The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PC22] マルチレベル分析によるアクティブラーニング型授業の効果測定(2)

協同作業認識への影響

杉本英晴1, 佐藤友美#2, 高比良美詠子3 (1.中部大学, 2.中部大学, 3.中部大学)

Keywords:アクティブラーニング, 協同作業認識, マルチレベル分析

 近年,大学教育では少子化に伴う大学のユニバーサル化に対応すべく,学習者の能動的な学習への参加を取り入れたアクティブラーニング (中央教育審議会, 2012) の導入がすすめられている。アクティブラーニング型授業では,汎用的技能・態度および,それを支える能力の育成が目標の1つに掲げられているため (溝上, 2014),その教育効果についての十分な検証が求められている。たとえば,グループワークの形式を取る協同学習は,教育効果があらわれる有効な教育方法であることがみとめられている (e.g., 長濱・安永・関田・甲原, 2009)。
 ただし,これまでの検証の多くは,所属する集団に共通する集団レベルの効果と,集団レベルの効果を除去した個人レベルの効果を分離していない。しかし,協同学習の教育効果を正しく推定するためには,集団レベルの効果と個人レベルの効果を分けて算出する必要があるだろう。
 そこで本稿では,汎用的態度の1つとして「協同作業認識」 (長濱他, 2009) に注目し,4ヶ月間に渡るグループワーク活動(発言活動と協同活動)が,汎用的態度に及ぼす集団レベルおよび個人レベルの効果を,マルチレベル構造方程式モデリングを用いて検討する。また所属する集団内の環境 (活動的か否か) が及ぼす教育効果についても併せて検討する。
方   法
 調査対象者 4年制大学の心理学科のアクティブラーニング型授業を履修した185名(女性66名,男性119名)で,5~8名の固定メンバーから成る30グループで実施した。
 質問紙 (1) グループワーク活動:Bonwell & Eison (1991),関田・安永 (2005) 等を参考に,グループワーク内で「発言活動」(例,「相手が話していることの要点を的確に理解してその要点に対して発言する」「正解か否かを気にせずに発言する」) や,「協同活動」 (例,「グループで責任を持つ」「あらゆる適切な情報や考え方は共有する」) ができたかどうかを測定する11項目を作成し使用した。(2) 協同作業認識:長濱他 (2009) の協同作業認識尺度 (協同効用,個人志向,互恵懸念) を使用した。
 手続き (1) は第2回から第14回の授業終了時に毎回測定した。(2) は第1回授業開始前と第15回授業終了時に測定した。
結果と考察
 協同作業認識の3因子 (協同効用,個人志向,互恵懸念) のそれぞれに対して,グループワーク活動が及ぼす効果を検討するために,Figure 1の分析モデルを使用した。2種類のグループワーク活動得点には13回分の得点の平均値を用い,級内相関係数はそれぞれ0.09と0.21であった。説明変数は全体平均による中心化を行った。
 その結果,集団レベル (a~c) では,パス (a) において互恵懸念にのみ有意傾向の正の効果が得られた。すなわち,授業開始前に協同作業で得られる恩恵が人によって異なると認識しているグループほど,全授業終了時においても平均してその認識が高い傾向にあるという集団レベルの効果が示された。
 個人レベル (f~h) では,一部に有意なパスが見られた。パス (f) については,協同効用と互恵懸念で有意な正の効果が得られ,授業開始前のこうした認識が高い人ほど全授業終了時の認識も高かった。パス (g) については,協同効用に対して有意な負の効果が得られ,グループワーク中に発言できた人ほど,全授業終了時に仲間とともに作業することの有効性を低く認識していた。パス (h) については,協同効用に対して有意な正の効果が得られ,グループワーク中に協同活動ができた人ほど,全授業終了時に仲間とともに作業することの有効性を高く認識していた。なお,グループ全体の活動レベルの高さ(集団環境)は個人レベルのパス (f) の強さに影響していなかった (パスd, e)。
 以上の結果から,集団レベルの効果を除去すると,集団での発言活動は個人レベルの協同効用を低め,協同活動は個人レベルの協同効用を高める可能性が示された。