日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB47] オープン教材のユーザーシナリオの探索

ライフステージ別の学習ニーズ

山内保典 (東北大学)

キーワード:生涯学習, E-Learning

問題と目的
 社会人の学習機会の拡大が求められて久しい。社会人に対する教育機会の拡大の手段の一つとしてオープン教材が注目されている。実際にOCWやMOOCsといった,大学の授業などを公開する取り組みは,世界各地に広がりを見せている。
 一方で,オープン教材のコンセプト自体は市民から高い支持を得ているにも関わらず,その利用者は限られている。ここからはオープン教材に対する市民のニーズと供給される内容や方法にミスマッチが生じていると考えられる。
 例えば,子育て世代とシルバー世代が,ともに「栄養学」を学びたいといっても,その目的は異なり,求められる知識も異なる。加えて,例えば子育て世代は,栄養学を体系的に学びたいわけではなく,分野にこだわらず,子育てに関する法や心理学なども学びたいと考えるだろう。
 それに対し,大学の授業は特定分野の体系的理解を念頭に構成されることが多く,市民のライフステージごとの学習目的は必ずしも考慮されていない。とはいえ,市民が膨大なオープン教材の中から,自身に必要な知識を探し出すことも容易ではない。こうした問題が本研究の背景にある。
 これまで一定規模の教材をオープンにするため,提供側の努力や情報技術の向上が進められてきた。その目標が達成されつつある現在,次の発展フェーズとして持続的学習を支える仕組み(特にソフト面)の構築が求められている。その仕組みは,利用者である市民の上記のような具体的なニーズに沿って設計されることが望ましい。
 そこで本研究では,その仕組みを開発するための第一歩として,オープン教材のユーザー像や利用法を,具体的に描き出すことを目的とする。
方   法
 調査方法:グループインタビュー。
 日時:2016年2月17日。各グループ60分。
 調査対象者:2つの条件で,リクルーティングを行った。(1)性別(男性,女性)×年代別(20-30代,40-50代,60代以上)で3人×6グループを構成する。(2)事前調査により,大学が提供するオープン教材について「利用したい」あるいは「今後利用したい」という意向を持つ。
 質問内容:3つの中心となる問いを設定した。
1.何を学びたいと考えているか(WHAT)
2.どのような文脈(現状の問題と目標)で学びたいと考えるのか(WHY)
3.どのように学んでいるか,学びたいと思うか(HOW,WHEN,WHERE)
結   果
 ユーザーシナリオの例を示す。
【男性×60代以上:つながる】
定年後,情報技術を学び,パソコン教室ボランティアで社会とつながる。
【女性×60代以上:楽しむ】
趣味の旅行をもっと楽しむために,旅先の歴史や文化を学ぶ。
【男性×40-50代:目指す】
有名なあの先生が,何を考え,実行しているのかを知りたい。
【女性×40-50代:話す】
人間関係の悩みを抱える身近な人の力になりたくて,心理学を学ぶ。
【男性×20-30代:高める】
部署異動で必要になった専門知識を学んで,仕事の質を高めたい。
【女性×20-30代:広げる】
将来のキャリアアップの可能性を広げるために,語学や資格試験の勉強。
展   望
 これらのシナリオに沿って,既存のオープン教材のキュレーション(収集・分類・統合)や編集を行い,市民ニーズに沿ったオープン教材情報提供サイトのプロトタイプをつくる。
 本調査で得られたユーザーシナリオに当てはまる人はごく一部である。しかし仮にこうしたユーザーが一万人に一人いれば,日本全体で一万人の潜在的ユーザーが存在することになる。順次,調査を進め,シナリオを追加していきたい。
本報告を一つの契機として,オープン教材の提供方法に関する議論が活性化し,生涯教育を支える基盤の整備につながることを願っている。
 本研究はJSPS科研費 15K21129の助成を受けたものです。