日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC13] 児童の攻撃性と日常ストレス反応

道具的関係性攻撃を中心に

永井明子1, 山崎勝之2 (1.プール学院大学, 2.鳴門教育大学)

キーワード:児童, 関係性攻撃, ストレス反応

 健康や適応に影響を及ぼす大きな要因の一つとして,高い攻撃性が挙げられ,小学生の場合にも,攻撃性が様々な形で適応や健康に問題をもたらすことが知られている。
 この攻撃性をそれぞれ特徴の異なるものに細分化することで健康・適応への影響の道筋がはっきりと見えてくる。坂井・山崎(2004a,b)は近年の攻撃性研究の流れに沿って攻撃性を大きく反応的攻撃および道具的攻撃に分け,さらに反応的攻撃を表出性攻撃と不表出性攻撃に分けて道具的攻撃を関係性攻撃で代表させるという分類方法をとっており,本研究でもこれに従う。
 攻撃性を細分化することにより,どのような攻撃性が高いと,どのような適応・健康問題を引き起こしやすいのかが明らかにされてきている。例えば,児童の反応的不表出性攻撃や道具的関係性攻撃の高さが抑うつや学校生活享受感情に影響を与えることが報告されている(坂井・山崎,2003)。
 このように児童の攻撃性は具体的な健康・適応問題と関連しているが,不適応を示す前段階で問題を捉え,積極的に介入していく観点も必要である。そこで本研究では攻撃性を反応的表出性,反応的不表出性,道具的関係性に細分化し,日常生活ストレスへの影響を検討することを目的とした。
方   法
協力児童 近畿地方の政令指定都市の公立小学校3校に在籍する小学生891名の内876名について調査を行い,データに不備があった者を分析から除外した823名(男児426,女児397)のデータを分析した。内訳は4年生250名(男児148女児102),5年生269名(男児140,女児129),6年生304名(男児138,女児166)で,男女で分布に偏りはなかった。質問紙ならびに実施手続き 攻撃性の測定には,PRAQ-C(Proactive-Reactive Questionnaire for Children:坂井・山崎,2004)を使用した。下位尺度,表出性攻撃,不表出性攻撃,関係性攻撃の得点範囲は7~28点である。日常ストレス反応の測定には,小学生用ストレス反応尺度(SRS-C:嶋田・戸ヶ崎・坂野,1994)を使用した。下位尺度は身体的反応,抑うつ不安,不機嫌怒り,無気力で,得点範囲は各5~20点である。調査は2015年7月にクラス単位で担任に実施してもらった。小学生用ストレス反応尺度(SRS-C),攻撃性質問紙(PRAQ-C)の順に配置した。
結   果
攻撃性およびストレス反応の記述統計
 表出性攻撃得点,不表出性攻撃得点,関係性攻撃得点,ストレス反応合計得点およびストレス反応の4下位尺度(身体的反応得点,抑うつ不安得点,不機嫌怒り得点,無気力得点)の男女差についてt検定(等分散を仮定,df=821)を行ったところ,表出性攻撃得点(t=5.46,p<.01),無気力得点(t=2.68,p<.01))にのみ有意差が得られ,男児の方が女児より有意に高かった。
 次に,各尺度間の相関係数を男女ごとに計算した。攻撃性の各下位尺度間,ストレス反応の各下位尺度は互いに正の相関を示した。また,攻撃性が高いほどストレス反応の得点が高かった。なお,すべての相関係数が有意(男児:df=424,女児:df=395,p<.001)であった。
攻撃性の高低群によるストレス反応の差
 各攻撃性のみが高い児童と3種すべての攻撃性が低い児童を選択するために,中央値による分割を男女別々に行い,高表出性攻撃児男児44名,女児29名,高不表出性攻撃児が男児42名,女児50名,高関係性攻撃児が男児14名,女児21名,低攻撃児が男児191名,女児184名が得られた。
 ストレス反応下位尺度の得点および合計得点について,児童本人の攻撃性(4)×性(2)の2要因分散分析を行った。すべての分析で有意な攻撃性の主効果が得られ,その後のScheffe法による検定で,高攻撃児は3群とも低攻撃児よりストレス反応の合計得点が高かった。ただし,下位尺度については下位尺度ごとに様相が異なり,身体的反応と不機嫌怒りについては,高表出性攻撃児と高不表出性攻撃児の方が低攻撃児より有意に得点が高かった。抑うつ不安については,高不表出性攻撃児が高表出性攻撃児と低攻撃児より有意に得点が高かった。最後に,無気力については,高不表出性攻撃児が低攻撃児より有意に得点が高かった。なお,有意な交互作用はみられなかった。
考   察
 高攻撃児は低攻撃児に比べて高いストレス状態にある事が分かった。しかし高道具的関係性攻撃児は細分化されたストレス反応下位尺度については高いとも低いとも言えず,高反応的攻撃児とは異なるパターンのストレス反応を抱えている可能性が示唆された。また,今回は攻撃性と日常ストレス反応の関連しか明らかにできなかった。今後は攻撃性から日常ストレス反応への因果関係を明らかにしていく必要がある。
 なお,本研究は第1著者所属大学の研究倫理規定に基づき実施された。