日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB72] 児童生徒のコミュニケーション・トラブルの予防に向けて(3)

SSTによるいじめの抑制に関する効果の検討

原田恵理子1, 渡辺忠温2, 若本純子3, 西野泰代4 (1.東京情報大学, 2.法政大学, 3.佐賀大学, 4.広島修道大学)

キーワード:ソーシャルスキルトレーニング, 高校生, コミュニケーション

問題と目的
 平成27年度のいじめ認知件数は,小学校122,721件,中学校52,969件,高校11,039件で,なかでも「パソコンや携帯電話等で誹謗中傷やいやなことをされる」は,高校で2,078件といじめの総件数で占める割合が18.2%と一番多い(文部科学省,2015)。いじめはその深刻さが指摘され、学校教育現場で対応が求められている問題である。その問題に対していじめ予防・防止プログラムの一つであるソーシャルスキルトレーニング(以下,SST)が,近年ではネット上のトラブルを含む内容でも活用されている(原田・矢代,2013; 原田2014; 原田・渡辺,2014)。さらには,コミュニケーションスキルの向上を目指すSSTは情報モラル教育の一つとして,道徳や総合的な学習の時間においても授業で積極的に取り組まれるようになっている。そのようななか,いじめの減少を妨げている要因として傍観者の存在が指摘されてきたが(森田,1990),いじめを否定する規範の遵守を徹底することがいじめ加害傾向を低減させると指摘されている(大西,2007)。同様に,学級のいじめに否定的な集団規範が抑制効果を持つことや(大西・黒川・吉田,2009),いじめに介入するためのスキル学習が有効とされている(中村・越川,2014)。すなわち,規範意識が薄いと,周囲の評価や圧力により,生徒は介入のスキルが発揮できないことが推測される。そこで,本研究では,「あたたかいことばかけのスキル」をターゲットスキルし,ネットのトラブルを内容に含むSSTの実践を通して,いじめに対する規範意識とピアプレッシャーへの意識の変容にどのような効果があるのかを検討することを目的とする。
方   法
対象者:公立高校1年生8学級326名のうち欠損値を除いた者を尺度ごとに有効回答とした。
(2) 測定尺度:ピアプレッシャー尺度(Steinberg & Monahan, 2007)10項目4件法,いじめを見たときの反応尺度(Pozzoli & Gini,2010)18項目5件法,いじめ否定学級規範尺度(大西・黒川・吉田,2009)7項目5件法 (3) SST手続きと内容:授業者は教師(8名)と心理学専攻(1),教職課程の学生TA(6名),教師によるTA(1名)。1・5回目は第一筆者が全クラスを対象に実施した。
 (4) 実施授業;特別活動におけるLHRの道徳を学ぶ時間(5時間)に実施。(5) 実施期間2015年10月中旬から12月上旬。ターゲットスキル;考えと気持ちを伝えるⅠ・Ⅱ(コミュニケーションとは・聴く)・感情のコントロール・あたたかいことばかけの4つのスキルをターゲットとした。
授業構成;原田・渡辺(2011),原田(2014)の指導案に基づき,プログラムを修正して作成した。
結果と考察
 Table 1に示したように,ピアプレッシャーへの効果については介入前後で対応のあるt検定を行ったところ,有意差が認められなかった。すなわちプレッシャーは変化しなかった。いじめを見たときの反応尺度については主因子法,プロマックス回転を実施し,問題解決方略,問題回避方略,援助要請の3因子を得た。そこで,この因子別に介入効果を検討するため対応のあるt検定を行った。その結果,問題解決方略と問題回避方略に有意差が認められた。すなわち,他者に助けを求め,解決に向けた方法を考えることができるようになった。いじめを否定する規範についても同様の検定を行ったところ有意差が認められ,規範意識が高くなった。以上より,規範意識やいじめを見たときの解決や回避の方法にSSTは一定の効果があることがわかった。今後は,仲間関係の特性を生徒に理解させるというピアプレッシャーに屈しないプログラムの修正と効果の検証が求められる。
 本研究はJSPS科研費20623961の助成を受けた。