The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB79] 児童は自分の「強み」を自覚して活用できるのか?

伊住継行 (倉敷市立倉敷東小学校)

Keywords:Character Strengths, 強みの活用, ポジティブ心理学

問題と目的
 近年,人の強みに関する研究が盛んに行われ,強みを活用することで,幸福感や自尊感情が高まるという指摘がなされている(井邑・青木・高橋・野中・山田,2013;Linley&Biswas-Diener,2010;森本・高橋・渡部,2014)。
 児童の強みの活用に関する研究として,Ruit&Korthagen(2013)がある。この研究から,児童は強みを自覚し,活用することができることが示された。また,この研究では,幸福感の変化を検討しているが,結果は,有意な差ではないものの,幸福感の上昇が確認された。
 児童においても強みを自覚し,活用することの有効性が示唆されているものの,日本において,児童を対象とした強みを活用する研究はまだなされていない。そこで,児童を対象として,強みを活用することと幸福感への影響について調査することにした。
方   法
対象:岡山県の公立小学校の4,5年生58名。
調査計画:1週間毎日強みを活用する介入を行い,その前後での幸福感の変化を確かめた。
使用した尺度
(1) 児童の「強み」の測定
 Ruitら(2013)を参考に,まず,Sligman(2002)で使われた児童の強みを測定する質問紙を邦訳して使用した。邦訳に際しては,他の小学校教諭1名と共に児童への分かりやすさや邦訳の妥当性について確認した。24の特性に関して2問ずつ合計48項目への回答を求めた。その中から,得点が9,10になるものを自分の強みとするようにし,特に活用したい強みを1つ選ぶよう指示した。
(2) 強みの活用シート
 1週間,毎日,宿題として,自分の強みを活用した回数と使った場所,使い方,使ったときの感想を記録させた。
(3) 主観的幸福感について
 Ruitら(2013)を参考に,Seligman(2002)で使われたフォーダイスの感情度測定テスト1項目,主観的幸福感尺度1項目を使用した。
結   果
(1) 児童の「強み」の測定
 24の特性のうち,児童が選んだ強みは20種類に及んだ。また,児童が選んだ強みのうち上位3つは“親切”7人,“チームワーク”6人,“独創性”・“希望・楽観性”・“ユーモア・遊戯心”各5人ずつで全体の48%となった。強みに関して,Ruitら(2013),森本ら(2014)と同じく,“親切”が最も多く選ばれた。
(2) 強みの活用シート
 1週間のうちで強みを活用した日数と1日の平均使用回数はTable 1のようになった。また,児童は,学校でも家庭でも強みを活用していることが分かった。
(3) 主観的幸福感について
 強みを活用する介入を行い,その前後での幸福感の変化を確かめた(Table 2)。介入前後で,フォーダイスの感情度測定テストでは差はなかったが,主観的幸福感では,有意差が見られた。
考   察
 以上の結果より,我が国の4,5年生の児童においても強みを自覚し,学校や家庭で活用することは可能であり,強みの活用が,幸福感に影響を与える可能性があることが示された。
 児童は,強みを見つけ,活用する過程で,今まで意識していなかった自分らしさに気付き,自己理解を深めることができた。また,教師も,児童の強みを学力や体力以外の面で見取っていくことができるようになり,強みが児童理解の視点となって機能することが分かった。