The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB87] 学力テストの下位領域に関するIRTを使った測定論的特徴の把握

坂本佑太朗1, 柴山直2 (1.株式会社リクルートマネジメントソリューションズ, 2.東北大学大学院)

Keywords:学力テスト, IRT, 双因子モデル

問題と目的
 大学入学者選抜において従来の知識・技能の測定だけにとどまらず,「思考力・判断力・表現力」をも測定することが目指される(文部科学省,2016)ことに象徴されるように,わが国においてもテストが測定すべき心理学的特性が多様化してきているのが現状である。その中で,IRTに代表される測定技術を単に分析の道具として用いるだけではなく,その前提として「テストがそもそも何を測っているのか」という構成概念についての精緻な検証が求められている(石井,2014)。そこで本研究では,IRTにおける項目情報量的な観点から,学力テストの下位領域に関する計量的な特徴を明らかにすることを目的とする。
方   法
 平成18年度新潟県全県学力調査における中学校2年生数学(N=9,102)を用いる。項目数は25であり,回答は正答/誤答の2値である。測定領域は,項目1から項目10は「数と式」,項目11から項目16は「図形」,そして項目17から項目25は「数量関係」であることが定められている(新潟県教育委員会,2007;文部科学省,2006)。
 本研究では補償型(compensatory)多次元2値  2PLモデル
P(u_ij=1│θ_i,a_j,d_j )=exp⁡(a_j 〖θ'〗_i+d_j )/(1+exp⁡(a_j 〖θ'〗_i+d_j ) ) (1)
を用いる。このときu_ijは受検者iの項目jに対する反応を示し,また次元数をmとするとa_jは1×mの項目jの識別力パラメータベクトル,θ_iは1×mの受検者iの潜在特性尺度値ベクトル,d_jは困難度に関連するパラメータ(スカラー)を示している。今回はテスト全体が測定する構成概念(「数学力」)と,下位領域特有の情報を計量的に比較するため,(1)を上記で示した測定領域別に確認的にモデリングした双因子モデル(bifactor model; Gibbons & Hedeker, 1992)を仮説として設定する。双因子モデル内で推定された「数学力」と下位領域ごとに推定された項目識別力パラメータの2乗値を比較することで,その相対的な項目情報量の差が求められ(Reckase, 2009; Reise, Morizot & Hays, 2007),当該の項目が「数学力」あるいは下位領域特有の影響のどちらを強く受けているかを明らかにできる。
結   果
 Table 1には双因子モデル内における項目識別力パラメータの2乗値を整理した。その比をとれば,item24,25が測定する下位領域「数量関係」はテスト全体が測定する「数学力」のそれぞれ約1.333倍,約1.094倍の情報量を保有していることがわかる。
 また,各下位領域と「数学力」の潜在特性尺度値をEAP法によって推定し,それらをプロットしたものがFigure 1である。各下位領域と数学力との相関係数はそれぞれ0.366,0.384,0.279である。
 これらの結果から,多次元IRTを基盤とした双因子モデルにより学力テストの測定領域についての測定論的な情報を項目レベルで把握できることが明らかになった。今後は領域別の潜在特性尺度値を従属変数にした教育社会学的分析や多値データに対する多次元段階反応モデル(Muraki & Carlson, 1995)への拡張が期待される。

【謝辞】本研究の遂行にあたってはJSPS科研費25380867ならびに16H03731の助成を受けました。