The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD16] 感謝状況の筆記による正負感情への影響

児童を対象として

藤原健志1, 村上達也2, 相川充3 (1.筑波大学, 2.高知工科大学, 3.筑波大学)

Keywords:児童, 感謝, 実践研究

問題と目的
 近年,感謝感情に関する研究が本邦でも行われるようになり,尺度作成(藤原・村上・西村・濱口・櫻井,2014; 岩﨑・五十嵐,2014; 白木・五十嵐,2014)や感謝感情を高めることを目的にした介入研究(藤枝・相川,2012; 羽鳥・石村・小玉,2011)が散見されるようになった。このうち筆記による介入は中学生で行われているが(Froh, Sefick, & Emmons, 2008),児童を対象とした効果検証は不十分である。以上より本研究の目的は,感謝状況の筆記によるポジティブ・ネガティブ感情の変化を検討することである。
方   法
調査対象者 小学5年生と6年生640名(男子328名,女子312名)を対象とした。
調査方法 各学級担任が以下の内容の質問紙を配布・回収した。
質問紙の構成 次の(1)~(5)について,回答を求めた。(1)日本語版児童用PANAS(事前):Yamasaki, Katsuma, & Sakai(2006)を用いた。回答時のポジティブ感情およびネガティブ感情(各12項目)について,5件法で尋ねた。(2)感謝関連感情(事前):「ありがたい」と「申し訳ない」の2つについて,(1)同様に教示し,回答を求めた。(3)感謝関連状況の筆記:感謝関連状況について,4種類の内容を作成し,いずれか1種類に回答を求めた。(a)感謝を感じた場面を5つ筆記させる群(介入群1;162名),(b)感謝を感じた場面を自由に筆記させる群(介入群2;163名),(c)日常生活に関する出来事(「最近,まわりであった,よく覚えているできごと」)を筆記させる群(統制群1;158名),(d)回答日の時間割を筆記させる群(統制群2;157名),の4群であった。(4)日本語版児童用PANAS(事後):(1)の尺度に再度回答を求めた。(5)感謝関連感情(事後):(2)の項目に再度回答を求めた。
調査時期 2015年7月であった。
結果と考察
 操作チェックとして感謝感情の生起について検討するため,(2)と(5)の比較を目的としたt検定を行った結果,介入群において有意な得点上昇は認められなかった。また筆記の効果を確認するため,(1)と(4)の比較を目的としたt検定を行った結果,複数の群においてポジティブ・ネガティブ両感情の低下(あるいはその傾向)が認められた(Table)。
 操作チェックの結果,感謝関連語の得点に変化が認められず,本研究で行った筆記の有効性が示されなかった可能性が示唆される。また筆記の結果,正負感情の双方が低下していることから,筆記を行った結果として児童の感情価全体が低下した可能性もあろう。今後は単純な筆記を超えて,感情を十分に経験させる体験を含めた介入の重要性が示唆される。また,児童が感謝という現象をどのように捉えているのかについて発達的観点から検討し,感情としての感謝を体験させる発達段階を考慮した介入方法を検討することも課題であろう。
 本研究は,科学研究費補助金の助成を受けて行われた(基盤研究(c)課題番号26380839)。