The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PC10] 友人関係の語りにみられる<否認>の意味

ポジショニングとアイデンティティに関するナラティヴ・アプローチ

保坂裕子 (兵庫県立大学)

Keywords:ナラティヴ・アイデンティティ, 友人関係, ポジショニング

友人関係の発達的変化
 これまでの心理学およびその他の研究領域において,青年期における友人関係の重要性が指摘されてきている。友人関係がうまくいっていることが,学校適応や自尊感情と正の連関をもち,友人関係に問題がある場合,さまざまな不適応を引き起こす。さらには友だちが多いこと,どのような友だちがいるのかということが,個人の人格やアイデンティティに関わるとさえ考えられている(土井,2004; 2008)。したがって,友だちができなかったり,少なかったりすると,それだけで何か問題を抱えていると考えられてしまう。
 一方で,友人関係の在り方にも発達的変化がみられることも明らかにされてきている。同一性が重視される中学までとは異なり,高校生以上においては,互いの価値観や理想,将来の生き方などを語り合うなかで,次第に互いの違いを尊重しあう関係へと変化するのであり,中学生においてはみられなかった互いの違いを認め合い,尊重しあう「相互尊重欲求」が高まる(榎本,2003)。このような関係転換への適応が,その後の社会的諸関係への適応と深く結びついている(保坂・岡村,1986)。
 そこで本研究では,友人関係と自己の在り方の転換期となる高校生の時期に焦点化し,友人と自己との関係をどのように意味づけ,また関係づけているのかを,友人グループへのインタヴュー調査を通して得られたナラティヴを分析することによって,検討してみたい。
研究目的と方法
 本研究では,友人関係のなかで,いかに自らを位置取り,また位置取り直しているのかについて,ナラティヴを通して検討することで,青年期のアイデンティティ形成における友人関係の意味づけを探ることを目的とした。ナラティヴへのアプローチは,大きく三つのタイプに分けられる(Bamberg, 2012)。本研究では,語っている<いま―ここ>の文脈において,そのナラティヴでなにを成し遂げようとしているのか,あるいは為し得るのかに着目し,ナラティヴを介して語りが生み出されている背景や文脈を研究する観点に立った。友人同士の語り合いのなかで互いにいかに位置取りあいながら,それぞれのアイデンティティ・クレイムが行われているのかを検討した。
 いま,この場,このひと(たち)に対して,どのように何を語るのか(ナラティヴ)という行為のなかに,語り手のアイデンティティのクレイムを見出すことを目的とした。
調査対象
 大阪府下の公立高校において,教諭を通じてインタヴュー調査を依頼した。「友人関係」であるという認識が共有されていることが前提であるため,所属クラスや部活動,性別,人数などは特に指定せず友人グループでの協力を求めた。本研究発表においては,そのなかから高校三年生の女子の友人グループ(4名)へのインタヴューを分析・考察の対象とした。本研究発表者がモデレーターを務め,「友人関係」について自由に語ってもらった。その際,1.高校生になったときのこと,2.これまでの友だちとの違い(中学校や幼なじみなど),3.友だちでよかったと思った出来事,4.友だちじゃない,と思った出来事,5.友だちという存在について,という5つの問いを中心にグループ・インタヴュー調査を行った。4人は高校二年生の時に同じクラスであった友人グループであり,三年生でも一人を除いて同じクラスであった。
結果と考察
 本発表では,グループでの語りを取り上げるなかで,一人の生徒の語り,およびそれを通して行われた位置取り(positioning)に着目した。人見知りでシャイであるため,入学当初はなかなかなじめなかったと語るが,友人から<否認>される。しかし,確かに未だに「殻をかぶっている」ように感じるという指摘に対して,当人はそんなことはない,と<否認>する。このような,<否認>を通して,互いに互いを位置づけ,位置づけなおしながら,友人関係のなかでアイデンティティが協働生成されるのであり,<否認>しあうことで互いの違いを理解し,相違を意味づけなおしていることがわかった。青年期の友人関係の協働生成される側面についても,今後さらに検討されていくことが望まれる。さらには,こういった対話のなかにどのような社会・文化的要因が影響しているのかについて検討していきたい。