日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB13] 身体的痛みについての理解の発達

中島伸子1, 小畑綾香#2 (1.新潟大学, 2.北越銀行)

キーワード:認知発達, 素朴生物学, 痛みの理解

 痛みについての子どもの理解に関する従来の発達研究では,幼児の理解の未熟性が強調されてきた。例えば,幼児は,痛みの原因を悪い行いの罰(内在的正義)と捉える傾向が強いこと,外部的「痛み」の理解は容易だが,内部的「痛み」の理解は難しいことなどが指摘されている。しかし,病気理解,身体理解についての幼児の有能性を示した近年の素朴生物学研究を踏まえると,こうした結論付けは時期尚早である。そこで本研究は,子どもになじみやすい調査手法を工夫した上で,痛みの原因と対処法についての幼児の理解を検討することを目的とする。
研究1:痛みの原因についての理解
1.方法
対象者:年中児(平均年齢4歳8ヶ月),年長児(平均年齢5歳3ヶ月),各32名。男女半数ずつ。
扱う痛みの種類:身体内部の痛み(喉,腹,頭,歯),身体外部の痛み(肘,指,足,膝)の8種
手続き:個別面接を行った。各部位に痛みを感じている虚構の人物画を提示し,痛みの原因について自由回答させた(例;タロウくんはなぜ指がいたくなったのかな?)。その後,各部位の痛みの原因について,正答となる適切な身体行動的原因(例;はさみで指を切った)と誤答となる別の原因(内在的正義{弟に意地悪をしたなど}or ありえない身体行動的原因{壁に膝をぶつけたなど})の2選択肢を示す選択課題を行った。半数の対象者に対しては内在的正義(条件1),残り半数にはありえない身体行動的原因(条件2)をペアの一方として提示し,より正しいと思う原因を選ばせた。8種の痛みの提示順序は対象者ごとに,原因選択肢の提示順序は課題ごとにランダム提示した。
2.結果
 痛みの原因についての自由回答では,両年齢ともに内在的正義ないしは心理的要因に関するものはほとんどみられなかった。また痛みの所在により想定される原因を区別することが示された。外的痛みの原因としては,「外部・物理・行動的要因」を挙げる場合が反応の50%前後を占めたのに対し,内的痛みの原因としては内的な原因(「内部・生物要因」及び「内部・物理要因」)を挙げる場合が多かった。選択課題においても両年齢群とも内在的正義や不適切な原因よりも適切な身体行動原因を選択する傾向が有意に高い場合がほとんどだった。なお課題数を減らして,年少児を対象に実施した追加調査では,自由回答ではほぼ同様の結果が得られた。選択課題については,内在的正義や不適切な原因よりも適切な身体行動原因を選択する割合は有意傾向にとどまった。
研究2:痛みへの対処法についての理解
1.方法
対象者:年中児16名(平均年齢4歳7ヶ月),年長児27名(平均年齢5歳7ヶ月)。男女半数ずつ。年長児は調査1後に実施。
扱う痛みの種類:研究1と同じ
手続き:個別面接を行った。各部位の痛みへの対処法の有無(○○が痛いとき,痛いのを少なくする方法ってあるかな?ないかな?)を尋ね,あると回答した場合には,その方法(それはどういう方法かな?)を尋ねた。
2.結果
 年中,年長児の半数以上が,各種痛みについて少なくする方法があると回答した上で,具体的方法を述べることができた。また痛みの所在によりその対処法を区別していた。外的痛みの対処法としては,外部から作用する方法(外用薬や外的な日常的手当てなど)を挙げる場合が反応の50%以上を占めたのに対し,内的痛みについては医療施設への依頼や内部に作用する対処法(内服薬や内部に作用する日常的行動)を挙げる傾向が強くみられた。両年齢群において心理,社会的対処法(なぐさめるなど)について述べた者は皆無であった。
【結論】痛みについての幼児期の理解のベースは心理的なもの(内在的正義)とは言い難い。また痛みの所在により原因や対処法は異なると考える傾向がみられる。
*本研究は平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)15H03451の補助を受けた。