日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC40] 児童の学習への動機づけを高めるほめ手

児童と教師の認知の比較

青木直子 (藤女子大学)

キーワード:動機づけ, ほめ, 児童

問題と目的
 教師向けの書籍では,児童の動機づけを高めるには,意外な人物がほめること(明石,2011),快く思われていない人物からはほめないこと (山中,2012), 児童との信頼関係のある人物がほめること(櫻井,2009)などが有効であるとされる。しかし,ほめることと動機づけの関連を検討した研究では,ほめる際の言葉かけそのものが検討されることが多く,ほめ手に関する研究は不足している。また,「ほめ」に関する研究は,ほめ手側の視点から行われることが多く,ほめられる側からみた「ほめ」については検討が十分ではない。そこで,本研究では,児童の動機づけに影響を与えるほめ手について,児童と教師の両方の視点から検討する。
方   法
 小学生141名(男子70名・女子71名)と小学校教師96名(男性41名・女性54名・不明1名)を対象とした質問紙調査を行った。小学生を対象とした調査では,担任の先生・同学年他学級の担任の先生・教頭先生・校長先生・クラブや委員会の先生・TTの先生について,それぞれの先生からほめられたときに勉強に対する動機づけがどの程度高まるかをたずねた。教師を対象とした調査では,各先生が児童をほめたとき,児童の勉強に対する動機づけがどの程度高まるか,低学年・中学年・高学年の場合についてそれぞれたずねた。評定は,ともに4件法とした。
結   果
 担任の先生・同学年他学級の担任の先生・教頭先生・校長先生については,学年群ごと(低学年・中学年・高学年)にt検定を行い,児童と教師の評定結果を比較した。クラブや委員会は4年生以上,TTによる授業は2年生以上で行われていたため,前者については高学年,後者は中学年・高学年での比較を行った(Table 1)。
 担任の先生 中学年・高学年において,有意差がみられた(順に,t (50.98) = 3.06, p = .003; t (124) = 2.79, p = .006)。いずれも,教師の方が児童よりも担任の先生がほめることの有効性を高く評定していた。
 同学年他学級の担任の先生 低学年・中学年・高学年において,有意差がみられた(順に,t (104.32) = 3.19, p = .002; t (48.25) = 3.75, p < .001; t (124) = 3.66, p < .001)。いずれも,教師の評定の方が高かった。
 教頭先生・校長先生 児童と教師の評定に有意差はみられなかった。
 委員会やクラブの先生 高学年での分析を行ったところ,有意差がみられ(t (112) = 2.60, p = .010)教師の評定が児童よりも高いという結果になった。
 TTの先生 中学年・高学年での分析の結果,中学年で有意差がみられた(t (48.82) = 3.93, p < .001)。教師は,児童よりもTTの先生がほめることで児童の動機づけが高まると評定していた。
考   察
 担任の先生・同学年他学級の担任の先生といった,児童と一緒に活動することの多い人物では,児童と教師の評定にずれがみられた。また,教頭先生・校長先生といった,ともに活動する機会の少ない人物では,評定の差はみられなかった。教師が児童をほめる際に児童の変化をとらえてほめることや,児童との信頼関係を築いた上でほめることを重視する。そのため,それらが可能となる児童にとって身近な人物がほめ手となるとき,教師は動機づけを高める効果を高く評定し,児童との認知のずれが大きくなったといえる
 TTの先生は,中学年では有意差がみられたが,高学年では有意差がみられなかった。これは,高学年になると,児童自身がTTで行われる授業の意味や学習効果を理解できるようになり,TTの先生からほめられることが動機づけの向上につながると感じられるようになるといった,TTによる授業に対する認知を反映している可能性がある。また,学年によってTTによる授業回数・科目などが異なるため,そういった面の影響があったことも推測される。

*本研究はJSPS科研費15K17278の助成を受けたものです