[PC50] 公共の場における規範逸脱行動に対する中学生の態度と逸脱頻度の関連
「周囲にいる他者」の態度に着目して
キーワード:規範逸脱行動, 学級, 中学生
問 題
本研究は,教室や学校等,公共の場における中学生の規範逸脱行動について,「周囲にいる他者」の影響に着目して検討した。
方 法
測定した変数
逸脱頻度 私語(授業と無関係の私語),内職,ゴミのポイ捨て,信号無視,という4つの行動の頻度について,「1.ぜんぜんしなかった~5.たくさんした」で回答を求めた。私語については,私語尺度(出口・吉田,2005)による測定も行った。
規範逸脱行動に対する態度 上の4つの各行動について,「自分も周囲も遵守(R)」「自分は遵守,周囲は逸脱(S)」「自分は逸脱,周囲は遵守(T)」「自分も周囲も逸脱(P)」という仮想の4状況を提示した。そして,「1.非常に不満~7.とても満足」で回答を求めた(出口(2013)と同様)。
周囲にいる他者 「あなたの隣に座っている人」の質問紙に印刷された番号を記入するよう求めた。
調査対象者および手続き
1つの中学校における12学級の生徒440名(男子217,女子218名,不明5名)から有効な回答を得た。質問紙は匿名式で,2学期に集団で行った。
結果と考察
規範逸脱行動に対する態度の分類
4つの状況に対する態度(R,S,T,P)を基に,逸脱行動ごとに,以下の5つの行動基準に回答者を分類した(出口(2013)と同様の方法)。1)遵守(「R>T and S>P」「R=T and S>P」「R>T and S=P」),2)逸脱(「R<T and S<P」「R=T and S<P」「R<T and S=P」),3)同調(「R>T and S<P」),4)反対(「R<T and S>P」),5)中立(「R=T and S=P」)。「反対」は,その割合が非常に低かったため(0.2~0.9%),以後の分析からは除外した。
また,「周囲にいる他者」の態度も,上記と同様の方法で分類した。この際,最初に記入された者(回答欄左上に記入された番号)のデータを用いた。
自分の行動基準と逸脱頻度
行動基準を独立変数,逸脱頻度を従属変数とした一要因分散分析を行った(「私語」については,私語尺度による指標を分析の対象とした。以下も同様)。その結果,4つ全ての規範逸脱行動において,行動基準の有意な主効果が示された(ps<.05)。全般的に,逸脱>同調>遵守の順で,逸脱頻度が高い傾向が示された。
周囲にいる他者の行動基準と逸脱頻度
前と同様の方法で分散分析を行った。その結果,「私語」「信号無視」において,行動基準の有意な主効果が示された(ps<.05)。「私語」については,周囲にいる他者の行動基準が「中立」である生徒の逸脱頻度が最も高かった。一方,「信号無視」については,「逸脱」の逸脱頻度が最も高かった。
学級の構成と学級全体の逸脱頻度
教室内の行動である「私語」「内職」について,学級ごとに,各行動基準を持った生徒の数,および「逸脱行動の頻度」の平均値を算出した。さらに,「遵守」の生徒数(全体の31%)から「逸脱」の生徒数(16%)を引いた値を求め,これらの値と「逸脱行動の頻度」間の相関係数を算出した(出口(2013)と同様)。
その結果,「私語」に関しては,「遵守の生徒数」(図1)および「遵守の生徒数と逸脱の生徒数の差」と逸脱頻度の間に,有意な負の相関(rs=-.62,-.64)が示された(ps<.05)。しかし,「逸脱の生徒数」に関しては,有意な相関は示されなかった。これらは,出口(2013)の結果を支持するものであった。なお,「同調」の割合(47%)は最も高かったが,学級全体の逸脱頻度との関連は示されなかった。一方,「内職」に関しては,いずれの指標の間にも有意な相関は示されなかった。「内職」は,「逸脱」の割合が最も高く(33%),「逸脱行動」と見なされていなかった可能性が考えられる。
引用文献
出口拓彦(2013).規範逸脱傾向のある生徒は学級内の逸脱行動を増加させるのか 日本教育心理学会第55回総会発表論文集,58.
出口拓彦・吉田俊和(2005).大学の授業における私語の頻度と規範意識・個人特性との関連:大学生活への適応という観点からの検討 社会心理学研究,21,160-169.
※本研究の一部は,JSPS科研費(基盤研究C,課題番号26380885)の援助を受けた。
本研究は,教室や学校等,公共の場における中学生の規範逸脱行動について,「周囲にいる他者」の影響に着目して検討した。
方 法
測定した変数
逸脱頻度 私語(授業と無関係の私語),内職,ゴミのポイ捨て,信号無視,という4つの行動の頻度について,「1.ぜんぜんしなかった~5.たくさんした」で回答を求めた。私語については,私語尺度(出口・吉田,2005)による測定も行った。
規範逸脱行動に対する態度 上の4つの各行動について,「自分も周囲も遵守(R)」「自分は遵守,周囲は逸脱(S)」「自分は逸脱,周囲は遵守(T)」「自分も周囲も逸脱(P)」という仮想の4状況を提示した。そして,「1.非常に不満~7.とても満足」で回答を求めた(出口(2013)と同様)。
周囲にいる他者 「あなたの隣に座っている人」の質問紙に印刷された番号を記入するよう求めた。
調査対象者および手続き
1つの中学校における12学級の生徒440名(男子217,女子218名,不明5名)から有効な回答を得た。質問紙は匿名式で,2学期に集団で行った。
結果と考察
規範逸脱行動に対する態度の分類
4つの状況に対する態度(R,S,T,P)を基に,逸脱行動ごとに,以下の5つの行動基準に回答者を分類した(出口(2013)と同様の方法)。1)遵守(「R>T and S>P」「R=T and S>P」「R>T and S=P」),2)逸脱(「R<T and S<P」「R=T and S<P」「R<T and S=P」),3)同調(「R>T and S<P」),4)反対(「R<T and S>P」),5)中立(「R=T and S=P」)。「反対」は,その割合が非常に低かったため(0.2~0.9%),以後の分析からは除外した。
また,「周囲にいる他者」の態度も,上記と同様の方法で分類した。この際,最初に記入された者(回答欄左上に記入された番号)のデータを用いた。
自分の行動基準と逸脱頻度
行動基準を独立変数,逸脱頻度を従属変数とした一要因分散分析を行った(「私語」については,私語尺度による指標を分析の対象とした。以下も同様)。その結果,4つ全ての規範逸脱行動において,行動基準の有意な主効果が示された(ps<.05)。全般的に,逸脱>同調>遵守の順で,逸脱頻度が高い傾向が示された。
周囲にいる他者の行動基準と逸脱頻度
前と同様の方法で分散分析を行った。その結果,「私語」「信号無視」において,行動基準の有意な主効果が示された(ps<.05)。「私語」については,周囲にいる他者の行動基準が「中立」である生徒の逸脱頻度が最も高かった。一方,「信号無視」については,「逸脱」の逸脱頻度が最も高かった。
学級の構成と学級全体の逸脱頻度
教室内の行動である「私語」「内職」について,学級ごとに,各行動基準を持った生徒の数,および「逸脱行動の頻度」の平均値を算出した。さらに,「遵守」の生徒数(全体の31%)から「逸脱」の生徒数(16%)を引いた値を求め,これらの値と「逸脱行動の頻度」間の相関係数を算出した(出口(2013)と同様)。
その結果,「私語」に関しては,「遵守の生徒数」(図1)および「遵守の生徒数と逸脱の生徒数の差」と逸脱頻度の間に,有意な負の相関(rs=-.62,-.64)が示された(ps<.05)。しかし,「逸脱の生徒数」に関しては,有意な相関は示されなかった。これらは,出口(2013)の結果を支持するものであった。なお,「同調」の割合(47%)は最も高かったが,学級全体の逸脱頻度との関連は示されなかった。一方,「内職」に関しては,いずれの指標の間にも有意な相関は示されなかった。「内職」は,「逸脱」の割合が最も高く(33%),「逸脱行動」と見なされていなかった可能性が考えられる。
引用文献
出口拓彦(2013).規範逸脱傾向のある生徒は学級内の逸脱行動を増加させるのか 日本教育心理学会第55回総会発表論文集,58.
出口拓彦・吉田俊和(2005).大学の授業における私語の頻度と規範意識・個人特性との関連:大学生活への適応という観点からの検討 社会心理学研究,21,160-169.
※本研究の一部は,JSPS科研費(基盤研究C,課題番号26380885)の援助を受けた。