[PB41] 他者との相互作用を通した質問態度の変容(7)
質問態度が低下した学生の経験は?
Keywords:批判的思考, 質問力, 学習者間インタラクション
質問力向上を目指した授業実践(教心研,2011)での学習者間インタラクションについて,これまで,GTAを参考にカテゴリー生成を行った結果,質問生成数や質問に対する態度が向上した学生にとって質問生成の話し合いの場は,他者も十分には理解していないことを知り,発言を促される場であり,能動的行為を行ったときに何らかの肯定的帰結を得られる場であり,自分たちの質問を振り返り質問表現を試行錯誤できる場であると考えられた(道田, 印刷中a, 印刷中b)。
本研究では,半期の授業を経て,質問態度が低下した学生が,どのようなインタラクションを経験しているかを検討した。
方 法
授業と受講生 2015年度前期の教育心理学でデータを収集。受講生は教育学部2年次93名。質問生成のための話し合いを,5チーム(計27名)について録音した。第1回と第15回に質問に対する態度(6項目6段階評定で測定)と質問力(千字程度の文章に対する質問作成)調査を行った。
分析対象 録音対象学生のうち,事前-事後の質問態度がかなり減少していた学生を対象とした(4ポイント減少)。この学生は事前-事後の質問生成数減少は最も多かった(1個)。質問態度項目では,「疑問を表現できる」が5→3,「質問するのは恥ずかしい」が1→4と変化していた(1ポイントの変化は省略)。分析対象学生は女性のみの6人グループに所属していた。
結 果
インタラクションの内容を検討するに当たっては,それが不適切なインタラクションであるとの前提で見ないように留意して行った。
第一回の話し合いでは,全49発話中対象者の発話は5回(10.2%),6人中5番目であった。他者発話への応答3回,あいづち1回,他者発話への不同意1回,いずれも単発的な発話であった(最大でも13文字)。他者発話への不同意(「そうなのかな?」)に対する返答は特になされなかった。
第二回では,全149発話中,対象者の発話は23回(15.4%),5人中4番目であった。内訳は,あいづちが10回と多かった。彼女の能動的行為(10回)に対して,応答があったものが6回,応答がなかったものが4回あった。これは参加者が6名と多く,話が錯綜するためだろうと思われる。
第三回では,全136発話中対象者は30発話(22.1%)であり,彼女も含め上位3名がほぼ同数と,多くの発話が見られた。対象者は,あいづち,促し,確認,同意,復唱のような単発的な発話も多かったが,他者発話に対する問い返しや自分の考えの提示,否定的応答なども行っており,それらはすべて他者に応答されていた。また,質問表現の提案も積極的に行っていた。
第四回では,全135発話中,対象者は22発話(16.3%),5人中4番目であった。対象者の発話には,あいづちや復唱も多かったが,疑問の表明を2回行い,いずれも他者からの応答を得ている。ただ,彼女が「例えば」を含む質問表現を複数回提案したが,最終的には(類似内容であるが)その表現を含まない表現に落ち着いている。
第五回では,全217発話中,対象者は50発話(23.0%)を行っており,6人中最も多かった。この日は他者の不理解表明に対して理解を表明し,早い段階から他者に応答を行い,あいづちを打ち,経験を話して他者の応答を得ていた。中盤以降も彼女が出したキーワードを中心に話しが展開し,グループの質問もそれが採用されていた。
第六回では,全191発話中,対象者は25発話(13.1%),6人中5番目であった。2/3があいづちであり,すべて単発の短い発話(最大20文字)であった。質問をどう表現するか,単語の提案を行い,その語が採用された。
第七回,対象者は欠席であった。
考 察
対象者は,録音対象学生のうち事前-事後の質問態度がかなり減少していた学生であった。あいづちなど短い応答が中心であり積極的に自分の考えを押し出す部分は少なかったとはいえ,すべての回で消極的というわけではなかった。対象者の発話が,他のメンバーに比べて押しが弱い面もあり,発話への応答がない場合もあったが,すべての能動的行為に応答がないわけではなかった。「疑問を表現できる」が事前-事後で下がっていたが,質問を言語化するときには比較的積極的に意見を出している印象があった。
本事例からは,質問態度の減少がグループでの話し合いに明確には表れているとは言い難い。
*本研究はH23-H27科研費(基盤A 23243071 研究代表者:楠見孝)の助成を受けた。
本研究では,半期の授業を経て,質問態度が低下した学生が,どのようなインタラクションを経験しているかを検討した。
方 法
授業と受講生 2015年度前期の教育心理学でデータを収集。受講生は教育学部2年次93名。質問生成のための話し合いを,5チーム(計27名)について録音した。第1回と第15回に質問に対する態度(6項目6段階評定で測定)と質問力(千字程度の文章に対する質問作成)調査を行った。
分析対象 録音対象学生のうち,事前-事後の質問態度がかなり減少していた学生を対象とした(4ポイント減少)。この学生は事前-事後の質問生成数減少は最も多かった(1個)。質問態度項目では,「疑問を表現できる」が5→3,「質問するのは恥ずかしい」が1→4と変化していた(1ポイントの変化は省略)。分析対象学生は女性のみの6人グループに所属していた。
結 果
インタラクションの内容を検討するに当たっては,それが不適切なインタラクションであるとの前提で見ないように留意して行った。
第一回の話し合いでは,全49発話中対象者の発話は5回(10.2%),6人中5番目であった。他者発話への応答3回,あいづち1回,他者発話への不同意1回,いずれも単発的な発話であった(最大でも13文字)。他者発話への不同意(「そうなのかな?」)に対する返答は特になされなかった。
第二回では,全149発話中,対象者の発話は23回(15.4%),5人中4番目であった。内訳は,あいづちが10回と多かった。彼女の能動的行為(10回)に対して,応答があったものが6回,応答がなかったものが4回あった。これは参加者が6名と多く,話が錯綜するためだろうと思われる。
第三回では,全136発話中対象者は30発話(22.1%)であり,彼女も含め上位3名がほぼ同数と,多くの発話が見られた。対象者は,あいづち,促し,確認,同意,復唱のような単発的な発話も多かったが,他者発話に対する問い返しや自分の考えの提示,否定的応答なども行っており,それらはすべて他者に応答されていた。また,質問表現の提案も積極的に行っていた。
第四回では,全135発話中,対象者は22発話(16.3%),5人中4番目であった。対象者の発話には,あいづちや復唱も多かったが,疑問の表明を2回行い,いずれも他者からの応答を得ている。ただ,彼女が「例えば」を含む質問表現を複数回提案したが,最終的には(類似内容であるが)その表現を含まない表現に落ち着いている。
第五回では,全217発話中,対象者は50発話(23.0%)を行っており,6人中最も多かった。この日は他者の不理解表明に対して理解を表明し,早い段階から他者に応答を行い,あいづちを打ち,経験を話して他者の応答を得ていた。中盤以降も彼女が出したキーワードを中心に話しが展開し,グループの質問もそれが採用されていた。
第六回では,全191発話中,対象者は25発話(13.1%),6人中5番目であった。2/3があいづちであり,すべて単発の短い発話(最大20文字)であった。質問をどう表現するか,単語の提案を行い,その語が採用された。
第七回,対象者は欠席であった。
考 察
対象者は,録音対象学生のうち事前-事後の質問態度がかなり減少していた学生であった。あいづちなど短い応答が中心であり積極的に自分の考えを押し出す部分は少なかったとはいえ,すべての回で消極的というわけではなかった。対象者の発話が,他のメンバーに比べて押しが弱い面もあり,発話への応答がない場合もあったが,すべての能動的行為に応答がないわけではなかった。「疑問を表現できる」が事前-事後で下がっていたが,質問を言語化するときには比較的積極的に意見を出している印象があった。
本事例からは,質問態度の減少がグループでの話し合いに明確には表れているとは言い難い。
*本研究はH23-H27科研費(基盤A 23243071 研究代表者:楠見孝)の助成を受けた。