[PC42] 協同学習の進行に伴う学びへの態度の変化
問題解決学習を取り入れた大学授業を対象として
Keywords:協同学習, 学習態度, 認識論的信念
問題と目的
近年,授業を能動的な学びの場とすることの重要性が指摘されている。大学においては,シラバスを詳細に示し,予・復習を含めた学びに学生が能動的に取り組むことが求められており,協同学習や問題解決学習,反転学習等の方法論を導入した授業が展開されるようになっている。
学習形態や学習方法の工夫は,学習者の能動的な学習態度を引き出すために行われるものである。確かに,外的な環境は,学習を方向付けるものであるが,学習行動は,学習者自身の学びへの態度や認識論的信念(学習に関する態度や信念)によっても影響されるものである。そのため,学習形態や学習方法の工夫は,学習者自身の態度や信念に働きかけるものである必要があるだろう。
本研究は,学習者の学びへの態度について,問題解決学習を用いた授業進行に伴う変化を検討することを目的とする。
方 法
対象とした授業 生徒指導に関する教職科目を検討対象とした。この授業では,生徒指導に関する複数の事例を軸として,事例についての個々人の考えを出し合って議論し,事例理解に必要となる知識を学び,知識を得た上で再度議論して,理解の深化や対応策の立案を目指すという,問題解決型の授業であった。授業は3~4人のグループを基本単位として,協同学習の理念と手法を用いて進められた。受講生が授業に能動的に取り組めるよう初回と第2回の授業時に協同学習の考え方と基本的な手法を学び,学んだ視点に関して毎回の振り返りを行うことで,その定着を図った。
調査時期 第5回,10回,14回の授業時に調査協力を呼びかけ,コースマネジメントシステム(Moodle)を用いて回答を得た。
調査協力者 3回の調査に一度でも協力した人は113名であり(全受講者の95%),うち,全ての調査に回答した人は48名(同40%)であった。
使用した尺度 Galotti, Clinchy, Ainsworth, Lavin, & Mansfield (1999) によるAttitudes to Thinking and Learning Surveyの邦訳版のうち,協同的な学びに関係が深いと考えられるconnected knowingに関する項目群(10項目)を用いた。10項目でのα係数を算出したところα=.72と項目数に対して低く,1次元性が想定されなかった。日本人大学生における構造の検討がなされていないことも鑑み,尺度構造の検討を行った上で,得点変化を検討することとした。
結果と考察
尺度の構造の検討 因子分析(最小二乗法・プロマックス回転)を行った。その結果,固有値の減衰状況と解釈可能性から,3因子構造と判断された。各因子は,当該因子に高い負荷量を示した項目の内容から,「関心」(“私は,他の人の意見や信じていることを知ることに興味があります。”等3項目),「共感」(“私の意見とかけ離れた人に遭遇した時,その人がどのようにしてそのような考え方を持ったのかを知るために,自分を相手の立場に置き換える慎重な努力をします。”等3項目),「理解に基づく獲得」(“学習にとって一番大切なことは,私と異なる意見を持った人のことを理解することだと思います。”等3項目)と命名された。各因子に最も高い負荷を示した項目から下位尺度を構成し,α係数を算出したところ,「関心」ではα=.72,「共感」ではα=.63,「理解に基づく獲得」ではα=.58と,項目数を考慮すると許容範囲といえる値が得られた。
授業進行に伴う変化の検討 各下位尺度得点(Table 1)の時系列的な変化について検討するために,調査時期を被験者内要因とする分散分析を行った。その結果,「関心」で有意な(F=6.94; p<.01),「共感」で有意傾向の (F=2.49; p<.10) のF値が得られた。得点差について多重比較を行った結果,「関心」では初回調査時の得点より最終調査時の得点が有意に低いこと,逆に,「共感」では初回調査より最終調査時の得点が有意傾向(p<.10)に高いことが明らかになった。「理解に基づく獲得」得点には,時期による有意な差は見られなかった。これらの結果から,関わりが深まるにつれ,他者の意見に着目しようという表面的な態度(関心)から,意見の背景に着目しようとする態度(共感)へと変化する可能性が示唆された。
近年,授業を能動的な学びの場とすることの重要性が指摘されている。大学においては,シラバスを詳細に示し,予・復習を含めた学びに学生が能動的に取り組むことが求められており,協同学習や問題解決学習,反転学習等の方法論を導入した授業が展開されるようになっている。
学習形態や学習方法の工夫は,学習者の能動的な学習態度を引き出すために行われるものである。確かに,外的な環境は,学習を方向付けるものであるが,学習行動は,学習者自身の学びへの態度や認識論的信念(学習に関する態度や信念)によっても影響されるものである。そのため,学習形態や学習方法の工夫は,学習者自身の態度や信念に働きかけるものである必要があるだろう。
本研究は,学習者の学びへの態度について,問題解決学習を用いた授業進行に伴う変化を検討することを目的とする。
方 法
対象とした授業 生徒指導に関する教職科目を検討対象とした。この授業では,生徒指導に関する複数の事例を軸として,事例についての個々人の考えを出し合って議論し,事例理解に必要となる知識を学び,知識を得た上で再度議論して,理解の深化や対応策の立案を目指すという,問題解決型の授業であった。授業は3~4人のグループを基本単位として,協同学習の理念と手法を用いて進められた。受講生が授業に能動的に取り組めるよう初回と第2回の授業時に協同学習の考え方と基本的な手法を学び,学んだ視点に関して毎回の振り返りを行うことで,その定着を図った。
調査時期 第5回,10回,14回の授業時に調査協力を呼びかけ,コースマネジメントシステム(Moodle)を用いて回答を得た。
調査協力者 3回の調査に一度でも協力した人は113名であり(全受講者の95%),うち,全ての調査に回答した人は48名(同40%)であった。
使用した尺度 Galotti, Clinchy, Ainsworth, Lavin, & Mansfield (1999) によるAttitudes to Thinking and Learning Surveyの邦訳版のうち,協同的な学びに関係が深いと考えられるconnected knowingに関する項目群(10項目)を用いた。10項目でのα係数を算出したところα=.72と項目数に対して低く,1次元性が想定されなかった。日本人大学生における構造の検討がなされていないことも鑑み,尺度構造の検討を行った上で,得点変化を検討することとした。
結果と考察
尺度の構造の検討 因子分析(最小二乗法・プロマックス回転)を行った。その結果,固有値の減衰状況と解釈可能性から,3因子構造と判断された。各因子は,当該因子に高い負荷量を示した項目の内容から,「関心」(“私は,他の人の意見や信じていることを知ることに興味があります。”等3項目),「共感」(“私の意見とかけ離れた人に遭遇した時,その人がどのようにしてそのような考え方を持ったのかを知るために,自分を相手の立場に置き換える慎重な努力をします。”等3項目),「理解に基づく獲得」(“学習にとって一番大切なことは,私と異なる意見を持った人のことを理解することだと思います。”等3項目)と命名された。各因子に最も高い負荷を示した項目から下位尺度を構成し,α係数を算出したところ,「関心」ではα=.72,「共感」ではα=.63,「理解に基づく獲得」ではα=.58と,項目数を考慮すると許容範囲といえる値が得られた。
授業進行に伴う変化の検討 各下位尺度得点(Table 1)の時系列的な変化について検討するために,調査時期を被験者内要因とする分散分析を行った。その結果,「関心」で有意な(F=6.94; p<.01),「共感」で有意傾向の (F=2.49; p<.10) のF値が得られた。得点差について多重比較を行った結果,「関心」では初回調査時の得点より最終調査時の得点が有意に低いこと,逆に,「共感」では初回調査より最終調査時の得点が有意傾向(p<.10)に高いことが明らかになった。「理解に基づく獲得」得点には,時期による有意な差は見られなかった。これらの結果から,関わりが深まるにつれ,他者の意見に着目しようという表面的な態度(関心)から,意見の背景に着目しようとする態度(共感)へと変化する可能性が示唆された。