[PD04] 円・三角形の一筆描きにみられる描線動作の文化的特徴
日・泰大学生を対象とした比較文化的研究
キーワード:大学生, 比較文化, 描画
問題と目的
円などの図形の描き方は文化により差違があることが知られている。たとえば,中国人(中国語)とアメリカ人(英語)の円描画を比較すると,アメリカ人の方が円を反時計回りに描く傾向が強い(Shan-Mingら, 1985)。また,フランスの児童(フランス語)はチュニジアの児童(アラビア語)に比べると円を反時計回りに描きやすいという(Fagard & Dahmen, 2003)。いずれの研究でも,書字する文字の違いにより円の描き方に違いがあること,英語などラテン文字文化圏では円を反時計回りで描く傾向があることが示されている。
ところで,上述したように,これまでの研究はラテン文字文化圏の被験者を対象としたものが多く,それ以外の言語圏の被験者を対象とした研究はあまりみられない。そこで,本研究では日本とタイの大学生を対象として図形の一筆書き課題を実施し,各文化の描線動作の特徴を検討することを目的とした。
方 法
被験者:実験に参加したのは日本語を母語とする日本人大学生31名(男性10名,女性21名)と,タイ語を母語とするタイ人大学生32名(男性10名,女性22名)であった。どの被験者も日常的に右手で書字しており,描画課題も右手で実施した。
実験手続き:実験は個別法であった。事前に円や三角形などの図形が点線で記されている実験用紙を用意し,それぞれの図形を一筆でなぞり描きするよう教示した。実験者は各図形の描き始めの位置(描画開始点)と,図形を描くときの手の動き(描画方向)を記録した。円描画課題の描画開始位置は,時計の文字盤をもとに12分類した。三角形描画課題の描画開始位置は,三角形の3つの頂点に分類した。描画方向は,どの図形でも時計回りと反時計回りのいずれかに分類した。
結 果
円描画課題:円描画課題における描画開始位置,描画方向の反応頻度を示したのがTable 1である。日本人大学生では円を6~7時から時計回りに描く反応が多く(計17名),また11~12時から反時計回りに描く反応もやや多かった(計8名)。これに対して,タイ人大学生は円を11時あたりから反時計回りに描く反応が多く(11名),また11~12時から時計回りに描く反応も多かった(計10名)。Table 1にもとづいてFisherの直接法により検定したところ,日本人大学生とタイ人大学生のどちらも結果は有意であった。(日本人大学生:p=.004;タイ人大学生:p=.023)。
三角形描画課題:三角形描画課題における描画開始位置,描画方向の反応頻度を示したのがTable 2である。日本人大学生では大半が三角形の上の頂点から反時計回りに描いていた。いっぽう,タイ人大学生ではおおよそ半数が上の頂点から反時計回りで描き,その他の学生のほとんどは左下の頂点から時計回りで描いていた。Table 2にもとづいてFisherの直接法により検定したところ,日本人大学生の結果は有意傾向であり,タイ人大学生の結果は有意となった(日本人大学生:p=.064;タイ人大学生:p<.001)。
考 察
日本人大学生では円を左下から時計回りに描く反応と左上から反時計回りに描く反応がみられ,タイ人大学生では円を左上から時計回り描く反応と左上から反時計回りに描く反応がみられた。三角形の描画では日本人大学生の大半は上の頂点から反時計回りに描くが,タイ人大学生では上の頂点から反時計回りに描く反応と左下の頂点から時計回りに描く反応がみられた。本研究結果は日本とタイでは描線動作に文化差があることを示している。こうした図形の描き方と書字様式との関連を検証していくことが今後の課題だといえよう。
円などの図形の描き方は文化により差違があることが知られている。たとえば,中国人(中国語)とアメリカ人(英語)の円描画を比較すると,アメリカ人の方が円を反時計回りに描く傾向が強い(Shan-Mingら, 1985)。また,フランスの児童(フランス語)はチュニジアの児童(アラビア語)に比べると円を反時計回りに描きやすいという(Fagard & Dahmen, 2003)。いずれの研究でも,書字する文字の違いにより円の描き方に違いがあること,英語などラテン文字文化圏では円を反時計回りで描く傾向があることが示されている。
ところで,上述したように,これまでの研究はラテン文字文化圏の被験者を対象としたものが多く,それ以外の言語圏の被験者を対象とした研究はあまりみられない。そこで,本研究では日本とタイの大学生を対象として図形の一筆書き課題を実施し,各文化の描線動作の特徴を検討することを目的とした。
方 法
被験者:実験に参加したのは日本語を母語とする日本人大学生31名(男性10名,女性21名)と,タイ語を母語とするタイ人大学生32名(男性10名,女性22名)であった。どの被験者も日常的に右手で書字しており,描画課題も右手で実施した。
実験手続き:実験は個別法であった。事前に円や三角形などの図形が点線で記されている実験用紙を用意し,それぞれの図形を一筆でなぞり描きするよう教示した。実験者は各図形の描き始めの位置(描画開始点)と,図形を描くときの手の動き(描画方向)を記録した。円描画課題の描画開始位置は,時計の文字盤をもとに12分類した。三角形描画課題の描画開始位置は,三角形の3つの頂点に分類した。描画方向は,どの図形でも時計回りと反時計回りのいずれかに分類した。
結 果
円描画課題:円描画課題における描画開始位置,描画方向の反応頻度を示したのがTable 1である。日本人大学生では円を6~7時から時計回りに描く反応が多く(計17名),また11~12時から反時計回りに描く反応もやや多かった(計8名)。これに対して,タイ人大学生は円を11時あたりから反時計回りに描く反応が多く(11名),また11~12時から時計回りに描く反応も多かった(計10名)。Table 1にもとづいてFisherの直接法により検定したところ,日本人大学生とタイ人大学生のどちらも結果は有意であった。(日本人大学生:p=.004;タイ人大学生:p=.023)。
三角形描画課題:三角形描画課題における描画開始位置,描画方向の反応頻度を示したのがTable 2である。日本人大学生では大半が三角形の上の頂点から反時計回りに描いていた。いっぽう,タイ人大学生ではおおよそ半数が上の頂点から反時計回りで描き,その他の学生のほとんどは左下の頂点から時計回りで描いていた。Table 2にもとづいてFisherの直接法により検定したところ,日本人大学生の結果は有意傾向であり,タイ人大学生の結果は有意となった(日本人大学生:p=.064;タイ人大学生:p<.001)。
考 察
日本人大学生では円を左下から時計回りに描く反応と左上から反時計回りに描く反応がみられ,タイ人大学生では円を左上から時計回り描く反応と左上から反時計回りに描く反応がみられた。三角形の描画では日本人大学生の大半は上の頂点から反時計回りに描くが,タイ人大学生では上の頂点から反時計回りに描く反応と左下の頂点から時計回りに描く反応がみられた。本研究結果は日本とタイでは描線動作に文化差があることを示している。こうした図形の描き方と書字様式との関連を検証していくことが今後の課題だといえよう。