[PC14] 身体性コンピテンスからみた子ども理解(1)
対人協働課題と新体力テストの結果との関連に着目して
キーワード:新体力テスト, 身体性コンピテンス, 対人協働
問題と目的
わが国では,子どもの体力・運動能力が下げ止まった今日においてもなお,「運動用具を上手に使えない」,「対人での協働活動が難しい」,「状況を判断しながら動けない」など,いくつかの事象が報告されている(木塚,2015)。これらの能力は,OECD(経済協力開発機構)が指摘したキー・コンピテンシーであり,これからの社会で,人がたくましく生きていくために各個人に求められる主要な能力である,1)道具(ツール)を相互作用的に活用する能力と,2)自己と他者との相互関係を形成する能力,3)自立的に行動する能力,3つである(Rychen, 2003)。運動能力においても,これらのキー・コンピテンシーを要素とした能力,すなわち「様々な環境や状況において身体を適切に処することができる」ことが求められており,これを身体性コンピテンシーと称している(澤江ら,2014)。今後,子どもの身体や運動のとらえ方に大きな影響を与える可能性があるが,身体性コンピテンシー自体まだ十分に検討されていない。
そこで我々はまず,この身体性コンピテンシーが,現在の子どものとらえ方のスタンダードである新体力テストの結果と,どのように関連するのかを明らかにすることとした。今回は特に身体性コンピテンシーのなかから,他者との相互作用のための運動調整能力(対人協働)をとりあげて調べることとした。
方 法
1.対象 関東地方のT市にある小中一貫校(9年制)の7年生の男女113名のうち,体調不良等で調査日に休んだ者を除く106名を対象とした。
2.調査項目 対人協働の評価のために作成された課題ゲーム「きょうりゅうのタマゴゲーム」(図1参照)の「遂行時間(秒)」と「落下回数(回)」,「移動パターン」を調査項目とした。
3.手続き:調査者は対象者に,「ボールを落としてはいけません」と伝えた後に「できるだけ速くゴールしてください」と伝えた。対象者は3回試行した。すなわち,1回目をひとりで行うソロ課題,2回目は,はじめて同士で行うペア①課題,3回目は2度目同士で行うペア②課題とした。
4.分析 対象者がすでに実施した新体力テストの総合評価段階(A:高スコアからE:低スコアの6段階)ごとにクロス集計した。
結果と考察
新体力テストのスコア段階群別に,課題ごとの遂行時間をもとに一元配置の分散分析を行ったところ,ソロ課題では群別による主効果が認められ(F(4,101)=5.777,p<.01),ペア①課題とペア②課題では群間に有意差が認められなかった。新体力テストとの相関はソロ課題にのみ中程度の相関が認められることが既に報告されていた(澤江・木塚,2013)。また表にあるように,課題間の時間の変化量を分析したところ,ソロ課題からペア①課題にかけては,新体力テストのスコア段階が変化量に影響している傾向がみられた(F(4,101)=2.438,P<.10)。しかし,ソロ課題からペア②課題にかけては,新体力テストのスコア段階の影響がなかった。以上のことから,ソロ課題が新体力テストの結果との関連が強くある一方で,ペアで運動協働の課題をすることで,新体力テストで計れる能力以外の能力が機能化した可能性が考えられた。それがどのような能力かについて,キー・コンピテンシーとの関連から検討することが今後の課題である。
参考文献
木塚朝博(2015).デュアルタスクで見積もる子どもの身体性コンピテンシー.体育の科学65.342-349.
Rychen, D, S. et al. (2003). Key Competencies for a Successful Life and a Well-Functioning Society. Hogrefe.
澤江幸則他(2014).身体性コンピテンスと未来の子どもの育ち.明石書店.
わが国では,子どもの体力・運動能力が下げ止まった今日においてもなお,「運動用具を上手に使えない」,「対人での協働活動が難しい」,「状況を判断しながら動けない」など,いくつかの事象が報告されている(木塚,2015)。これらの能力は,OECD(経済協力開発機構)が指摘したキー・コンピテンシーであり,これからの社会で,人がたくましく生きていくために各個人に求められる主要な能力である,1)道具(ツール)を相互作用的に活用する能力と,2)自己と他者との相互関係を形成する能力,3)自立的に行動する能力,3つである(Rychen, 2003)。運動能力においても,これらのキー・コンピテンシーを要素とした能力,すなわち「様々な環境や状況において身体を適切に処することができる」ことが求められており,これを身体性コンピテンシーと称している(澤江ら,2014)。今後,子どもの身体や運動のとらえ方に大きな影響を与える可能性があるが,身体性コンピテンシー自体まだ十分に検討されていない。
そこで我々はまず,この身体性コンピテンシーが,現在の子どものとらえ方のスタンダードである新体力テストの結果と,どのように関連するのかを明らかにすることとした。今回は特に身体性コンピテンシーのなかから,他者との相互作用のための運動調整能力(対人協働)をとりあげて調べることとした。
方 法
1.対象 関東地方のT市にある小中一貫校(9年制)の7年生の男女113名のうち,体調不良等で調査日に休んだ者を除く106名を対象とした。
2.調査項目 対人協働の評価のために作成された課題ゲーム「きょうりゅうのタマゴゲーム」(図1参照)の「遂行時間(秒)」と「落下回数(回)」,「移動パターン」を調査項目とした。
3.手続き:調査者は対象者に,「ボールを落としてはいけません」と伝えた後に「できるだけ速くゴールしてください」と伝えた。対象者は3回試行した。すなわち,1回目をひとりで行うソロ課題,2回目は,はじめて同士で行うペア①課題,3回目は2度目同士で行うペア②課題とした。
4.分析 対象者がすでに実施した新体力テストの総合評価段階(A:高スコアからE:低スコアの6段階)ごとにクロス集計した。
結果と考察
新体力テストのスコア段階群別に,課題ごとの遂行時間をもとに一元配置の分散分析を行ったところ,ソロ課題では群別による主効果が認められ(F(4,101)=5.777,p<.01),ペア①課題とペア②課題では群間に有意差が認められなかった。新体力テストとの相関はソロ課題にのみ中程度の相関が認められることが既に報告されていた(澤江・木塚,2013)。また表にあるように,課題間の時間の変化量を分析したところ,ソロ課題からペア①課題にかけては,新体力テストのスコア段階が変化量に影響している傾向がみられた(F(4,101)=2.438,P<.10)。しかし,ソロ課題からペア②課題にかけては,新体力テストのスコア段階の影響がなかった。以上のことから,ソロ課題が新体力テストの結果との関連が強くある一方で,ペアで運動協働の課題をすることで,新体力テストで計れる能力以外の能力が機能化した可能性が考えられた。それがどのような能力かについて,キー・コンピテンシーとの関連から検討することが今後の課題である。
参考文献
木塚朝博(2015).デュアルタスクで見積もる子どもの身体性コンピテンシー.体育の科学65.342-349.
Rychen, D, S. et al. (2003). Key Competencies for a Successful Life and a Well-Functioning Society. Hogrefe.
澤江幸則他(2014).身体性コンピテンスと未来の子どもの育ち.明石書店.