[PA80] 東日本大震災後の学校管理職・教師の体験過程
ケーススタディ法を用いて
キーワード:東日本大震災, 災害救援者, 体験過程
問題と目的
東日本大震災では,学校管理職及び教師は,自らも被災しながら,児童生徒やその養育者の心身のケアにあたっている。特に学校の管理職は限られた情報を元に,様々な困難に対して決断をしてきていると推測される。一般に災害救援者も広域災害の後に外傷性ストレス症状を示すことが明らかになっているが(松井,2012),災害救援者が災害時にどのような体験をして,どのようなサポートを必要としているのかを調査する研究は少ない。本研究では,福島県内の学校管理職及び教員を対象に面接調査を実施し,以下の2つのリサーチ・クエッション(以下,RQ)に答えることを目的とする:QR1学校管理職及び教員は災害時・災害後どのような体験をしたのか,QR2その体験のなかでどのようなサポートを必要としていたのか。
方 法
調査協力者 被災当時福島県内の小学校で勤務していた管理職・教員6名。女性3名,男性3名。60代3名,40代1名,30代1名,20代1名。3名は震災時,津波で校舎が壊滅的な被害を受けた学校に勤務し,震災後1年間別の学校を間借りする。2名は原発で避難を余儀なくされた地区の近隣の学校に勤務し,別の学校に兼務として派遣される。1名は,原発事故による避難区域の学校からくる子どもや教員を多く受け入れた学校で勤務。
調査手続き 研究協力者のプライバシーを保つことのできる場所で,1時間~1時間半の半構造化面接を実施した。守秘義務や参加の任意性,録音の可否について説明し,書面にて同意を得た。
調査内容 2つのQRを明らかにするために,以下の5項目をたずねた。
1.被災直後の体験はどのようなものであったか
2.被災直後にどのようなサポートがあったか
3.被災直後から現在までの体験
4.被災直後から現在までに受けたサポート
5.被災直後から現在までに,同じ職種間でどのようなサポートがあれば良かったか
結 果
調査内容の5項目についてコーディング法(Merrian,1998; 堀・久保・成島,2004)を用いて分析を行った。RQ1(どのような体験をしたのか)について,5カテゴリーが得られた:1)震災直後の体験(子どもたちの避難誘導,学校や地域の壊滅的な被害の目撃,避難所の運営補助,学校再開への準備,卒業式・入学式の運営,学校の移転,兼務辞令による移動),2)その後の中長期的体験(放射線と向き合う,間借りした学校での学校運営,原発避難区域からの避難者の受入),3)職場や家族のソーシャルサポート(管理職では校長会やPTA会長とのつながり,若手・中堅の教師の間では同年代の同僚とのつながり,家族からのサポート),4)同僚支援者としての体験。
RQ2(有効であったサポート,どのようなサポートが必要か)について,4カテゴリーが得られた:1)子どもに対するサポートが自分たちへのサポートにつながる(本の寄贈,コンサート,全国からの贈り物),2)同年代や同じ立場の教師同士の自然発生的なサポート(一緒に食事する,飲みに行く,電話する),3)時間や場所などの物理的サポート(いつもより時間があった,同僚と話をする場所があった),4)いろいろな立場の人からのサポート(放射線を測定する専門家のサポート,消防団・郵便局の人たちが学校のものを運ぶのに自然に集まってくれたこと)。
考 察
以上の結果から,震災直後の体験,直後から中長期的な体験,原発による兼務の経験,同僚支援者としての経験の語りが得られた。いずれの体験でも,そのときできることを懸命に取り組むことで今があるという経験が語られた。ソーシャルサポートは,自然発生的に多様なつながりが生まれてくることが示されたが,一方でこうした事態を想定することがこれまでなかったという語りも得られ,惨事ストレスの概念や惨事ストレスの予防という視点を備えておく必要性も示唆された。
東日本大震災では,学校管理職及び教師は,自らも被災しながら,児童生徒やその養育者の心身のケアにあたっている。特に学校の管理職は限られた情報を元に,様々な困難に対して決断をしてきていると推測される。一般に災害救援者も広域災害の後に外傷性ストレス症状を示すことが明らかになっているが(松井,2012),災害救援者が災害時にどのような体験をして,どのようなサポートを必要としているのかを調査する研究は少ない。本研究では,福島県内の学校管理職及び教員を対象に面接調査を実施し,以下の2つのリサーチ・クエッション(以下,RQ)に答えることを目的とする:QR1学校管理職及び教員は災害時・災害後どのような体験をしたのか,QR2その体験のなかでどのようなサポートを必要としていたのか。
方 法
調査協力者 被災当時福島県内の小学校で勤務していた管理職・教員6名。女性3名,男性3名。60代3名,40代1名,30代1名,20代1名。3名は震災時,津波で校舎が壊滅的な被害を受けた学校に勤務し,震災後1年間別の学校を間借りする。2名は原発で避難を余儀なくされた地区の近隣の学校に勤務し,別の学校に兼務として派遣される。1名は,原発事故による避難区域の学校からくる子どもや教員を多く受け入れた学校で勤務。
調査手続き 研究協力者のプライバシーを保つことのできる場所で,1時間~1時間半の半構造化面接を実施した。守秘義務や参加の任意性,録音の可否について説明し,書面にて同意を得た。
調査内容 2つのQRを明らかにするために,以下の5項目をたずねた。
1.被災直後の体験はどのようなものであったか
2.被災直後にどのようなサポートがあったか
3.被災直後から現在までの体験
4.被災直後から現在までに受けたサポート
5.被災直後から現在までに,同じ職種間でどのようなサポートがあれば良かったか
結 果
調査内容の5項目についてコーディング法(Merrian,1998; 堀・久保・成島,2004)を用いて分析を行った。RQ1(どのような体験をしたのか)について,5カテゴリーが得られた:1)震災直後の体験(子どもたちの避難誘導,学校や地域の壊滅的な被害の目撃,避難所の運営補助,学校再開への準備,卒業式・入学式の運営,学校の移転,兼務辞令による移動),2)その後の中長期的体験(放射線と向き合う,間借りした学校での学校運営,原発避難区域からの避難者の受入),3)職場や家族のソーシャルサポート(管理職では校長会やPTA会長とのつながり,若手・中堅の教師の間では同年代の同僚とのつながり,家族からのサポート),4)同僚支援者としての体験。
RQ2(有効であったサポート,どのようなサポートが必要か)について,4カテゴリーが得られた:1)子どもに対するサポートが自分たちへのサポートにつながる(本の寄贈,コンサート,全国からの贈り物),2)同年代や同じ立場の教師同士の自然発生的なサポート(一緒に食事する,飲みに行く,電話する),3)時間や場所などの物理的サポート(いつもより時間があった,同僚と話をする場所があった),4)いろいろな立場の人からのサポート(放射線を測定する専門家のサポート,消防団・郵便局の人たちが学校のものを運ぶのに自然に集まってくれたこと)。
考 察
以上の結果から,震災直後の体験,直後から中長期的な体験,原発による兼務の経験,同僚支援者としての経験の語りが得られた。いずれの体験でも,そのときできることを懸命に取り組むことで今があるという経験が語られた。ソーシャルサポートは,自然発生的に多様なつながりが生まれてくることが示されたが,一方でこうした事態を想定することがこれまでなかったという語りも得られ,惨事ストレスの概念や惨事ストレスの予防という視点を備えておく必要性も示唆された。