[PA51] 外国につながる子どもの言語と文化
日本在住の国際結婚家庭の事例
Keywords:言語習得, 文化習得, 日系国際児
問 題
外国につながる子どもは,誕生時から,あるいは発達過程のなかで,日本以外の国となんらかのつながりをもつ(もったことのある)子どもたちであり,たとえば,外国人児童生徒,国際結婚の親をもつ子ども,海外帰国生などである。近年,日本の学校においても,これらの子どもたちの増加が報告されている。外国人児童生徒の言語や文化に関しては,隣接領域の教育社会学や異文化間教育学など(例:志水・他,2013)に比べ,教育心理学においては,学校教育における必要性にもかかわらず,あまり注目されてこなかった。
本発表では,外国につながる子どもたちのなかでも,両親の一方が日本人,他方が外国人の国際結婚家庭の子どもたち(日系国際児)を事例としてとりあげ,親の視点から,言語や文化の習得およびその要因について検討する。
なお,日系国際児数は,1987年には10,022人で出生総数の0.7%に過ぎなかったが,その後,1990年代には,約13,700人から約22,100人(1.1%から1.8%),2000年代以降は,増減を繰り返しながら,約19,500人から約24,200人台(1.9%から2.2%)を推移している。また,日本国内および海外を合わせた,日本人の出生総数に占める日系国際児の割合は,2010年代には,約3%(約30,000人から31,000人程度)になっている(人口動態統計)。
方 法
調査参加者は,調査目的,匿名性の保持,守秘義務等について十分に説明をおこなった上で,調査への承諾が得られた,日本(東京およびその近郊)在住で日本人と結婚したインドネシア人(Bali-Hindu)で子どもがいる6人(男性4人,女性2人)。日本滞在期間は11-16年で,30代から40代。子ども(男子3人,女子3人)は日本の公立学校に通学(小学生から高校生)。一人を除き,2013-2014年に半構造化面接をおこなった(70分から180分)。主な内容は,家庭環境,子どもの言語・文化,子どもの教育についての考え方である。調査参加者は日本語の日常会話には支障はなかった。また,東京インドネシア学校で催された新年会では参与観察をおこなった。
結果と考察
1.家庭内の言語使用と子どもの言語
全家族とも,家庭内の主言語は日本語であり,子どもは日本語のみ習得し,インドネシア語は継承していなかった。外国語としては,むしろ,英語が習得される可能性が高かった。なお,日本人配偶者は一人を除いて,インドネシア語を話せなかった。
子どもが日本語だけを習得し,インドネシア語を継承していないのは,「居住地の規定性」(鈴木,1997,など)や「言語の威信性(国際社会における言語間の序列)」(山本,2007)のためと考えられる。すなわち,子どもが日本の学校に在籍している場合は,親がなんらかの教育的介入をしない限り,居住地の言語である日本語が優位に習得され,また,インドネシア語と比較した場合には日本語の方が国際社会のなかで有用性が高いと評価されているため日本語が習得される。さらに,親(特に外国人の親)のインドネシア語継承への熱意や努力の不十分さ,日本におけるインドネシア語継承の機会(機関)の不足(鈴木,2010),日本人の祖父母との親密な関係よる日本語習得の促進などもあげられる。
2.家庭内の文化と子どもの文化
全家族とも,家庭内は日本文化であり,子どもは日本人として成育しており,インドネシア文化(Bali-Hindu)をほとんど継承していなかった。2家族だけは,家のなかに神棚があり,インドネシア人の親はお供えやお祈りをすることもあった。一時帰国によって,子どもは観光客レベルではインドネシア文化を理解しているようだった。
日本に居住している限り,インドネシア文化(Bali-Hindu)は積極的には継承されない傾向がある(「居住地の優位性」)が,インドネシア人の親は子どもに機会があればインドネシア文化を継承させたいという希望をもっていた。しかしながら,インドネシア人の親が母親か父親かによって違いがみられた。すなわち,インドネシアの法律では,女性は,結婚後,夫に従うことになっているため,母親は子どものインドネシア文化の継承について,強い期待はないようにみうけられた。
今後,調査参加者を増やすことによって,本研究で得られた知見をさらに明確にする必要がある。
(本研究は,新田文輝氏と竹下修子氏との共同研究の一部である。また,本研究の一部は,JSPS科学研究費24652177等の助成を受けた。)
外国につながる子どもは,誕生時から,あるいは発達過程のなかで,日本以外の国となんらかのつながりをもつ(もったことのある)子どもたちであり,たとえば,外国人児童生徒,国際結婚の親をもつ子ども,海外帰国生などである。近年,日本の学校においても,これらの子どもたちの増加が報告されている。外国人児童生徒の言語や文化に関しては,隣接領域の教育社会学や異文化間教育学など(例:志水・他,2013)に比べ,教育心理学においては,学校教育における必要性にもかかわらず,あまり注目されてこなかった。
本発表では,外国につながる子どもたちのなかでも,両親の一方が日本人,他方が外国人の国際結婚家庭の子どもたち(日系国際児)を事例としてとりあげ,親の視点から,言語や文化の習得およびその要因について検討する。
なお,日系国際児数は,1987年には10,022人で出生総数の0.7%に過ぎなかったが,その後,1990年代には,約13,700人から約22,100人(1.1%から1.8%),2000年代以降は,増減を繰り返しながら,約19,500人から約24,200人台(1.9%から2.2%)を推移している。また,日本国内および海外を合わせた,日本人の出生総数に占める日系国際児の割合は,2010年代には,約3%(約30,000人から31,000人程度)になっている(人口動態統計)。
方 法
調査参加者は,調査目的,匿名性の保持,守秘義務等について十分に説明をおこなった上で,調査への承諾が得られた,日本(東京およびその近郊)在住で日本人と結婚したインドネシア人(Bali-Hindu)で子どもがいる6人(男性4人,女性2人)。日本滞在期間は11-16年で,30代から40代。子ども(男子3人,女子3人)は日本の公立学校に通学(小学生から高校生)。一人を除き,2013-2014年に半構造化面接をおこなった(70分から180分)。主な内容は,家庭環境,子どもの言語・文化,子どもの教育についての考え方である。調査参加者は日本語の日常会話には支障はなかった。また,東京インドネシア学校で催された新年会では参与観察をおこなった。
結果と考察
1.家庭内の言語使用と子どもの言語
全家族とも,家庭内の主言語は日本語であり,子どもは日本語のみ習得し,インドネシア語は継承していなかった。外国語としては,むしろ,英語が習得される可能性が高かった。なお,日本人配偶者は一人を除いて,インドネシア語を話せなかった。
子どもが日本語だけを習得し,インドネシア語を継承していないのは,「居住地の規定性」(鈴木,1997,など)や「言語の威信性(国際社会における言語間の序列)」(山本,2007)のためと考えられる。すなわち,子どもが日本の学校に在籍している場合は,親がなんらかの教育的介入をしない限り,居住地の言語である日本語が優位に習得され,また,インドネシア語と比較した場合には日本語の方が国際社会のなかで有用性が高いと評価されているため日本語が習得される。さらに,親(特に外国人の親)のインドネシア語継承への熱意や努力の不十分さ,日本におけるインドネシア語継承の機会(機関)の不足(鈴木,2010),日本人の祖父母との親密な関係よる日本語習得の促進などもあげられる。
2.家庭内の文化と子どもの文化
全家族とも,家庭内は日本文化であり,子どもは日本人として成育しており,インドネシア文化(Bali-Hindu)をほとんど継承していなかった。2家族だけは,家のなかに神棚があり,インドネシア人の親はお供えやお祈りをすることもあった。一時帰国によって,子どもは観光客レベルではインドネシア文化を理解しているようだった。
日本に居住している限り,インドネシア文化(Bali-Hindu)は積極的には継承されない傾向がある(「居住地の優位性」)が,インドネシア人の親は子どもに機会があればインドネシア文化を継承させたいという希望をもっていた。しかしながら,インドネシア人の親が母親か父親かによって違いがみられた。すなわち,インドネシアの法律では,女性は,結婚後,夫に従うことになっているため,母親は子どものインドネシア文化の継承について,強い期待はないようにみうけられた。
今後,調査参加者を増やすことによって,本研究で得られた知見をさらに明確にする必要がある。
(本研究は,新田文輝氏と竹下修子氏との共同研究の一部である。また,本研究の一部は,JSPS科学研究費24652177等の助成を受けた。)