日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC37] アクティブラーニング型授業は意義ある学習経験をもたらしたか

自由記述の探索的分析から

永井靖人1, 山田敏子#2 (1.小田原短期大学, 2.名古屋学芸大学)

キーワード:アクティブラーニング, 高等教育, 自由記述

問題と目的
 高等教育がアクティブラーニングに寄せる期待は大きい。しかし,効果の実証研究はまだ少なく,実践例も開発的推進者によるものが多い。そこで本研究では,FD研修の受講を経てアクティブラーニング型授業を導入した教員の実践事例をもとに,アクティブラーニングは学生に有意義な学習経験をもたらすのか。さらには大学教育の目標達成に寄与するのか。受講者の自由記述を探索的に分析することで,学習効果の検証を試みる。
方   法
 授業の概要 授業は道徳教育に関する教職科目。受講者は4年生82名。講義では従来型の知識伝達に加え,バズセッション,ペアーワークや問答法,反転授業を導入することでアクティブラーニングとした。学生には授業時間外学習として,予習,討論テーマの作成を10回にわたって課した。
 学習成果の測定 最終回で予習,討論,討論テーマの作成にどう取り組み,どのような成果を得たのかを記述させた。
結果と考察
 ネガポジ分析 82名×3種類(予習,討論,討論テーマの作成)の記述のうち,1名がやや否定的で,「他の授業の予習と混同した」「課題の量が多かった」としつつも,討論は有意義であったと評価していた。他に2名が「発表するだけで討論にならなかった」としていた。
 記述の分類と度数 自由記述246件を溝上(2014)を参考に,Fink(2003)の「意義ある学習経験」6要素(表1),Chickering(1969)の「大学教育の目的」7要素(表3)が反映されているか否かを01コーディングにより分類した。
 Finkの「意義ある学習経験」について,応用と統合を示す記述は20%程度にとどまった。一方で学生の半数以上から予習,討論,討論テーマの作成により,理解や学習方略の深化,個人的・社会的な示唆を得たとの記述がみられた。次に記述の類似度を階層的クラスター分析(Ward法,平均連結法;ユークリッド距離)により確かめたところ,効果の認知傾向に5つほどの類型が見出された(表2)。
 Chickeringの「大学教育の目的」については,意見の交換を高く評価する者が多かった(74%)。他の要素は20~30%にとどまったが,「~できた」の記述が52名の学生から84件みられた。
 本研究の授業実践では,教師による知識伝達は従来通り重視されていた。しかし,討論のテーマを学生に考えさせるなど,「深いアプローチ」の演習的要素を組み込んだ。その結果,アクティブラーニング型授業は受容され,一定の「意義ある学習経験」をもたらすことが示された。
 一方で,効果の認知には依然として類型化できる傾向性が見出された。学習者特性への対応(ATI)も軽視できない。また,応用や統合といった高次の認知プロセスを示す記述は多くなかった。アセスメントの改良とともに,「逆向き設計」など,教育目標を実現するための直接的な授業・コースデザインが必要となろう。