[PA48] 女子大学生の進路決定と対人環境の関係(1)
社会的役割占有感,自己効力感が進路決定に及ぼす影響
Keywords:社会的役割占有感, 自己効力感, 進路決定
大学生にとって卒業後の進路を決定することは難題の1つである(下村,2012)。自信をもって進路を決定できる者も入れば,多くの選択肢を前に悩み決定できない者,選択に背を向けてしまう者もみられる。就職活動においては希望する進路が決まっていた方がよいが,一度決めた進路に固執しすぎず柔軟に対応した方がよい場合もある。
本研究では,進路決定に直面した女子大学生をとりまく周囲の人たち,すなわち対人環境からの影響に着目する。具体的には,社会的な役割占有感,サポート源,また就職活動への取り組みを疎外するような社会的影響を含む。まずこの報告では,これから就職活動を始める女子大学生の進路決定に関する確信度や柔軟性が,自己効力感,社会的役割占有感からどのような影響を受けるかを明らかにすることを目的とする。社会的役割占有感とは,"ある個人が占める社会的位値に関して,社会からの役割期待を認知し,その期待される役割を遂行し義務や責任を果たす一方で,社会の中に自分の居場所があるという安心感を伴う感覚"である(風間,2015)。自己効力感,社会的役割占有感ともに進路決定の確信度を高めることが予想される。柔軟性についてもあわせて検討する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学3年生90名。平均年齢20.9歳(SD=0.7)。2016年1月中旬に集団実施。
質問紙の内容 1)進路決定の確信度:「将来やりたい仕事をはっきり決めている」,「自分の職業選択には確信を持っている」など6項目を作成(7件法)。2)進路決定の柔軟性:「一度,希望の職業や仕事を決めたら,とことんそれにこだわりたい(逆転)」,「就職活動中でも臨機応変に進路希望を変更することが出来ると思う」など6項目を作成(7件法)。3)社会的役割占有感:風間(2015)による13項目(7件法)。4)自己効力感:成田ら(1995)による特性自己効力感尺度。調査用紙には他に,5)7種のサポート源の人数,6)阻害的対人環境(10項目,7件法),7)促進予防焦点尺度(尾崎・唐澤,2011)などを含めた。本報告の分析対象は1)~4)である。
結 果
進路決定の確信度・柔軟性 進路決定の確信度6項目について因子分析(主因子法)を行い1因子であることを確認の上,評定平均値を尺度得点とした(α=.943)。柔軟性6項目についても因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,固有値1.0を基準に2因子を抽出した。第1因子は「柔軟性」(4項目α=.693),第2因子は,一度決めても進路が定まらないことを示す「浮動性」(相関係数r=.581)と解釈した。評定平均値を算出し尺度得点とした。平均値は確信度3.61(SD=1.59),柔軟性4.38(SD=1.04),浮動性3.56(SD=1.30)。
役割占有感 役割占有感13項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。3項目を除外の上,固有値1.0以上の基準では2因子だったが予め想定された役割遂行感(3項目α=.847),社会的居場所感(4項目α=.831),役割期待認知(3項目α=.809)に該当する3因子を抽出した。評定平均値を算出し尺度得点とした。平均値は,役割遂行感3.72(SD=1.11),居場所感4.50(SD=1.05),役割期待認知4.50(SD=1.12)。
自己効力感,役割占有感が進路決定の確信度に及ぼす影響 自己効力感,社会的役割占有感の各因子が進路決定確信度に及ぼす影響を検討するためにパス解析を行った。その結果,自己効力感が高いほど役割期待認知,役割遂行感が高まり,それらが社会的居場所感を高め,結果,進路決定の確信度も高まるという過程が示された(図1)。自己効力感から進路決定確信度への直接のパスは有意ではなかった。柔軟性,浮動性に関しても同様の分析を行ったが,自己効力感,社会的役割占有感からの有意な影響はみられなかった。
考 察
自己効力感は直接にではなく役割占有感を経由して進路決定の確信度を高めている。社会的役割を占めている感覚を持つことは,新たな役割獲得の準備状態として機能していると考えられる。
(本研究は平成27年度十文字学園女子大学プロジェクト研究費の助成を受けた)
本研究では,進路決定に直面した女子大学生をとりまく周囲の人たち,すなわち対人環境からの影響に着目する。具体的には,社会的な役割占有感,サポート源,また就職活動への取り組みを疎外するような社会的影響を含む。まずこの報告では,これから就職活動を始める女子大学生の進路決定に関する確信度や柔軟性が,自己効力感,社会的役割占有感からどのような影響を受けるかを明らかにすることを目的とする。社会的役割占有感とは,"ある個人が占める社会的位値に関して,社会からの役割期待を認知し,その期待される役割を遂行し義務や責任を果たす一方で,社会の中に自分の居場所があるという安心感を伴う感覚"である(風間,2015)。自己効力感,社会的役割占有感ともに進路決定の確信度を高めることが予想される。柔軟性についてもあわせて検討する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学3年生90名。平均年齢20.9歳(SD=0.7)。2016年1月中旬に集団実施。
質問紙の内容 1)進路決定の確信度:「将来やりたい仕事をはっきり決めている」,「自分の職業選択には確信を持っている」など6項目を作成(7件法)。2)進路決定の柔軟性:「一度,希望の職業や仕事を決めたら,とことんそれにこだわりたい(逆転)」,「就職活動中でも臨機応変に進路希望を変更することが出来ると思う」など6項目を作成(7件法)。3)社会的役割占有感:風間(2015)による13項目(7件法)。4)自己効力感:成田ら(1995)による特性自己効力感尺度。調査用紙には他に,5)7種のサポート源の人数,6)阻害的対人環境(10項目,7件法),7)促進予防焦点尺度(尾崎・唐澤,2011)などを含めた。本報告の分析対象は1)~4)である。
結 果
進路決定の確信度・柔軟性 進路決定の確信度6項目について因子分析(主因子法)を行い1因子であることを確認の上,評定平均値を尺度得点とした(α=.943)。柔軟性6項目についても因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,固有値1.0を基準に2因子を抽出した。第1因子は「柔軟性」(4項目α=.693),第2因子は,一度決めても進路が定まらないことを示す「浮動性」(相関係数r=.581)と解釈した。評定平均値を算出し尺度得点とした。平均値は確信度3.61(SD=1.59),柔軟性4.38(SD=1.04),浮動性3.56(SD=1.30)。
役割占有感 役割占有感13項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。3項目を除外の上,固有値1.0以上の基準では2因子だったが予め想定された役割遂行感(3項目α=.847),社会的居場所感(4項目α=.831),役割期待認知(3項目α=.809)に該当する3因子を抽出した。評定平均値を算出し尺度得点とした。平均値は,役割遂行感3.72(SD=1.11),居場所感4.50(SD=1.05),役割期待認知4.50(SD=1.12)。
自己効力感,役割占有感が進路決定の確信度に及ぼす影響 自己効力感,社会的役割占有感の各因子が進路決定確信度に及ぼす影響を検討するためにパス解析を行った。その結果,自己効力感が高いほど役割期待認知,役割遂行感が高まり,それらが社会的居場所感を高め,結果,進路決定の確信度も高まるという過程が示された(図1)。自己効力感から進路決定確信度への直接のパスは有意ではなかった。柔軟性,浮動性に関しても同様の分析を行ったが,自己効力感,社会的役割占有感からの有意な影響はみられなかった。
考 察
自己効力感は直接にではなく役割占有感を経由して進路決定の確信度を高めている。社会的役割を占めている感覚を持つことは,新たな役割獲得の準備状態として機能していると考えられる。
(本研究は平成27年度十文字学園女子大学プロジェクト研究費の助成を受けた)