[PB16] 落ち込み要因およびレジリエンス要因に関する検討(4)
高齢期を対象として
Keywords:高齢期, 落ち込み要因, レジリエンス要因
目 的
高井(2015,2016a,b)は,大学生,成人前期および中年期を対象として,人はどのようなことで落ち込んだり絶望したりするのか,また,そこから如何にして立ち直ったのかについて自由記述分析による検討を行っている。本研究においては,60代以上の高齢期を対象とし,落ち込み要因およびレジリエンス要因について,他の年齢段階との比較も含めて検討を行う。
方 法
質問紙は近畿圏を中心に中部・関東,中国,四国,九州地域に配布を行った。落ち込み要因に関する自由記述の回答者数は,60代239名(男性101名,女性138名),70代以上67名(男性39名,女性28名)である。レジリエンス要因に関する自由記述の回答者数は,60代267名(男性121名,女性146名),70代以上48名(男性31名,女性17名)である。質問紙の自由記述欄に,今までの人生において落ち込んだ経験や絶望経験のある人に対してその内容およびそこから如何にして立ち直ったかを尋ねた。質問紙は無記名であるが,支障のない範囲内での記述でよいことを改めて教示した。複数回答を含む記述内容についてKJ法(川喜田,1970)による分類を行った。
結果と考察
落ち込み・絶望経験要因に関して60代・70代以上を合わせた結果を表1に示した。
高齢期においては「病気・死」に関するものが最も多かった。家族の死による苦悩だけでなく,自分自身の重篤な病気の宣告による絶望感が記されていた。また,配偶者の死によって生活状況が一変したことによる苦悩が多かった。2番目の挫折・失敗経験では男女の差異が顕著であり,男性ではこれが最も多い割合を示していた。過去の仕事上の失敗や昇進問題に関する悔い,リストラや左遷等による苦悩である。
次に,レジリエンス要因に関する結果を表2に示した。大学生から中年期と同様,辛い時に「支えてくれる他者の存在」や「気持ちの整理・達観・ポジティブ思考」の割合が多かった。他の年齢段階では「時間の経過に任せる」が3番目に位置していたが,高齢期では「没頭・専心」が3番目に位置し,趣味や運動,教養講座の受講など好きな事や自分がやるべき事に打ち込むことで立ち直ろうとする人が多かった。高齢期では人生の残された時間の観点を踏まえた立ち直りに向けての積極的関与の姿勢のあらわれではないかと考えられる。
全年齢段階での落ち込み要因としては,挫折・失敗経験や病気・死に直面する絶望感のみならず家族関係を含む人間関係の傷つきが多く,これは女性において多かった。また高齢期女性においては中年期同様,嫁舅姑関係や嫁としての世話役割を一手に担わねばならない介護の苦悩が記されていた。このような様々な辛い状況からのレジリエンスとして,気持ちの整理力や没頭対象など個人内要因も大きいが,個人外要因として支えてくれる他者の存在が大きいことが共通しており,加齢に伴ってその割合も増加していた。語りを聴いてくれる他者の存在,精神的・具体的サポート提供の価値は大きい。特に高齢期では独居も増加するため,社会的支援が急務であることが示唆された。
高井(2015,2016a,b)は,大学生,成人前期および中年期を対象として,人はどのようなことで落ち込んだり絶望したりするのか,また,そこから如何にして立ち直ったのかについて自由記述分析による検討を行っている。本研究においては,60代以上の高齢期を対象とし,落ち込み要因およびレジリエンス要因について,他の年齢段階との比較も含めて検討を行う。
方 法
質問紙は近畿圏を中心に中部・関東,中国,四国,九州地域に配布を行った。落ち込み要因に関する自由記述の回答者数は,60代239名(男性101名,女性138名),70代以上67名(男性39名,女性28名)である。レジリエンス要因に関する自由記述の回答者数は,60代267名(男性121名,女性146名),70代以上48名(男性31名,女性17名)である。質問紙の自由記述欄に,今までの人生において落ち込んだ経験や絶望経験のある人に対してその内容およびそこから如何にして立ち直ったかを尋ねた。質問紙は無記名であるが,支障のない範囲内での記述でよいことを改めて教示した。複数回答を含む記述内容についてKJ法(川喜田,1970)による分類を行った。
結果と考察
落ち込み・絶望経験要因に関して60代・70代以上を合わせた結果を表1に示した。
高齢期においては「病気・死」に関するものが最も多かった。家族の死による苦悩だけでなく,自分自身の重篤な病気の宣告による絶望感が記されていた。また,配偶者の死によって生活状況が一変したことによる苦悩が多かった。2番目の挫折・失敗経験では男女の差異が顕著であり,男性ではこれが最も多い割合を示していた。過去の仕事上の失敗や昇進問題に関する悔い,リストラや左遷等による苦悩である。
次に,レジリエンス要因に関する結果を表2に示した。大学生から中年期と同様,辛い時に「支えてくれる他者の存在」や「気持ちの整理・達観・ポジティブ思考」の割合が多かった。他の年齢段階では「時間の経過に任せる」が3番目に位置していたが,高齢期では「没頭・専心」が3番目に位置し,趣味や運動,教養講座の受講など好きな事や自分がやるべき事に打ち込むことで立ち直ろうとする人が多かった。高齢期では人生の残された時間の観点を踏まえた立ち直りに向けての積極的関与の姿勢のあらわれではないかと考えられる。
全年齢段階での落ち込み要因としては,挫折・失敗経験や病気・死に直面する絶望感のみならず家族関係を含む人間関係の傷つきが多く,これは女性において多かった。また高齢期女性においては中年期同様,嫁舅姑関係や嫁としての世話役割を一手に担わねばならない介護の苦悩が記されていた。このような様々な辛い状況からのレジリエンスとして,気持ちの整理力や没頭対象など個人内要因も大きいが,個人外要因として支えてくれる他者の存在が大きいことが共通しており,加齢に伴ってその割合も増加していた。語りを聴いてくれる他者の存在,精神的・具体的サポート提供の価値は大きい。特に高齢期では独居も増加するため,社会的支援が急務であることが示唆された。