[PD06] 中高年の自己語りと想起が促す生活史の再編
日常的な開示頻度と想起頻度からの検討
Keywords:語り, 生活史, 想起
問題と目的
自分について語る行為(self-narrative:自己語り)には,過去の経験を組織化し,人生を意味づける機能が想定されているが,その機能についての直接的な証左は乏しい。高齢期を含む中高年期には,ライフレビューのようにこれまでの生活史を振り返って整理し,将来を展望する発達的課題を有するため,こうした自己語りの機能の重要性が高まると考えられる。野村(2014)では,生活史調査面接における自己語りが,その後の不随意的記憶想起の日誌記録において,経験の意味を捉え直し,経験に随伴する感情が変化するといった生活史の再編を示している可能性が指摘された。しかし,生活史の再編の生起には,広範な個人差の存在がうかがわれるため,その規定因の探索が課題として残されていた。そこで本研究では,自己語り後の不随意的記憶想起の日常的な開示頻度および想起頻度と,生活史の再編の関連を検討した。
方 法
面接法と日誌法を併用した。調査対象者は対人ボランティア経験者24名(女性16名,男性8名。平均年齢60.4歳)であった。個別面接法によって自己語りを促進・収集した後,日誌法によって不随意的想起を収集し,さらに事後面接によって日誌法の記録内容等を補完した。自己語りの面接では,ボランティア経験の内容や参加経緯,動機に加え,それらと関わる生活史を尋ねた。日誌法では,連続する1週間,不随意的な記憶想起を毎日3個まで,携帯するカードに筆記してもらった。記録内容は,想起の状況(日時,場所,行為,契機,気分)と想起した出来事(時期,内容)とした。事後面接では,記録された想起について,想起頻度と開示頻度をそれぞれ「よく思い出す:4」から「まったく思い出さない:1」,「よく話す:4」から「まったく話さない:1」までの4件法で回答してもらった。
結 果
野村(2014)で抽出した「自己語りと想起内容の関連性を表すカテゴリー」の中でも,生活史の再編の発露や顕現とみなし得る新たな記憶想起を表すカテゴリーを選定し,それらの出現頻度に基づいて生活史の再編程度を同定した。これらのカテゴリーの出現頻度が高い者から順に上位8名を生活史再編の高群,低い者から順に下位8名を低群とした。想起頻度と開示頻度について,生活史再編の高低による差異を,t検定により検証した(表)。その結果,生活史再編の高群は低群に比べて,想起頻度が高く(t(13)=3.79, p<.01),なおかつ開示頻度も高かった(t(13)=2.17, p<.05)。
考 察
日常的に特定の出来事について繰り返し想起して内省する傾向が高いと,自己語り後に出来事に随伴する感情の強度が減衰したり,意味づけが肯定的になったりするなど,生活史の再編が生じ得るのだろう。また,想起した出来事を日常的に開示する傾向が高いと,既に開示経験を持つ出来事であったとしても,調査面接のような特異な場における自己語りを通じて,出来事に付随する意味づけや感情が揺さぶられ,生活史の再編に至ったと考えられる。
引用文献
野村晴夫(2014).生活史面接後の「内なる語り」― 中高年の不随意的想起に着目した調査.心理臨床学研究,32,336-346.
※本研究は科研費(22730509, 24243066,25380877)の助成を受けた。
自分について語る行為(self-narrative:自己語り)には,過去の経験を組織化し,人生を意味づける機能が想定されているが,その機能についての直接的な証左は乏しい。高齢期を含む中高年期には,ライフレビューのようにこれまでの生活史を振り返って整理し,将来を展望する発達的課題を有するため,こうした自己語りの機能の重要性が高まると考えられる。野村(2014)では,生活史調査面接における自己語りが,その後の不随意的記憶想起の日誌記録において,経験の意味を捉え直し,経験に随伴する感情が変化するといった生活史の再編を示している可能性が指摘された。しかし,生活史の再編の生起には,広範な個人差の存在がうかがわれるため,その規定因の探索が課題として残されていた。そこで本研究では,自己語り後の不随意的記憶想起の日常的な開示頻度および想起頻度と,生活史の再編の関連を検討した。
方 法
面接法と日誌法を併用した。調査対象者は対人ボランティア経験者24名(女性16名,男性8名。平均年齢60.4歳)であった。個別面接法によって自己語りを促進・収集した後,日誌法によって不随意的想起を収集し,さらに事後面接によって日誌法の記録内容等を補完した。自己語りの面接では,ボランティア経験の内容や参加経緯,動機に加え,それらと関わる生活史を尋ねた。日誌法では,連続する1週間,不随意的な記憶想起を毎日3個まで,携帯するカードに筆記してもらった。記録内容は,想起の状況(日時,場所,行為,契機,気分)と想起した出来事(時期,内容)とした。事後面接では,記録された想起について,想起頻度と開示頻度をそれぞれ「よく思い出す:4」から「まったく思い出さない:1」,「よく話す:4」から「まったく話さない:1」までの4件法で回答してもらった。
結 果
野村(2014)で抽出した「自己語りと想起内容の関連性を表すカテゴリー」の中でも,生活史の再編の発露や顕現とみなし得る新たな記憶想起を表すカテゴリーを選定し,それらの出現頻度に基づいて生活史の再編程度を同定した。これらのカテゴリーの出現頻度が高い者から順に上位8名を生活史再編の高群,低い者から順に下位8名を低群とした。想起頻度と開示頻度について,生活史再編の高低による差異を,t検定により検証した(表)。その結果,生活史再編の高群は低群に比べて,想起頻度が高く(t(13)=3.79, p<.01),なおかつ開示頻度も高かった(t(13)=2.17, p<.05)。
考 察
日常的に特定の出来事について繰り返し想起して内省する傾向が高いと,自己語り後に出来事に随伴する感情の強度が減衰したり,意味づけが肯定的になったりするなど,生活史の再編が生じ得るのだろう。また,想起した出来事を日常的に開示する傾向が高いと,既に開示経験を持つ出来事であったとしても,調査面接のような特異な場における自己語りを通じて,出来事に付随する意味づけや感情が揺さぶられ,生活史の再編に至ったと考えられる。
引用文献
野村晴夫(2014).生活史面接後の「内なる語り」― 中高年の不随意的想起に着目した調査.心理臨床学研究,32,336-346.
※本研究は科研費(22730509, 24243066,25380877)の助成を受けた。