と閉眼起立時の重心動揺の軌跡長,速度,矩形の差を測定した。
 「認知能力検査」心的回転課題の反応時間,作業記憶課題の記憶スパン,Wisconsin Card Sorting検査の保続性を測定した。
手続き 2条件下での空間的視点取得課題と3種類の認知能力検査は,心理学実験室において,ランダムな順序で個人ごとに実施した。10種類の運動能力検査は,協力者が受講した体育の授業科目内で実施した結果を,本人と担当教員の了解を得て流用した。
結果と考察
 3種の認知能力の効果を除いたSpearman順位偏相関係数を,空間的視点取得課題と運動能力検査の諸指標間で算出した。拘束条件下の仮想的身体移動時間と重心動揺矩形差の間に正の相関が示された(r=.567, p<.05)。これは,身体表象の操作が遅い者ほど閉眼時に重心動揺が増加することを意味した。また,仮想的身体移動時間での「不安定-拘束条件」の差分と重心動揺矩形差との間に,正の相関が示された(r=.602, p<.05)。これは,感覚運動刺激の増加による身体表象操作の向上が大きい者ほど,閉眼時に重心動揺が増加することを意味した。
 前者は,空間的視点取得と平衡性の正の関連を予想した仮説を支持した。一方後者は,感覚運動刺激が身体運動能力の低い者に援助的に働くとした仮説を支持した。これらは空間的視点取得における身体性の一例である。