[PC73] 教師のエンパワーメント状態の検討
教師エンパワーメント尺度開発に向けて
Keywords:エンパワーメント, 教師, 尺度開発
問題と目的
エンパワーメントとは,「個人の人生や組織の機能,コミュニティの生活の質に影響を与えるような決定において,統制や影響力を発揮するための取り組みの過程や結果(Zimmerman,2000)」と定義される。教師のエンパワーメントが高まることは,バーンアウトの予防に効果があること,また,職務へのコミットメントや職務行動への積極性を高め,さらに学校の改善においても重要であることが示されている。しかし,エンパワーメントの研究においては,①エンパワーメントにおける個人・組織レベルの区別,②エンパワーする過程(empowering)とエンパワーした状態(empowered)という2つの区別が十分になされていないという指摘がある。また,日本における教師のエンパワーメントの測定にはWilson(1993)の自己エンパワーメント尺度(self-empowerment scale)を翻訳し,日本の教師を対象に調査した,古川ら(2002)の研究(主張的コミュニケーション,自己反省,自主的決定の3因子を抽出),迫田ら(2004)の研究(挑戦性,自己主張,素直さ・オープンさ,自己信頼という4因子を抽出)がある。しかしこれらの因子は元の尺度で抽出された因子とは異なり,③米国で開発されてきた尺度を翻訳して調査・分析を行った国内研究では元尺度と同じ構成要素が日本では抽出されないという課題が残されている。
そこで,本研究では,学校における教師個人レベルのエンパワーした状態について,日本の教育現場からエンパワーした状態の構成要素を抽出することを目的とする。
方 法
1)エンパワーメント概念の構成要素の抽出:エンパワーメントを見出す視点を得るため,先行研究のレビューからエンパワーメントの定義および構成概念を整理した。
2)データおよび分析:12校の校長へのインタビューデータおよび5校の学校での実践フィールドノートであった。これらのデータから1)の概念に合致すると思われる記述を抜き出した。
結 果
先行研究のレビューから,教師個人レベルのエンパワーメントの測定には,①エンパワーする組織(empowering organization)の認知,②認知レベルのエンパワーメント,③行動レベルのエンパワーメントという側面があると考えられた。また,各側面の構成要素が整理された(Table 1左列)。
この構成要素に基づき,データから記述を抽出し,その特徴を示す説明を示した(Table 1右列)。
考 察
教師に限らず個人のエンパワーメントはこれまで測定尺度の問題が指摘されてきた。本研究の結果,日本で抽出されないといわれてきた構成要素が現象としては起こっていることが示された。また,これまでの尺度では,レベルの異なる構成要素が共に扱われていた可能性を見出した。
今後は本研究で質的データから構成された概念および項目を用いて,量的調査を実施し,その信頼性を検証していく必要がある。
引用文献
Zimmerman, M. A. (2000). Empowerment theory: Psychological, organizational and community level of analysis. In J. Rappaport & E. Seidman (Eds.) Handbook of community psychology. New York: Kluwer Academic /Plenum.
謝 辞
本研究はJSPS科研費15K17280「学校組織と教員のエンパワーメント過程および状態モデルの生成」の助成を受けたものです。
エンパワーメントとは,「個人の人生や組織の機能,コミュニティの生活の質に影響を与えるような決定において,統制や影響力を発揮するための取り組みの過程や結果(Zimmerman,2000)」と定義される。教師のエンパワーメントが高まることは,バーンアウトの予防に効果があること,また,職務へのコミットメントや職務行動への積極性を高め,さらに学校の改善においても重要であることが示されている。しかし,エンパワーメントの研究においては,①エンパワーメントにおける個人・組織レベルの区別,②エンパワーする過程(empowering)とエンパワーした状態(empowered)という2つの区別が十分になされていないという指摘がある。また,日本における教師のエンパワーメントの測定にはWilson(1993)の自己エンパワーメント尺度(self-empowerment scale)を翻訳し,日本の教師を対象に調査した,古川ら(2002)の研究(主張的コミュニケーション,自己反省,自主的決定の3因子を抽出),迫田ら(2004)の研究(挑戦性,自己主張,素直さ・オープンさ,自己信頼という4因子を抽出)がある。しかしこれらの因子は元の尺度で抽出された因子とは異なり,③米国で開発されてきた尺度を翻訳して調査・分析を行った国内研究では元尺度と同じ構成要素が日本では抽出されないという課題が残されている。
そこで,本研究では,学校における教師個人レベルのエンパワーした状態について,日本の教育現場からエンパワーした状態の構成要素を抽出することを目的とする。
方 法
1)エンパワーメント概念の構成要素の抽出:エンパワーメントを見出す視点を得るため,先行研究のレビューからエンパワーメントの定義および構成概念を整理した。
2)データおよび分析:12校の校長へのインタビューデータおよび5校の学校での実践フィールドノートであった。これらのデータから1)の概念に合致すると思われる記述を抜き出した。
結 果
先行研究のレビューから,教師個人レベルのエンパワーメントの測定には,①エンパワーする組織(empowering organization)の認知,②認知レベルのエンパワーメント,③行動レベルのエンパワーメントという側面があると考えられた。また,各側面の構成要素が整理された(Table 1左列)。
この構成要素に基づき,データから記述を抽出し,その特徴を示す説明を示した(Table 1右列)。
考 察
教師に限らず個人のエンパワーメントはこれまで測定尺度の問題が指摘されてきた。本研究の結果,日本で抽出されないといわれてきた構成要素が現象としては起こっていることが示された。また,これまでの尺度では,レベルの異なる構成要素が共に扱われていた可能性を見出した。
今後は本研究で質的データから構成された概念および項目を用いて,量的調査を実施し,その信頼性を検証していく必要がある。
引用文献
Zimmerman, M. A. (2000). Empowerment theory: Psychological, organizational and community level of analysis. In J. Rappaport & E. Seidman (Eds.) Handbook of community psychology. New York: Kluwer Academic /Plenum.
謝 辞
本研究はJSPS科研費15K17280「学校組織と教員のエンパワーメント過程および状態モデルの生成」の助成を受けたものです。