The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PA(65-84)

ポスター発表 PA(65-84)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PA81] 教師の成長を促す研修教材「クロスロード 教育相談編」における教師の葛藤と判断傾向

網谷綾香 (大阪成蹊短期大学)

Keywords:教師, 研修教材, 教育相談

問題と目的
 「クロスロード 教育相談編」は2015年7月に完成した教師向けの研修用教材である。教育相談上の問題に真摯に対峙し,悩み,考え続ける教師の成長を支えるための1つのツールとして開発した。「クロスロード」は,矢守・吉川・網代(2005)が防災対応シミュレーションゲームとして開発した手法で,本教材ではチームクロスロードと覚書を交わし許可を得てその手法を援用している。対象は主に小・中・高校の教師で,教育相談に関連する研修会での使用を想定している。参加者は5名程度のグループを作り,トランプ大のカードを使用したシミュレーションゲームを行いながら教育相談について対話を深めていく。試行版を用いた研修では,多様な考え方に触れることでの気づきなど研修の効果が確認されている(網谷,2015)。本研究では,開発した教材の特性について把握し研修における効果的な使用のあり方について検討するために,「クロスロード 教育相談編」の質問紙版を実施し,その回答傾向を分析した。
方   法
 2015年4月から8月に,A県が主催する教師対象の研修会で質問紙を配布し,無記名により回答を求めた。回答に不備のない260名の教師を有効回答者とした(小学校104名,中学校86名,高等学校70名)。男性163名,女性97名。
 質問紙の内容:「クロスロード 教育相談編」の問題カードに記載してある36の葛藤場面を呈示し,自分が教育相談上で葛藤を体験した時にどのような判断をするかについて,担任や教育相談担当など,それぞれの立場になったと仮定しYES,NOのいずれかで回答を求めた。また,36項目の中で,特に判断が難しく迷った葛藤場面を3つ選択させ,なぜその葛藤場面で迷ったのか,最終的になぜその判断をしたのかについて尋ねた。
結果と考察
 判断傾向を分析した結果,9割以上がYESまたはNOと判断し,非常に極端な回答の偏りがみられたものが4場面あった。このような項目は,実際に「クロスロード 教育相談編」を使ってゲームを行った場合に,グループの全員がYESまたはNOと判断し,それが“多数派意見である”と予測する可能性もある。これらの意見が偏りやすい問題カードをゲームで使用する際には,「あるべき論」に終わらないディスカッションが促進されるよう配慮する必要がある。
 一方で,多くの葛藤場面において意見が割れる傾向にあり,これらの場面を扱った問題カードでは,ゲームにおいてYESとNOの双方の意見が出やすいと考えられるため,活発なディスカッションが行われると予想できる。もっとも判断が難しかったとされたのは,以下の葛藤場面であった。

 あなたは教育相談担当  もうすぐ卒業式。ある女子生徒が突然,「自分は男だから男子の制服で卒業式に出席したい」と訴えてきた。管理職に相談すると,「それは認められない。本来の制服で出席するよう説得してほしい」という。あなたは女子生徒を説得する?
YES(説得する)/NO(説得しない)

 この場面の回答傾向としては,YESが66.9%,Noが33.1%であった。YESと判断した者の意見としては,「その子の意思は尊重したいが,他の生徒や保護者の理解を得るには時間が十分に取れない」,「卒業式は儀式だから,混乱が起きてもいけない」などの意見があった。一方,NOと判断した者からは,「基本的人権は尊重していくべきだと思う」,「周囲の目や理解が得られるかどうか悩んだが,卒業はある区切りをつける機会と考え,支援したいと考えた」などの意見があった。
 その他のカードについても,回答者のYES/NOの判断の背景にどのような考え方があるのか,また,どのような状況を想定して判断しているのかなどについて,多くの意見を得ることができた。
 以上のように,「クロスロード 教育相談編」質問紙版を実施することで,教師の一般的な判断傾向に加え,具体的にどのように葛藤しやすいのか,どのような意見があるのかについての基礎的な資料を得ることができた。ゲームを実施した後に,ディスカッションをうながすための材料の一つとしてこれらの資料を提供することも非常に有意義であろう。今後は学校種別,立場別(管理職,教育相談担当,養護教諭,担任など)の判断傾向の違いについてもより詳細に分析を行い,研修における配慮事項を検討する。さらに,本教材を用いた研修を重ね,その効果について検証することが必要であろう。
※本研究は,学術振興会の科研費・若手研究(B)の助成を受けて実施した(課題番号:23730613)。