[PA67] 大学における発達障害支援
障害学生と健常学生の相互理解を深める授業を通して
キーワード:発達障害, 大学生, 授業
問題と目的
大学に在籍する発達障害学生は増加の一途である一方,支援を受けている学生の割合は減少しており,支援が追いつかない状況が生じている(日本学生支援機構,2015)。筆者らは,大学における発達障害学生支援の手段の一つとして,発達障害学生が自己認識を深め,大学生活への適応に必要なスキルを獲得することを目的とした授業を,大学の教養課程に設置した。この授業は同時に,健常学生が発達障害学生の特性や困難を知り,相互に大学コミュニティの一員としての意識を深めることや,健常学生自身の自己認識や大学適応スキルを深めることを目指した。本研究では,発達障害学生,健常学生における,この授業の効果を検討する。
方 法
研究協力者:W大学の共通教養科目「発達障がいと大学」の受講学生58名。診断の有無は問わないが,自身が発達障害であることを授業担当者に報告した13名を含む。
研究方法;初回と最終回の授業において,発達障害に対する自己理解や他者との関わりに関する質問紙を実施し,授業前後の協力者の変化を健常学生,発達障害学生ごとに比較した。質問の内容はFig.1の通り。併せて,授業の感想の自由記述も分析の対象とした。
授業の概要:授業は半期15回で,各回の授業では発達障がい学生にとってしばしば課題となるスキルとして「時間管理スキル」「身辺管理スキル」「認知様式を知る・生かす」「感情管理スキル」「コミュニケーションスキル」「働くこと」「自分トリセツを作る・発表する」などを扱った。これらのスキルに関する発達障害の特性についての解説と,自己理解及び対応スキルに関するグループワークとを行うことを授業の中心とした。
結果と考察
授業前後の質問紙への回答をFig.1に示した。障害学生は,「生活をスムーズにするための工夫をしている」の項目が授業終了後有意に減少したが,スキルや自己理解については,有意ではないがおおむね授業終了後に上昇した。自由記述からは「発達障害について諦めること多かったが,この授業を通じて理解を求めてもおかしくないと思うようになった。」などの感想が見られ,授業による成果がある程度あったと言えよう。
受講学生全体では,「自分の課題への対応方法について考えることができる」「卒業後に役立ちそうなスキルを持っている」「発達障害についての知識を十分持っている」「自分の苦手なことについて周囲に理解してもらいたい」などの項目で受講後に有意に上昇した。健常学生が発達障害学生についての知識を実感的に深めることを通して,自身の課題に自覚的になり,自他の弱さを表出することに対して寛容になることが示された。健常学生にとって,自分とは異なる認知特性や感情様式を持つ発達障害学生と接することで,多様性を理解することにつながると考えられた。
また,発達障害学生に対応すべく行ったライフスキルや自己理解に関する支援が,健常学生にとってより大きな効果を示すことが示唆された。発達障害学生と健常学生のニーズの種類が,程度は異なるものの共通することが推測された。
大学に在籍する発達障害学生は増加の一途である一方,支援を受けている学生の割合は減少しており,支援が追いつかない状況が生じている(日本学生支援機構,2015)。筆者らは,大学における発達障害学生支援の手段の一つとして,発達障害学生が自己認識を深め,大学生活への適応に必要なスキルを獲得することを目的とした授業を,大学の教養課程に設置した。この授業は同時に,健常学生が発達障害学生の特性や困難を知り,相互に大学コミュニティの一員としての意識を深めることや,健常学生自身の自己認識や大学適応スキルを深めることを目指した。本研究では,発達障害学生,健常学生における,この授業の効果を検討する。
方 法
研究協力者:W大学の共通教養科目「発達障がいと大学」の受講学生58名。診断の有無は問わないが,自身が発達障害であることを授業担当者に報告した13名を含む。
研究方法;初回と最終回の授業において,発達障害に対する自己理解や他者との関わりに関する質問紙を実施し,授業前後の協力者の変化を健常学生,発達障害学生ごとに比較した。質問の内容はFig.1の通り。併せて,授業の感想の自由記述も分析の対象とした。
授業の概要:授業は半期15回で,各回の授業では発達障がい学生にとってしばしば課題となるスキルとして「時間管理スキル」「身辺管理スキル」「認知様式を知る・生かす」「感情管理スキル」「コミュニケーションスキル」「働くこと」「自分トリセツを作る・発表する」などを扱った。これらのスキルに関する発達障害の特性についての解説と,自己理解及び対応スキルに関するグループワークとを行うことを授業の中心とした。
結果と考察
授業前後の質問紙への回答をFig.1に示した。障害学生は,「生活をスムーズにするための工夫をしている」の項目が授業終了後有意に減少したが,スキルや自己理解については,有意ではないがおおむね授業終了後に上昇した。自由記述からは「発達障害について諦めること多かったが,この授業を通じて理解を求めてもおかしくないと思うようになった。」などの感想が見られ,授業による成果がある程度あったと言えよう。
受講学生全体では,「自分の課題への対応方法について考えることができる」「卒業後に役立ちそうなスキルを持っている」「発達障害についての知識を十分持っている」「自分の苦手なことについて周囲に理解してもらいたい」などの項目で受講後に有意に上昇した。健常学生が発達障害学生についての知識を実感的に深めることを通して,自身の課題に自覚的になり,自他の弱さを表出することに対して寛容になることが示された。健常学生にとって,自分とは異なる認知特性や感情様式を持つ発達障害学生と接することで,多様性を理解することにつながると考えられた。
また,発達障害学生に対応すべく行ったライフスキルや自己理解に関する支援が,健常学生にとってより大きな効果を示すことが示唆された。発達障害学生と健常学生のニーズの種類が,程度は異なるものの共通することが推測された。