[PC15] 自閉症スペクトラム障害成人の自己感情の言及に見る感情発達の特徴
身体に起こる情動の体験はどのようであったか?
Keywords:自閉症スペクトラム障害, 感情発達, 身体
目 的
近年,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の人々に自己感情の把握やその言語化に困難があることが報告されているが(Fitzgerld & Bellgroove, 2006),そのメカニズムは検証されていない。
須田(2016)はASD者のこうした特徴について,身体論的な説明から感情イメージの困難があることを推測している。この身体論的なASD理解の立場に立つことにより,関係性の中に開かれた感情発達の問題を扱うことが可能になり,ASD者の持つ困難が,関係性のなかでどう支援可能であるかに示唆をもたらすことが期待できる。
そこで本研究では,ASD者が自分自身の身体に起こる感情をどのように語るかに焦点を当て,健全な成人との比較を通して,彼らの感情発達の特徴を探索的に記述することを目的とする。
方 法
ASDの診断を受けている成人7名(男性6名,女性1名,平均年齢:30歳)と,年齢を±3歳でマッチングさせた健全度の高い,成熟した自己を確立している成人7名に研究に参加をしてもらい(男性6名,女性1名,平均年齢:平均31歳),インタビューを行った。健全度の高い成人の選択に際してはいくつかの基準を設け,複数の評定者による一致度を取り,基準に満たない場合は対象から除外した。インタビューの内容は,普段の生活の中で感情が生起したときに,どのような身体の変化を感じるかを尋ねる形式で,8つの感情に関する質問を行った。
分 析
8つの感情について,自分がその感情を感じたときの身体の変化を想起してもらい、その変化について本人が語った発話内容を分析対象とした。感情発達の特徴を検証できるように,Damasio(2013)の情動理論に基づき,カテゴリーを作成した。
Damasio(2013)によると,情動とはもっぱら表出を伴う行動であり,顔の表情や姿勢,内臓や内部状態の変化などが含まれる。そして感情とは,このように情動が働いているときに心や身体で起こる変化の複合的な知覚を指すという。
カテゴリーは以下の3つである。①身体内外の動きや行動に関する言及(内臓・表情・筋の動きや表出行動),②感情語の言及(嬉しい,悲しいなど),③自己の感情調整のための意識的行動や思考の流れの変化への言及(例:不安なときは,人と会話するようにする)である。この分類を元にその発話頻度を測定した。
結 果
分析の結果をFigure 1.に示す。①身体反応/行動、②感情語の言及においては,ASD者と健全な成人との間で有意差はみられなかったが,③自己の感情調整のための意識的行動や思考の流れの変化で有意差が見られた。
考 察
健全な成人に感情調整のための意識的行動や思考の変化が有意に多く見られたのは,彼らの感情調整機能が成熟していることを示していると考えられる。自己の感情調整は他者との間での交流により次第に内化され機能化していく側面があり,ASD者の調整行動が相対的に弱いとしたら,今後はASD者の自己感情調整に,他者がどう関与できる可能性があるかを検討していく必要がある。
近年,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の人々に自己感情の把握やその言語化に困難があることが報告されているが(Fitzgerld & Bellgroove, 2006),そのメカニズムは検証されていない。
須田(2016)はASD者のこうした特徴について,身体論的な説明から感情イメージの困難があることを推測している。この身体論的なASD理解の立場に立つことにより,関係性の中に開かれた感情発達の問題を扱うことが可能になり,ASD者の持つ困難が,関係性のなかでどう支援可能であるかに示唆をもたらすことが期待できる。
そこで本研究では,ASD者が自分自身の身体に起こる感情をどのように語るかに焦点を当て,健全な成人との比較を通して,彼らの感情発達の特徴を探索的に記述することを目的とする。
方 法
ASDの診断を受けている成人7名(男性6名,女性1名,平均年齢:30歳)と,年齢を±3歳でマッチングさせた健全度の高い,成熟した自己を確立している成人7名に研究に参加をしてもらい(男性6名,女性1名,平均年齢:平均31歳),インタビューを行った。健全度の高い成人の選択に際してはいくつかの基準を設け,複数の評定者による一致度を取り,基準に満たない場合は対象から除外した。インタビューの内容は,普段の生活の中で感情が生起したときに,どのような身体の変化を感じるかを尋ねる形式で,8つの感情に関する質問を行った。
分 析
8つの感情について,自分がその感情を感じたときの身体の変化を想起してもらい、その変化について本人が語った発話内容を分析対象とした。感情発達の特徴を検証できるように,Damasio(2013)の情動理論に基づき,カテゴリーを作成した。
Damasio(2013)によると,情動とはもっぱら表出を伴う行動であり,顔の表情や姿勢,内臓や内部状態の変化などが含まれる。そして感情とは,このように情動が働いているときに心や身体で起こる変化の複合的な知覚を指すという。
カテゴリーは以下の3つである。①身体内外の動きや行動に関する言及(内臓・表情・筋の動きや表出行動),②感情語の言及(嬉しい,悲しいなど),③自己の感情調整のための意識的行動や思考の流れの変化への言及(例:不安なときは,人と会話するようにする)である。この分類を元にその発話頻度を測定した。
結 果
分析の結果をFigure 1.に示す。①身体反応/行動、②感情語の言及においては,ASD者と健全な成人との間で有意差はみられなかったが,③自己の感情調整のための意識的行動や思考の流れの変化で有意差が見られた。
考 察
健全な成人に感情調整のための意識的行動や思考の変化が有意に多く見られたのは,彼らの感情調整機能が成熟していることを示していると考えられる。自己の感情調整は他者との間での交流により次第に内化され機能化していく側面があり,ASD者の調整行動が相対的に弱いとしたら,今後はASD者の自己感情調整に,他者がどう関与できる可能性があるかを検討していく必要がある。