[PC20] 根拠産出トレーニングの効果に関する検討(2)
学習者の「根拠産出への積極性」に着目して
キーワード:根拠産出トレーニング, 高校生, 意見文
問題と目的
量的・質的に優れた作文が産出されるには,作文前の過程を充実させることが必要である。特に,作文が意見文や説得文の場合,「論理の筋道」をどのように作ればよいのか,言葉を操作しながら学習者が拡散的に思考する経験が必要であろう。このような考えから,西森・三宮(2012,2014,2015)は,意見文生成前の学習課題として「根拠産出トレーニング」を開発し,効果を検討してきた。
これまでのところ,根拠産出トレーニングを通して,(1) 産出される根拠数が増加すること,(2) 根拠を考えるときの視点が多様化すること,(3) [自分の主張を支える根拠]だけでなく,[自分と異なる主張を支える根拠]も考えられるようになること,が明らかになっている。これらはトレーニングを受けた学習者全体に見られた効果であったが,どのような学習者において有効と言えるのか,学習者特性を踏まえた検討はこれまでなされてこなかった。
本稿では,トレーニング前に調査した「根拠産出への積極性」を手がかりとして,根拠産出への積極性が高い学習者と低い学習者に対し,どのような影響が見られるのかを検討する。
方 法
対象者 高等学校(普通科)1年生3クラス118名(男性57名,女性61名)。
課題の構成 対象者は,ワークブックに基づきトレーニングを受けた。ワークブックは(1) フェースシート,(2) トレーニング問題(トピックの異なる5問。問題例:「消費税は20%に上げるべきだ」という主張があります。この主張についてできるだけいろいろな根拠を考えてください。),(3) 振り返りシート,から構成された。このうち(1)のフェースシートで,「根拠を考えること」に関する積極性2項目について5件法(1:とても嫌い/苦手~5:とても好き/得意)で回答が求められた。
手続き 2015年6月の国語科授業で,根拠産出トレーニングがクラス単位で実施された。担当する教師が,予め準備されたインストラクションガイドに従い,トレーニングを実施した。トレーニングは,①「主張」に対する賛成度・関心度の評定(1分間),②「主張」を支える根拠の産出(3分間),③「他者の産出した根拠例(10件)」の参照(1分間)を1セットとし,このセットが問題ごとに繰り返された。
結 果
問題への誤反応や欠損のあるものを除く82名(男性38名,女性44名)のデータが分析対象となった。ここから,「根拠を考えること」に関する積極性について,「好き嫌い」「得意不得意」の平均値をもとに,積極性高群(以下H群)8名(男性6名,女性2名)と積極性低群(以下L群)19名(男性5名,女性14名)を抽出した。
群ごとの,トレーニングにおいて産出された根拠数(平均)をFigure 1に示す。まず,トレーニングで産出された根拠数(総数)は,H群M=28.71(SD=123.9), L群M=21.79(SD=64.2)で,積極性の高低による検討を行ったところ,群による差は認められなかった(t(24)=1.76, n.s.)。次に,トレーニングを通した根拠数の伸び(第5問の根拠数−第1問の根拠数)について, H群ではM=1.14(SD=5.48), L群ではM=1.05(SD=2.27)であった。同様の検定をおこなったところ,こちらも群による差は認められなかった(t(24)=0.11, n.s.)。
考 察
根拠産出トレーニングによる影響が異なるのかどうかを検討したところ,産出した根拠総数,根拠数の伸び数のどちらにおいても,積極性の高低の違いは見られなかった。これより,「根拠を考えること」に対して消極的な学習者でも,積極的な学習者と同様に,トレーニングを介して,根拠を考え出すようになると考えられる。
今後は,今回の傾向が一貫するのかどうかを,対象者の範囲を拡大しながら検討するとともに,学習者の個人差を規定する特性について,詳細に検討する必要がある。
量的・質的に優れた作文が産出されるには,作文前の過程を充実させることが必要である。特に,作文が意見文や説得文の場合,「論理の筋道」をどのように作ればよいのか,言葉を操作しながら学習者が拡散的に思考する経験が必要であろう。このような考えから,西森・三宮(2012,2014,2015)は,意見文生成前の学習課題として「根拠産出トレーニング」を開発し,効果を検討してきた。
これまでのところ,根拠産出トレーニングを通して,(1) 産出される根拠数が増加すること,(2) 根拠を考えるときの視点が多様化すること,(3) [自分の主張を支える根拠]だけでなく,[自分と異なる主張を支える根拠]も考えられるようになること,が明らかになっている。これらはトレーニングを受けた学習者全体に見られた効果であったが,どのような学習者において有効と言えるのか,学習者特性を踏まえた検討はこれまでなされてこなかった。
本稿では,トレーニング前に調査した「根拠産出への積極性」を手がかりとして,根拠産出への積極性が高い学習者と低い学習者に対し,どのような影響が見られるのかを検討する。
方 法
対象者 高等学校(普通科)1年生3クラス118名(男性57名,女性61名)。
課題の構成 対象者は,ワークブックに基づきトレーニングを受けた。ワークブックは(1) フェースシート,(2) トレーニング問題(トピックの異なる5問。問題例:「消費税は20%に上げるべきだ」という主張があります。この主張についてできるだけいろいろな根拠を考えてください。),(3) 振り返りシート,から構成された。このうち(1)のフェースシートで,「根拠を考えること」に関する積極性2項目について5件法(1:とても嫌い/苦手~5:とても好き/得意)で回答が求められた。
手続き 2015年6月の国語科授業で,根拠産出トレーニングがクラス単位で実施された。担当する教師が,予め準備されたインストラクションガイドに従い,トレーニングを実施した。トレーニングは,①「主張」に対する賛成度・関心度の評定(1分間),②「主張」を支える根拠の産出(3分間),③「他者の産出した根拠例(10件)」の参照(1分間)を1セットとし,このセットが問題ごとに繰り返された。
結 果
問題への誤反応や欠損のあるものを除く82名(男性38名,女性44名)のデータが分析対象となった。ここから,「根拠を考えること」に関する積極性について,「好き嫌い」「得意不得意」の平均値をもとに,積極性高群(以下H群)8名(男性6名,女性2名)と積極性低群(以下L群)19名(男性5名,女性14名)を抽出した。
群ごとの,トレーニングにおいて産出された根拠数(平均)をFigure 1に示す。まず,トレーニングで産出された根拠数(総数)は,H群M=28.71(SD=123.9), L群M=21.79(SD=64.2)で,積極性の高低による検討を行ったところ,群による差は認められなかった(t(24)=1.76, n.s.)。次に,トレーニングを通した根拠数の伸び(第5問の根拠数−第1問の根拠数)について, H群ではM=1.14(SD=5.48), L群ではM=1.05(SD=2.27)であった。同様の検定をおこなったところ,こちらも群による差は認められなかった(t(24)=0.11, n.s.)。
考 察
根拠産出トレーニングによる影響が異なるのかどうかを検討したところ,産出した根拠総数,根拠数の伸び数のどちらにおいても,積極性の高低の違いは見られなかった。これより,「根拠を考えること」に対して消極的な学習者でも,積極的な学習者と同様に,トレーニングを介して,根拠を考え出すようになると考えられる。
今後は,今回の傾向が一貫するのかどうかを,対象者の範囲を拡大しながら検討するとともに,学習者の個人差を規定する特性について,詳細に検討する必要がある。