The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PC26] 読み手意識尺度と説明文のわかりやすさの関連性に関する検討

読み手の背景要因に注目した尺度妥当性の検証

辻義人1, 澤田大輝#2 (1.小樽商科大学, 2.北海道岩内高等学校)

Keywords:説明, 読み手意識

目   的
 わかりやすい説明を行うには,どのような点に注意する必要があるのだろうか。この点について,辻(2010)は,説明者の情報処理モデルの観点に基づく提言を行った。それによると,説明者は,説明の受け手の既有知識や理解度,また,置かれた状況について推測し,それに合わせた適切な説明内容と方法を選択する必要がある。ここで,説明者による読み手の推測,および適切な説明内容と方法の選択に関して,岸・辻・籾山(2014)は,「読み手意識尺度(Audience Awareness)」の作成と検討を行っている。読み手意識尺度は「説明意識」「書き手意識」「メタ理解」「工夫実践」これらの4因子から構成される。しかしながら,読み手意識尺度の妥当性については,読み手に対する配慮の有無の評定,また,説明文を適切な順番に並び替える課題の成績,これらの観点のみに基づくものであった。ここで,読み手意識尺度の妥当性に関する追試を実施したところ,「工夫実践」因子が説明文のわかりやすさに負の影響を及ぼしていることが示された(β=-.63)(辻, 2015)。この結果は,読み手の理解度向上を意図した,説明者の工夫(比喩やたとえ話など)が,かえって読み手の理解を阻害した可能性を示すものである。
 これらの結果は,読み手意識尺度と説明文のわかりやすさとの関連に関して,さらなる妥当性の検証が求められている。本研究では,説明者の読み手意識尺度に注目し,その高低間における説明文の違いの検討を行う。
方   法
[評価課題の作成]調査は2016年1月に実施した。大学生29名に読み手意識尺度に回答させ,高群・中間群・低群に群分けを行った。続いて,道案内文(最寄り駅から大学までの道のり:徒歩20分程度)を作成させた。その際,道のりを知らない高校生を読み手として,案内文を作成するように教示を行った。ここで,実験者による協議を通して,読み手意識の高群・中間群・低群に典型的な道案内文(各3文)を選定し,調査票を作成した。
[説明文評価実験]県内A高校において,前述の調査票に関する評価課題を実施した。被験者は高校生199名であった。被験者に,先行知識のない道のりに関する案内文について評価させた。その際の観点として,以下の6点を設定した(いずれも7件法)。①わかりやすさ。②読み手に対する配慮。③ていねいさ。④シンプルさ。⑤説明文に対する好感度。⑥目的地に到着する自信。回答には45分程度を要した。また,同様の調査を,同大学の学生21名に実施した。
結果と考察
[読み手意識尺度の高低間の比較]読み手意識尺度高群の説明文に対して,②読み手に対する配慮,④ていねいさ,これらの評定値が高い結果が得られた (いずれもp<.01)。この群における道案内文は,読み手に対する配慮が感じられ,記述がていねいであったことが伺える。一方,読み手意識中間群の④シンプルさの評定値が高い結果が得られた(p<.05)。この場合,読み手意識高群は,読み手の既有知識を推測し,意図的に簡潔ではない丁寧な説明を行っていたと考えられる。
[既有知識量に関する比較]読み手の既有知識に関して,知識量の多い大学生の⑥目的地に到着する自信の評定値が高い結果が得られた(p<.05)。
[差が見られなかった項目]以上の比較を通して,①わかりやすさ,⑤説明文に対する好感度,これらに関する主効果・交互作用ともに認められなかった。辻(2015)の結果と同様,説明文のわかりやすさに違いが見られなかったことから,説明文の評定課題の追試,また,さらに詳細な尺度妥当性の検証が必要であると考えられる。