日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC34] 保育実習におけるメンタライゼーション能力の影響

保育者効力感および保育(者)観の変化との関連から

田爪宏二1, 廣瀬真喜子2, 増田優子3 (1.京都教育大学, 2.沖縄女子短期大学, 3.大阪大学大学院)

キーワード:保育者養成, メンタライゼーション, 保育者効力感

 保育者養成課程においては,教育・保育実習が保育者としての成長の1つの契機となる。実習においては,子どもや指導保育者の行動や意図,心的状態の理解といった他者認知,および実習生(保育者)としての自分や,子どもや指導保育者からどのように見られているかについての理解といった自己認知の能力が必要となると考えられる。このような能力を示す概念として,メンタライゼーション能力,すなわち,自己や他者の心理的状態や感情に対する,感情体験や共感を含んだ理解に関する能力が挙げられる (Fonagy & Target, 1997)。
 また,保育現場における実習の経験は,保育者としての効力感(三木・桜井, 1998),や保育(者)観の変化に影響する(田爪・廣瀬, 2016)。そこで本研究では,実習生のもつメンタライゼーション能力による,保育者としての効力感および保育(者)観の変化の差異について検討する。
方   法
 調査対象 保育士,幼稚園教諭の養成を主とする短期大学の1年生127名(女性121名,男性6名)。初めての保育現場での実習(保育実習I)の修了後に質問紙調査を実施した。
 質問項目 ①メンタライゼーション能力尺度(山口, 2011:4件法) 因子分析の結果,自己に対する能力を示す因子[自己の直観的理解の難しさ][自己の命題的理解]と,他者に対する能力を示す因子[他者の直観的理解][他者の命題的理解]の計4因子が得られた。②保育者効力感尺度(三木・桜井, 1998:5件法) 原本は1因子からなるが,本研究では田爪・廣瀬 (2016) と同様に,尺度の全得点および「対人場面における効力感[対人効力感]」,「クラスの指導や運営における効力感[指導運営効力感]」の2因子を使用した。①②とも,各因子項目の平均値を尺度得点とした。③保育者観の変化,④保育観の変化 実習経験による保育者観や保育観の変化 (5件法) およびその内容(自由記述)について回答を求めた。
結果と考察
 分析1.メンタライゼーション能力の高低による比較 質問項目①メンタライゼーション能力尺度の各因子の尺度得点のM±0.5SDを基準に高/中/低群に分けて独立変数とし,質問項目②③④の各尺度得点を従属変数として分散分析を行った。その結果,②保育者効力感の全得点および各因子について,メンタライゼーション能力の[他者の直観的理解][他者の命題理解]の高,中,低群の順で得点が高かった。また,③④保育 (者) 観の変化については,メンタライゼーション能力の[自己の命題理解]の高群の得点が他よりも低かった。
 分析2.メンタライゼーション能力のパタンによる比較 質問項目①の4因子の尺度得点を基準にWard法による階層的クラスタ分析を行った。その結果得られた4クラスタを独立変数,質問項目②③④の各尺度得点を従属変数として分散分析を行った (Figure 1)。その結果,他者に対するメンタライゼーション能力が低い第1クラスタの学生は,②保育者効力感の全得点および各因子の得点が他より低かった。また,自己および他者に対するメンタライゼーション能力が高い第3クラスタの学生は②保育者効力感の全得点および[対人効力感]の,他者に対するメンタライゼーション能力が高い第4クラスタの学生は②保育者効力感の全得点および[指導運営効力感]の尺度得点が,それぞれ他よりも高かった。
 他方,③④保育 (者) 観の変化については,クラスタによる有意な差はみられなかった。
 まとめ 以上の結果を総合すると,メンタライゼーション能力のうち,他者に対する能力が高い者ほど実習の経験によって保育者効力感が高くなることが示唆された。また,実習経験による保育 (者) 観の変化は全体的に大きいものの,[他者の命題理解]の能力が高い者は変化が比較的小さく,安定したものであると考えられる。