The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(65-84)

ポスター発表 PA(65-84)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PA83] 情報処理教育における「一人TT」授業の開発と評価

授業者が解説するビデオ教材の利用がもたらす効果

小川亮1, 上木佐季子#2 (1.富山大学, 2.富山大学)

Keywords:情報処理教育, 授業者ビデオ

はじめに
 コンピュータを一人一台利用できる教室環境での授業では,学生の作業状況(画面の状況)が講師席から観察できないため,授業補助者と連携して授業を進行する必要がある。最大の問題は,授業者に学生の作業の進行速度ならびにそこから読み取れる受講者の授業内容に対する理解の程度が捉えられづらく,授業を最適のスピードで進めたり,説明を補足したりすることを難しくしている点である。
 本研究では,このような状況を改善する方策として,授業者自身が作成した授業ビデオを作成し,そのビデオ教材を受講生に提示することで,授業者にかかる説明しながら授業を進行するという認知的負荷を減少させることで,受講者の状態に対して配慮することを可能にする授業形態(一人TT)の効果を検討した。
方   法
授業実施時期:H27年4月初旬から7月末
場所:T県内の国立大学法人T大学の総合情報基盤センター端末室
研究参加者:T大学の4つの学部の1年生計 名(男112名,女118名)。学部毎に41〜51名のクラスを構成していた。2クラスの学部があり,計5クラスの学生が参加した。
授業者:T大学教員1名。情報処理の授業を毎年5クラス程度担当している。
授業補助者:大学の費用で雇われて授業の補助を担当している大学院生(TA4名)ならびに学部学生(SA1名)。
研究者:T大学教員1名。後述のビデオ教材の作成の補助ならびに,調査用紙の作成に関わった。
〈授業解説ビデオ〉
 教科書(富山大学情報処理教育部会情報処理テキストワーキンググループ,2015)の内容に沿って,授業中の教員の説明を事前に録画したもの。ビデオを利用する時は,授業者がビデオ画面を教室前方のスクリーンに拡大提示し,音声を実習室の拡声装置で提示した。ビデオ教材を利用しない授業も数回設定し,その時は講師が通常の授業通りに直接解説を行い,授業を進行させた。
〈質問紙調査〉
・コンピュータ使用経験調査
  大学入学前のコンピュータ利用に関する質問,現時点でのコンピュータ等の利用スキルの自己評価などからなる質問紙調査
・授業補助者への質問紙調査
  「映像利用に気づいたか」「授業が分かりやすくなったか」「授業がスムースに進んでいたか」など9つの質問に対して,ビデオ教材を利用した授業と,利用しなかった授業に分けて回答してもらう調査。
結   果
〈コンピュータ操作スキルの自己評価〉
 基本的なスキルから中級程度のスキルまで26項目について5段階評定で回答を求めた。4月と7月の評価を対応のあるt検定で比較したところ,すべての項目で統計的に有意な評価の上昇が認められた。因子分析(最尤法/Promax回転)を行い,4因子にまとめたところ,第1因子は「基本的なネット利用」因子,第2因子は「専門的応用的技能」,第3因子は「メディア活用技能」,第4因子は「基本アプリ利用技能」であった。因子得点を,対応のあるt検定で分析した結果,すべての因子において4月より7月の方が,評価が高くなっていた(p<0.01)。
〈授業補助者によるビデオ利用授業の評価〉
 授業ビデオを利用した授業と利用しなかった授業の比較を授業終了後に,各クラスの授業補助者に求めたところ,「授業がスムースに進んでいた」,「講師が授業を進めやすくなっていた」の2項目について,ビデオ利用授業の方が高い評価を受けた(2項目とも5%水準での有意差)。「講師による補足説明が適切になされていた」については有意傾向が認められた。
考   察
 授業者ビデオを利用した授業を実施した結果,事前事後でコンピュータ利用スキルのすべての因子について有意に評価が高まった。また,授業者ビデオを利用した回と利用しなかった回を比べて,授業補助者に質問した調査では,9項目中2項目で有意な差が認められた。これらのことから,授業者ビデオを利用した授業は,学習者のスキル(の自己評価)を高めており,授業者ビデオを利用することで,(授業補助者から見て)講師が授業を進めやすくなり,授業がよりスムースに進行していたという評価を得ることができた。