[PC49] 防衛的悲観主義者のメタ認知に関する検討
キーワード:防衛的悲観主義, メタ認知
目 的
Norem & Cantor(1986)は,学業達成場面において不安が高く悲観的でありながら良い成績を維持する学生の存在を指摘し,悲観的思考を認知的対処方略とする防衛的悲観主義(Defensive Pessimism; DP)の概念を提唱した。そして精神的健康に対して否定的な影響を与える悲観主義を真の悲観主義(Realistic Pessimism; RP)と呼び,DPと区別した。また,DPとは異なる認知的対処方略として方略的楽観主義(Strategic Optimism; SO)という概念が設けられている。
近年,DPに関するさまざまな研究結果からDPの特徴が明らかになりつつある。たとえばNorem(2001)は,DPはこれから迎える遂行場面に対して悲観的な予測をたてること,状態不安が高いこと,肯定的および否定的内容を熟考すること,メンタルリハーサルや積極的な対処行動などの入念な準備を行うことによって,遂行課題に対して高いパフォーマンスを示すことを報告した。外山(2012)は,DPは学習場面においてメタ認知的方略を多く用い,メタ認知的活動が学業成績に正の影響を与えるという結果を報告した。
メタ認知とは,自分の認知的活動に対する認知のことである。メタ認知は単一的な概念ではなく多面的な概念であり,メタ認知的知識,メタ認知的モニタリング,および,メタ認知的コントロールといった3つの側面から成り立つ(Dunlosky & Metcalfe, 2009)。本研究では,学習場面に特化したメタ認知的方略ではなく,DP者のメタ認知能力について包括的に検討をおこなうことを第一の目的とした。
また,日本人におけるDPの肯定的熟考に関しては結果が一致していない。日本人は悲観性が高いと指摘されていることから,DPの特徴に文化差が反映される可能性が考えられる。DPの肯定的熟考に関して一貫しないこれまでの結果は尺度の違いによるのか検討することを第二の目的とした。
方 法
3種類の質問紙について,大学生313名を対象に無記名方式による集団実施を行った。
1.荒木(2008)の防衛的悲観主義尺度(JDPI):「悲観」12項目,「過去の成績」4項目,「肯定的熟考」5項目,「努力」3項目,全24項目。6段階評定。2.外山(2015)の熟考尺度:「失敗に対する予期・熟考」5項目,「過去のパフォーマンスの認知」5項目,「成功に対する熟考」5項目,「計画に対する熟考」5項目,全20項目。7段階評定。3.阿部・井田(2010)の成人用メタ認知尺度:「モニタリング」11項目,「コントロール」9項目,「メタ認知的知識」8項目,全28項目。6段階評定。
結果と考察
JDPIおよび熟考尺度についてクラスタ分析をおこなった結果,それぞれ4つの解釈可能なクラスタが得られた(Figure 1および2)。どちらの尺度においてもDP群はポジティブな熟考が低かった。また,メタ認知尺度得点に関して,熟考尺度によって分類された群を独立変数として分散分析をおこなった(Figure 3)。その結果,DP群はRP群および統制群と比べてメタ認知能力が有意に高かった。JDPIにおいても同様の結果であった。よって,DP者におけるパフォーマンスの高さは優れたメタ認知能力が一因となっている可能性が示唆される。
(本研究は,金沢大学人文学類心理学コース4年の曽澤菜月さんがデータを収集・分析した共同研究です。)
Norem & Cantor(1986)は,学業達成場面において不安が高く悲観的でありながら良い成績を維持する学生の存在を指摘し,悲観的思考を認知的対処方略とする防衛的悲観主義(Defensive Pessimism; DP)の概念を提唱した。そして精神的健康に対して否定的な影響を与える悲観主義を真の悲観主義(Realistic Pessimism; RP)と呼び,DPと区別した。また,DPとは異なる認知的対処方略として方略的楽観主義(Strategic Optimism; SO)という概念が設けられている。
近年,DPに関するさまざまな研究結果からDPの特徴が明らかになりつつある。たとえばNorem(2001)は,DPはこれから迎える遂行場面に対して悲観的な予測をたてること,状態不安が高いこと,肯定的および否定的内容を熟考すること,メンタルリハーサルや積極的な対処行動などの入念な準備を行うことによって,遂行課題に対して高いパフォーマンスを示すことを報告した。外山(2012)は,DPは学習場面においてメタ認知的方略を多く用い,メタ認知的活動が学業成績に正の影響を与えるという結果を報告した。
メタ認知とは,自分の認知的活動に対する認知のことである。メタ認知は単一的な概念ではなく多面的な概念であり,メタ認知的知識,メタ認知的モニタリング,および,メタ認知的コントロールといった3つの側面から成り立つ(Dunlosky & Metcalfe, 2009)。本研究では,学習場面に特化したメタ認知的方略ではなく,DP者のメタ認知能力について包括的に検討をおこなうことを第一の目的とした。
また,日本人におけるDPの肯定的熟考に関しては結果が一致していない。日本人は悲観性が高いと指摘されていることから,DPの特徴に文化差が反映される可能性が考えられる。DPの肯定的熟考に関して一貫しないこれまでの結果は尺度の違いによるのか検討することを第二の目的とした。
方 法
3種類の質問紙について,大学生313名を対象に無記名方式による集団実施を行った。
1.荒木(2008)の防衛的悲観主義尺度(JDPI):「悲観」12項目,「過去の成績」4項目,「肯定的熟考」5項目,「努力」3項目,全24項目。6段階評定。2.外山(2015)の熟考尺度:「失敗に対する予期・熟考」5項目,「過去のパフォーマンスの認知」5項目,「成功に対する熟考」5項目,「計画に対する熟考」5項目,全20項目。7段階評定。3.阿部・井田(2010)の成人用メタ認知尺度:「モニタリング」11項目,「コントロール」9項目,「メタ認知的知識」8項目,全28項目。6段階評定。
結果と考察
JDPIおよび熟考尺度についてクラスタ分析をおこなった結果,それぞれ4つの解釈可能なクラスタが得られた(Figure 1および2)。どちらの尺度においてもDP群はポジティブな熟考が低かった。また,メタ認知尺度得点に関して,熟考尺度によって分類された群を独立変数として分散分析をおこなった(Figure 3)。その結果,DP群はRP群および統制群と比べてメタ認知能力が有意に高かった。JDPIにおいても同様の結果であった。よって,DP者におけるパフォーマンスの高さは優れたメタ認知能力が一因となっている可能性が示唆される。
(本研究は,金沢大学人文学類心理学コース4年の曽澤菜月さんがデータを収集・分析した共同研究です。)