The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB77] 園の枠を越えた実践記録の検討による幼児教育研修のあり方

福井県幼児教育支援センターにおける研修のデザインと調整過程

岸野麻衣 (福井大学大学院)

Keywords:幼児教育, 研修, 実践記録

問題と目的
 同僚と話し合い保育を振り返りながら次の課題を見いだす園内研修として「保育カンファレンス」が知られている。これには様々な条件が挙げられているが,発話の対等性やスタイルの課題等,実際には難しい現状も報告されている。その打開のために協議方法や記録方法等工夫もなされている。
 しかし依然として,園に閉じずに公立・私立,幼稚園・保育所・認定こども園等の園種の枠を越えた研修の必要性や,園による保育記録の水準の差を縮めて高めていく必要性,アドバイザー役の力量形成を支えていく必要性が挙げられる。福井県幼児教育支援センターにおいてはこれを実現する研修を開発し,実施してきた。本研究では研修を立ち上げた1年間のプロセスの事例について研修のデザインと調整過程を検討し,従来の課題を越える研修を行う上でのポイントを明らかにする。
方   法
 福井県幼児教育支援センターは2012年11月に設置され,保幼小接続のカリキュラムを作成してきた。2015年度は,園種にかかわらず幼児教育の質向上を図る新たな研修が開始された。
 著者は開設の前年からワーキンググループのメンバーとしてかかわり,核となって研修を企画するメンバーと継続的に相談を行ってきた。本研究では,研修会の前後に継続的に重ねてきた話し合いのメモをもとに著者の視点から見えた研修構築の実践のプロセスを記述していく。
実践のプロセス
(1) 研修のデザイン(2~4月):次の3つのことを核に据えることを共有した。第1は,多様な地域・園種の受講者を対象とするにあたり,「遊びの中の学び」に焦点を当てることである。第2は,コアになる方法として事例を持ち寄り検討し合うことをベースにすることである。第3は,園内リーダー研修と市町アドバイザー研修を重ねて進める二重の仕組みを作ることである。園内リーダーの事例検討グループのファシリテータを市町アドバイザー研修が行い,また市町アドバイザーの実践として,自分の市町の園を実際に訪問して助言等を行ってくることを課すことである。
(2) 研修の構想を伝え,戸惑いに応え,実践を見直す場にしていく(4~5月):4月のオリエンテーションは,市町アドバイザーと園内リーダー合同で,研修の構想を伝えた。またグループごとに自己紹介を行い,5月の研修会に向けて事例を持ってくることをアナウンスした。なおグループは市町アドバイザー1人に対して園内リーダー6人で編成され,固定することにした。5月の事例検討会では和やかに語り合う雰囲気になり,事例を持ち寄ることの戸惑いにも応えながら,各園で当たり前になっていることを異なる視点で見直す場になった。市町アドバイザーのグループ協議では,遊びの中の学びの捉え等を共有できた。市町ごとに,園訪問の日程調整も行われた。
(3) 保育の質の向上に向けて,各市町でのつながりを強め,動きを共有する(7~8月):事例検討では語り合うのに随分慣れた様子だったが,時間が短くじっくり語り合えない不満が表れ,焦点を絞って語るよう伝えた。市町アドバイザー研修では理解を得るために各市町の行政担当者にも参加を要請した。12月の報告会で各市町の幼児教育の取組をポスターで報告してほしいと依頼し,市町ごとに話し合った。これにより,幼児教育に関わる人たちが自分の市町でどんな実践を大事にしているか,共有することが可能になっていった。
(4) 園・市町の事例検討の質を高める(10~11月):事例の考察が不十分だという手応えから,オリエンテーションを行った上で事例検討に入った。市町アドバイザー研修ではポスターの試作品を持ち寄り,市町同士で互いに検討しあった。また11月の福井大学教育地域科学部附属幼稚園の研究集会は,市町アドバイザーの演習と位置づけ,保育参観後のグループ協議ではファシリテータを依頼した。初めて会うメンバーでありながら,参加者の語りを引き出して一緒に考える様子が見られた。
(5) やってきたことの意味の捉え直しと県や校種を越えたつながり(12月):市町アドバイザーや園内リーダーが語る場を設け主体性を持って参加できるようにしつつ,シンポジウム等で方向性を改めて示す場を設け,やってきたことの意味を捉え直すことになった。
総括的考察
 公私・園種・市町の枠を越えた二重の仕組みのもと,どの園も参加できる内容と,園を巻き込んで実践を見直す方法を核に,つながりを作りだし深めていく道具を介してかかわり方の文化を醸成していたといえる。
付   記
 本稿は,サクセスホールディングス株式会社による第2回サクセス保育・幼児教育研究懸賞論文において優秀賞を受賞した論文を元に再構成したものである。