The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB44] 授業内容についての想起の仕方と授業中の身体の揺れの関連

「ビジネス顕微鏡」を用いた授業分析の試み(3)

伊藤崇1, 一柳智紀2 (1.北海道大学, 2.新潟大学)

Keywords:授業, 想起, 身体振動

問題と目的
 他者の発言を聞き,それを自己の思考に統合していくことは,話し合いに基づく授業での協働的な学習過程の重要な側面である。一柳(2009)は,発言者と発言内容とに注目して自分の言葉で語り直すことができる児童は,教師から「よく聴くことができる」と評価されることを示した。
 本研究では,授業中に児童が他者の発言を聴く際に,その場において何らかの身体的な表出が起こるかどうかを探索的に確認することを目的とした。特に,発言者と発言内容を結びつけて想起した児童に注目し,当該の発言がなされた瞬間の身体の揺れ(身体振動周波数)について検討する。
方   法
 対象:札幌市立小学校1校の6年生1学級。出席児童数は29(うち女児14)名,教員歴10年超の男性教員が担任。対象の授業は2015年4月に実施された社会科で,「大和朝廷」がテーマ。授業は前半の資料検討場面(約20分),中盤の個別資料検討場面(約8分),後半の話し合い場面(約15分)で構成。 測定手続き:身体振動の測定に際しては(株)日立製作所の開発した行動ビッグデータ収集分析システム「ビジネス顕微鏡」を用いた。授業開始前に児童全員に名札型センサの装着を依頼。並行して教室前方の黒板上部に小型ビデオカメラを設置し,授業の様子を撮影。授業中に起きた出来事を想起してもらうために,授業終了後,「先生やお友だちが発表していたこと,やっていたことであなたが覚えていることを,できるだけたくさん書いてください(これはテストではありませんが,お友達と相談しないで書いてください)」と教示を書いた用紙を配布し,5分程度で自由に記述してもらった。 分析手続き:システム付属ソフトが加速度センサ情報に基づいて計算した10秒ごとの平均身体振動周波数データを分析。想起の仕方については,自由記述の内容を検討し,発言者とその内容の両方を想起していた児童を抽出した。その上で,当該発言が生起した時点での想起者の身体振動周波数を検討した。
結果と考察
 発言者と発言内容を結びつけて想起した児童は11名であった(うち女児4名)。これらの児童の想起内容のうち,複数の児童が共通して想起した授業内での発言が確認された。例えば12:04:39から始まるある女児の発言(銅剣に刻まれた『ワカタケル』とは)「そもそも誰かわかんないんですけど」がなされた瞬間,この発言その女児の名前とともに想起した2名の児童の身体振動周波数は,他の区間と比較して上昇していたように見える(図の矢印の区間)。
 しかし一方で,同様に複数の児童が想起した別の発言に対する身体振動周波数の変動を検討したところでは,逆に,その発言中は周波数が低く推移していた場合もあった。
 ここまでの分析では,想起の仕方と身体振動の関連を見出すことができなかった。
 授業中の身体振動に注目することで,その場での聴き方の質を記述することができれば,方法論的な改善につながるであろう。今後は,一人一人の児童についてより多くのデータを収集するとともに,想起内容の質に注目していくことが考えられる。
文   献
一柳智紀. (2009). 児童による話し合いを中心とした授業における聴き方の特徴:学級と教科による相違の検討. 教育心理学研究, 57, 361–372.