日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-64)

ポスター発表 PC(01-64)

2016年10月8日(土) 15:30 〜 17:30 展示場 (1階展示場)

[PC63] 共同調理(co-cooking)場面でのコミュニケーション発達と支援

3歳ダウン症児の「カルピス作り」場面での発話行為と調整活動

長崎勤1, 川口恭輔#2, 小谷恵#3 (1.実践女子大学, 2.アサヒグループホールディングス株式会社, 3.アサヒグループホールディングス株式会社)

キーワード:共同調理, コミュニケーション, ダウン症児

問題と目的
 障害児では指示に従うだけでは,学習性無気力感を引き起こしがち(Koegel & Koegel,2006) なために「機能的で自発的なコミュニケーション」が教育的優先事項として指摘されている(NRC, 2001)。母子の希釈飲料(カルピス)作りの共同調理(co-cooking) 活動を観察した三木ら(2013)は,母親の「カルピス」の作り方を見て,単なる模倣でなく,自分なりにアレンジして作ったり,母親に作ってあげたりという自発的・能動的な活動の発達を観察している。そこで,3歳ダウン症児を対象に,「カルピス」を自分で作ったり他者に作ってあげたりというおやつ場面での自発行動,発話行為,また自己調整活動を支援する。
方   法
 ①対象児:ダウン症児A児。支援期間:2歳9か月~3歳6ヶ月。津守式乳幼児精神発達質問紙による発達年齢1歳6ヶ月。運動・音楽・認知・面接も含む「発達支援プログラム」の一部。②頻度・場所:201X年2月~11月の月約2回計11セッション (以下S) の指導。B大学のプレールーム。③指導方法:準備・片付け・おやつの選択・カルピス作り・要求行動などにわけスクリプトを構成し,最大29の理解要素と12の表出要素からなる。メイン・ティーチャー(MT),サブ・ティーチャー(ST),母親が参加。身体援助→モデル提示→ジェスチャー→言語→自発の段階的援助によって支援した。
結   果
 1.理解要素(Fig.1):身体援助が減少し,声かけやモデル提示によって理解する要素が増加し,S7以降は全理解要素での自発行動の比率は70-80%前後になった。「カルピス」を母親に作ってあげるという行為をS6から取り入れると自発の比率が急増した。2.表出要素:S8以降,発声,模倣,ことばによる伝達が増加し,80%以上がspeech (音声以上) による伝達となった。「おいしい」は「返事→代弁模倣→自発」によって明確な発話行為へとなっていった (Table 2)。3.自己調整活動:S8,S9から,自分なりの作り方をはじめ,MTや母親からの助言に「だめ」等と応じるなど,自己主張・調整活動の萌芽が見られた (Table 3)。
考   察
 ルーティン行為の繰り返しで一般的出来事表象(スクリプト)を獲得し,自発行動の増加につながったと考えられる。その経過の中で,「観察→自分で作る→母親に作る」へと役割の交代(役割の越境;田島, 2016)も認められた。代弁模倣から自発使用へと発話行為の明確化も同時に見られた。これらから「カルピス作り」を含めたおやつ場面での支援=「共同調理入門」は文化への参入過程であり,越境的学習過程といえる。自己主張,自己調整活動の萌芽も見られ,今後,自己調節活動での自己主張と自己抑制のバランスの支援が必要といえる。
(本研究は大島美紀(学校法人みだい幼稚園)・別所春香(吹上保育園)各氏との共同研究である。本研究は実践女子大学の研究倫理審査委員会において承認された。)