[PA43] 説明的文章の読解における全体像把握の困難さについて
インタビューによる読解表象の理解の試み
Keywords:説明的文章, 大学生, 読解表象
問題と目的
説明的文章においては,読者が既有知識を利用して文章の理解を深め,テーマに関する予想を積極的に行うなど,トップダウン的に読み進めることが,当該の文章の理解を促進する上で望ましいと考えられている(Kintsch,1988)。しかし,トップダウン的な読み方では,内容の読解が不適切になることがある。特に舛田(2013他)は文章に記載されていない「道徳的価値」を積極的に読み取る不適切な読解に着目してきた。本研究では,これら不適切な読解をより詳細に理解するため,インタビューによる調査を行う。また文章を分割し,各部の読解と全体的な読解を分析し,読解表象の把握を試みる。これらを通じて,道徳的な読解を含む不適切な読解が,どのような読みの過程の中で生じているのかについて,探索的に把握することが本研究の目的である。
方 法
1)材料文 材料文は電車内の携帯電話の使用に関する解説記事(朝日 2008.2.6,1198字)である。現状とは異なる部分等を修正・編集した1074字を利用した。この内容を既に研究に使用しているため読者の回答を予想・分類しやすいこと,また道徳的な読解が生じることも繰り返し確認されていることから選択した。この文章を3つの内容に分割した。第1の部分(310字)では,「電車内等ではペースメーカー(PM)に配慮し,携帯の電源を切るよう言われるが,携帯の電波は本当に危険なのか」との問いが提示される。第2の部分(298字)では,「日本心臓PM友の会では,携帯の電波は影響しないとしている」として,患者自身も携帯を使用していることなどが紹介される。そして第3の部分(466字)では,PMと携帯との安全距離22㎝(2008年当時)と,その算出根拠等について触れられ,現機種ではほとんど影響がないこと,むしろその他の家電品などに携帯よりも悪影響なものがあるとまとめられる。
2)研究協力者と実施の手続き 研究協力者は文系私立大学3年生11名,2016年2-3月に実施した。筆者と十分な交流を持ってきた学生たちであるため面談の際の緊張は少なく,自分の考えを比較的自由に述べることが出来る。文章を前述の3つの部分に分けて印刷したカードを1枚ずつ提示して,最初は独力で読んでもらい,その後質問を行うことを繰り返した。各部分での質問は,1.わからない語句・部分,2.この部分を理解する上で重要な所とその理由,3.2以外で気になる所とその理由,4.各部分のまとめ,5.続きの予想の5つ,文章全体への質問は,6.全文のまとめ,7.全文への意見や感想,8.全文の信憑性,9.携帯使用に関しての意見の4つである。読解と全ての質疑応答が終了するまで平均30分を要した。
結果と考察
上記の質問から文章の読解表象に関わる2346について主に報告する。分析に際し,文章全体についての読解表象である6の特徴を捉え,更に6の材料となる2-4をそれに関連づけつつ検討した。
1)全文のまとめ(6) 最も多かった回答は,「A)携帯はもはや危険ではなく,B)むしろ他に危険なものを留意/啓蒙すべき」という2つの内容に言及したものであった(8名)。それ以外の3名は,A)の誤解1名,A)+技術の進歩への言及1名,B)のみ言及1名であった。
2)各部分の把握(2-4) 6「全文のまとめ」でA)B)2つの内容に言及した8名全員が,2「重要な所」と4「各部分のまとめ」でA)の内容に言及した。しかしB)については,3「気になる部分」としての言及が目立つ(6名)。また4にはB)に触れていないものが多い(5名)。これらから,今回の読者はA)が重要な部分であることは理解しているものの,A)だけでなく「気になる部分B)」も取り入れて全体のまとめにしようとしたことが伺える。また4を3つあわせたものが必ずしも6とは一致しないことから,ボトムアップ的な積み重ねでは全体像を把握していない可能性が示唆される。
説明的文章においては,読者が既有知識を利用して文章の理解を深め,テーマに関する予想を積極的に行うなど,トップダウン的に読み進めることが,当該の文章の理解を促進する上で望ましいと考えられている(Kintsch,1988)。しかし,トップダウン的な読み方では,内容の読解が不適切になることがある。特に舛田(2013他)は文章に記載されていない「道徳的価値」を積極的に読み取る不適切な読解に着目してきた。本研究では,これら不適切な読解をより詳細に理解するため,インタビューによる調査を行う。また文章を分割し,各部の読解と全体的な読解を分析し,読解表象の把握を試みる。これらを通じて,道徳的な読解を含む不適切な読解が,どのような読みの過程の中で生じているのかについて,探索的に把握することが本研究の目的である。
方 法
1)材料文 材料文は電車内の携帯電話の使用に関する解説記事(朝日 2008.2.6,1198字)である。現状とは異なる部分等を修正・編集した1074字を利用した。この内容を既に研究に使用しているため読者の回答を予想・分類しやすいこと,また道徳的な読解が生じることも繰り返し確認されていることから選択した。この文章を3つの内容に分割した。第1の部分(310字)では,「電車内等ではペースメーカー(PM)に配慮し,携帯の電源を切るよう言われるが,携帯の電波は本当に危険なのか」との問いが提示される。第2の部分(298字)では,「日本心臓PM友の会では,携帯の電波は影響しないとしている」として,患者自身も携帯を使用していることなどが紹介される。そして第3の部分(466字)では,PMと携帯との安全距離22㎝(2008年当時)と,その算出根拠等について触れられ,現機種ではほとんど影響がないこと,むしろその他の家電品などに携帯よりも悪影響なものがあるとまとめられる。
2)研究協力者と実施の手続き 研究協力者は文系私立大学3年生11名,2016年2-3月に実施した。筆者と十分な交流を持ってきた学生たちであるため面談の際の緊張は少なく,自分の考えを比較的自由に述べることが出来る。文章を前述の3つの部分に分けて印刷したカードを1枚ずつ提示して,最初は独力で読んでもらい,その後質問を行うことを繰り返した。各部分での質問は,1.わからない語句・部分,2.この部分を理解する上で重要な所とその理由,3.2以外で気になる所とその理由,4.各部分のまとめ,5.続きの予想の5つ,文章全体への質問は,6.全文のまとめ,7.全文への意見や感想,8.全文の信憑性,9.携帯使用に関しての意見の4つである。読解と全ての質疑応答が終了するまで平均30分を要した。
結果と考察
上記の質問から文章の読解表象に関わる2346について主に報告する。分析に際し,文章全体についての読解表象である6の特徴を捉え,更に6の材料となる2-4をそれに関連づけつつ検討した。
1)全文のまとめ(6) 最も多かった回答は,「A)携帯はもはや危険ではなく,B)むしろ他に危険なものを留意/啓蒙すべき」という2つの内容に言及したものであった(8名)。それ以外の3名は,A)の誤解1名,A)+技術の進歩への言及1名,B)のみ言及1名であった。
2)各部分の把握(2-4) 6「全文のまとめ」でA)B)2つの内容に言及した8名全員が,2「重要な所」と4「各部分のまとめ」でA)の内容に言及した。しかしB)については,3「気になる部分」としての言及が目立つ(6名)。また4にはB)に触れていないものが多い(5名)。これらから,今回の読者はA)が重要な部分であることは理解しているものの,A)だけでなく「気になる部分B)」も取り入れて全体のまとめにしようとしたことが伺える。また4を3つあわせたものが必ずしも6とは一致しないことから,ボトムアップ的な積み重ねでは全体像を把握していない可能性が示唆される。