日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC39] 文章産出困難感尺度の因果関係の検討

大学初年次の文章産出の訓練は因果関係を変化させるか

椿本弥生1, 冨永敦子2 (1.公立はこだて未来大学, 2.公立はこだて未来大学)

キーワード:文章産出困難感, 学術的文章, 因果モデル

背景と目的
 大学生に対して学術的文章の作成スキルの向上が求められている。しかしながら,文章産出に困難をおぼえる学生は少なくない。岸ら(2012)は,産出過程で生じる困難を文章産出困難感尺度として提示した。本研究では,学術的文章の産出プロセスを経験する前後で,文章産出困難感の因果関係モデルに違いがあるかを検討する。
方   法
 半期15回で,詳細化アウトライン等を用いた文章産出の講義を行った。講義の初回(pre)と最終回(post)に,文章産出困難感尺度(31項目,7件法。以下,困難感尺度)に集団形式で回答させた。回答は,講義で用いたLMS上で収集した。
結果と考察
 preとpostの両方の調査に回答した206名を分析対象とした。
◯困難感尺度の内的整合性の検討 困難感尺度の5つの下位尺度に対して,preとpostに分けて信頼性分析を行った。その結果,十分な値が得られた(Table 1)。また,preとpostの尺度ごとに,対応する項目得点の合計値を算出した。
◯ 共分散構造分析によるモデルの検討 仮定したモデルに対して,preとpostごとに共分散構造分析を行った。結果をFigure 1および2に示す。各尺度の得点の合計値を観測変数に設定した。その結果,preでは全体構成→推敲の直接効果が有意ではなかった。それ以外は有意であった(p<.001)。また,全ての間接効果が有意であった(p<.001)。postでは,全てのパスが有意であった(p<.001。読み手意識→表現選択のみ p<.05)。間接効果は,全体構成→読み手意識と,全体構成→推敲のみ有意であった(p<.001)。
 全体構成から推敲への間接効果は,preでは全てのパスでみられた。一方postでは全体構成からのみであった。また,全体構成から推敲への直接効果はpostでのみみられた。この結果から,preではライティングプロセスごとの部分的・逐次的な推敲にとどまっていたのに比べ,postでは文章全体のまとまりや一貫性を捉えたうえで,全体的・連続的な視点から文章を検討し修正できるようになると考えられる。
引用文献
岸 学・梶井芳明・飯島里美(2012).文章産出困難感尺度の作成とその妥当性の検討.東京学芸大学紀要, 総合教育科学系, 63(1), pp.159-169