[PD13] 愛着と食行動
母親と女子大生の比較を通して
キーワード:見捨てられ不安, 親密性回避, 食事(給食)の好き嫌い
序と目的
日本の児童の食環境は,親子関係の変化,情報の過負荷,乱れた栄養バランスとカロリー過多などによって混乱してきていると言われている。
食行動は,進化的に愛着形成と深く関わっている。成長するには,親の養育行動が不可欠であり,離巣性の霊長類にとっては,親への愛着形成と裏腹の関係にある。
食行動は,栄養摂取の他に,規則正しい食事が,生活のリズムと連携し,また,家族との共食が,身体と心の健康の把握など,児童発達に重要な意味を持つ。この研究は,そうした児童の食行動に,親の愛着型がどのような関わりを持っているのかを,母親になる前の女子大生と,母親とその児童の比較を通して探ることにある。
方 法
調査項目:愛着型:愛着スタイル尺度ECR-GO(中尾・加藤,2004)。食行動:給食(食事)の時間の好悪,嫌いなものが出た時の対処など16項目。調査対象:学生162名(女性93名),大都市郊外の小学校1,2年生の保護者106名(母親101名)。このうち,女子大生と母親だけを分析対象に選んだ。父親のデータが,極端に不足していたため男性を除いた。有効データは,女子学生89名と母親92名,計181名であった。
調査手続き:学生に関しては,授業で研究の目的を説明し,同意を得られた場合にのみ調査を依頼した。母親に関しては,教育委員会,学校の許可を取り,担任を通じて,児童に対して食行動の調査を行った。また,保護者の愛着型の調査は,質問紙を児童に持ち帰ってもらい,同意を得られた保護者に書いてもらって,後日学校に届けられたものを回収した。分析:見捨てられ不安と,親密性回避のそれぞれの項目の平均点を算出し,7件法の中間で,4つの愛着型を決定した。
結 果
食事(給食)が好きかどうかについて聞いたところ,好きと答えた学生と児童の母親は,嫌いと答えた場合に比べ,1%水準で有意に,見捨てられ不安が低いことが示された(F=11.676, df=1/ 177, p=.001, 偏η2=.062)。一方,親密性回避得点においては,好き嫌いに関係なく,学生より母親の方が若干高い傾向にあった(F=2.960, df=1/ 177, p=.087, 偏η2=.016)。
愛着型と,学生・母親要因の交互作用が,5%水準で有意で(F=3.04, df = 3 /173, p=.030, 偏η2=.050),学生では,恐れ型が安定型や拒絶型より有意に嫌いで,母親がとらわれ型の場合は,そのほかの型に比べて有意に子供が,食事(給食)を嫌いと答えていた(図1参照)。
一方嫌いなものが出た場合の対処を訪ねたところ,見捨てられ不安得点において,嫌いなものが出た時の対処の主効果が有意傾向(F=2.562, df=3/149, p=.057, 偏η2=.049)であった。親密性回避得点においては,嫌いなものが出た時の対処と学生・母親の要因が1%水準で有意であった(F=3.981, df=3/149, p=.009, 偏η2=.074)ため,下位検定を行ったところ,学生においては,差は認められなかったが,児童の対処間に母親の親密性回避が関わっていることが示された。
考 察
食事(給食)に対する好き嫌いについて,恐れ型の学生が,自己も他者も拒絶している状況は,自分の食への希望も失せることになったと考えられる。しかし,母親が,恐れ型ではなく,とらわれ型で,その児童が食事(給食)を嫌うのは,母親の自己を否定的に見ていても,とらわれ型は,他者は回避しないため,子供への食行動は特段配慮しなくなり,親の食を拒否する姿勢が伝わってしまう。一方,他者も拒否する恐れ型の場合,母親が自覚して,子育ての中で,補正して食育をしようとした結果,子供には影響しなかったと推測することができる。これを確認するには,恐れ型の学生たちの母親がどのタイプかを特定する必要がある。嫌いなものへの対処において,見捨てられ不安が,嫌いなものが出た時に,食べなくさせる方向に働いている可能性がある。
文 献
中尾達馬・加藤和生(2004).“一般他者”を想定した愛着スタイル尺度の信頼性と妥当性の検討,九州大学心理学研究,5,19-27.
日本の児童の食環境は,親子関係の変化,情報の過負荷,乱れた栄養バランスとカロリー過多などによって混乱してきていると言われている。
食行動は,進化的に愛着形成と深く関わっている。成長するには,親の養育行動が不可欠であり,離巣性の霊長類にとっては,親への愛着形成と裏腹の関係にある。
食行動は,栄養摂取の他に,規則正しい食事が,生活のリズムと連携し,また,家族との共食が,身体と心の健康の把握など,児童発達に重要な意味を持つ。この研究は,そうした児童の食行動に,親の愛着型がどのような関わりを持っているのかを,母親になる前の女子大生と,母親とその児童の比較を通して探ることにある。
方 法
調査項目:愛着型:愛着スタイル尺度ECR-GO(中尾・加藤,2004)。食行動:給食(食事)の時間の好悪,嫌いなものが出た時の対処など16項目。調査対象:学生162名(女性93名),大都市郊外の小学校1,2年生の保護者106名(母親101名)。このうち,女子大生と母親だけを分析対象に選んだ。父親のデータが,極端に不足していたため男性を除いた。有効データは,女子学生89名と母親92名,計181名であった。
調査手続き:学生に関しては,授業で研究の目的を説明し,同意を得られた場合にのみ調査を依頼した。母親に関しては,教育委員会,学校の許可を取り,担任を通じて,児童に対して食行動の調査を行った。また,保護者の愛着型の調査は,質問紙を児童に持ち帰ってもらい,同意を得られた保護者に書いてもらって,後日学校に届けられたものを回収した。分析:見捨てられ不安と,親密性回避のそれぞれの項目の平均点を算出し,7件法の中間で,4つの愛着型を決定した。
結 果
食事(給食)が好きかどうかについて聞いたところ,好きと答えた学生と児童の母親は,嫌いと答えた場合に比べ,1%水準で有意に,見捨てられ不安が低いことが示された(F=11.676, df=1/ 177, p=.001, 偏η2=.062)。一方,親密性回避得点においては,好き嫌いに関係なく,学生より母親の方が若干高い傾向にあった(F=2.960, df=1/ 177, p=.087, 偏η2=.016)。
愛着型と,学生・母親要因の交互作用が,5%水準で有意で(F=3.04, df = 3 /173, p=.030, 偏η2=.050),学生では,恐れ型が安定型や拒絶型より有意に嫌いで,母親がとらわれ型の場合は,そのほかの型に比べて有意に子供が,食事(給食)を嫌いと答えていた(図1参照)。
一方嫌いなものが出た場合の対処を訪ねたところ,見捨てられ不安得点において,嫌いなものが出た時の対処の主効果が有意傾向(F=2.562, df=3/149, p=.057, 偏η2=.049)であった。親密性回避得点においては,嫌いなものが出た時の対処と学生・母親の要因が1%水準で有意であった(F=3.981, df=3/149, p=.009, 偏η2=.074)ため,下位検定を行ったところ,学生においては,差は認められなかったが,児童の対処間に母親の親密性回避が関わっていることが示された。
考 察
食事(給食)に対する好き嫌いについて,恐れ型の学生が,自己も他者も拒絶している状況は,自分の食への希望も失せることになったと考えられる。しかし,母親が,恐れ型ではなく,とらわれ型で,その児童が食事(給食)を嫌うのは,母親の自己を否定的に見ていても,とらわれ型は,他者は回避しないため,子供への食行動は特段配慮しなくなり,親の食を拒否する姿勢が伝わってしまう。一方,他者も拒否する恐れ型の場合,母親が自覚して,子育ての中で,補正して食育をしようとした結果,子供には影響しなかったと推測することができる。これを確認するには,恐れ型の学生たちの母親がどのタイプかを特定する必要がある。嫌いなものへの対処において,見捨てられ不安が,嫌いなものが出た時に,食べなくさせる方向に働いている可能性がある。
文 献
中尾達馬・加藤和生(2004).“一般他者”を想定した愛着スタイル尺度の信頼性と妥当性の検討,九州大学心理学研究,5,19-27.