日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB27] 保育実践力向上に及ぼす保育実習の効果

子どもとのかかわりに関する実践力に注目して

田村隆宏1, 木村直子2, 谷村宏子#3 (1.鳴門教育大学, 2.鳴門教育大学, 3.関西学院大学)

キーワード:教員養成, 保育実習, 保育実践力

問   題
 平成20年改訂の幼稚園教育要領や保育所保育指針では,現代の大きく変動する子どもの保育・教育環境を踏まえて,今まで以上に保育者の資質向上が求められ,保育者養成段階,並びに現場で様々なキャリアを持つ保育者の個々の段階において保育実践力を向上させていくことが課題となっている。この課題に取り組むためには,現代の保育・教育環境に対応した保育実践力に関する自己開発・評価システムとして,普遍性の高い保育者のモデルスタンダードを構築する必要がある。これを目指して木村・田村・谷村(2016)は「保育実践力スタンダード(子どもとのかかわり編)」を作成し,特に子どもとのかかわりに関する保育実践力の因子構造の解明とその因子に対応する実践力の測定を可能にした。本研究ではこれを用いて,保育者養成段階における保育実践力向上に密接に関わっていると考えられる保育実習が特に子どもとのかかわりに関する保育実践力のどのような側面に効果を及ぼしているのかについて検証する。
方   法
被調査者 近畿地方にあるA大学の保育者養成学部の3年生130人。
調査内容 保育実習の直前と直後に木村・田村・谷村(2016)の「保育実践力スタンダード(子どもとのかかわり編)」の“実践に必要なコミュニケーション能力”に関する33項目,“保育を計画する力”に関する17項目,“保育を展開する力”に関する16項目,について「非常によくあてはまる」から「全くあてはまらない」の6段階評定尺度での回答を求めた。
結果と考察
 表は保育実習前後の「保育実践力スタンダード(子どもとのかかわり編)」の3つの因子に関する項目の平均評定値を示したものである。保育実習前後の平均値を比較するためにt検定を行った。その結果,3つの因子に関わる評定値のいずれにおいても,保育実習後の方が保育実習前よりも評定値が有意に高かった(コミュニケーション力;t(119)=6.875, p< .001,保育計画力;t(118)=11.775, p< .001,保育展開力;t(124)=6.990, p< .001)。この結果から,子どもとのかかわりに関する保育実践力として重要な3つの力すべての向上において保育実習が大きな効果を及ぼしていることが明らかにされた。“実践に必要なコミュニケーション力”については,保育実習において実際に子どもに接してコミュニケーションを重ねることから,直接的に育まれるという側面があるものと考えられる。“保育計画力”は,実習前は3点台の評定値であったものが,実習後には4点台の値に飛躍的に伸びている。これは実習において,実際に保育指導案で保育を計画し,それに対して実習指導の保育者から十分な指導を受けた上で,実際に保育にあたるという経験を積み重ねることから飛躍的な向上がみられたものと考えられる。“保育展開力”も同様に大きな向上効果はみられているものの,評定値は実習後でも3点台の値に留まっている。保育展開力は,具体的には子どもの発言や話し合いの場面での対応や子どもが不安になったときの対応にかかわる力であり,実践場面の様々な状況で即座に適切な判断ができることが求められる高度な力であることから,これをさらに高めていくためには,保育実習での実践経験だけでなく,さらなる豊かな保育実践経験が必要であると考えられよう。
引用文献
木村直子・田村隆宏・谷村宏子 (2016).「保育実践力スタンダード(子どもとのかかわり編)」作成に関する研究,日本保育学会第69回大会発表論文集,p299.