日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD17] 教授されたルールの適用に関連する学習者要因の検討(1)

事前認識と質問生成に着目して

佐藤誠子1, 永山貴洋2 (1.石巻専修大学, 2.石巻専修大学)

キーワード:ルール学習, 誤ルール, 質問生成

問題と目的
 ルールが適用できない学習者要因について,これまで知識操作の不十分さ(工藤,2005)やルール表象の形成の問題(麻柄・進藤,2015)等が指摘されてきた。ところで,ルール学習では,その学習過程において与えられたルールにしたがって判断を下してみないことには学習が成立しない。これは,ある単一のルールに従って思考しようとする認知的要因が関連しているものと思われる。本研究では,そのような学習者要因として事前認識の一貫性(誤ルールによる一貫判断)を取り上げ,事後課題解決との関連を検討する。加えて,そのようなルール適用の構えを形成するものとして,学習過程における質問生成にも着目し検討する。
方   法
 調査協力者 私立大学文系学部生46名である。
 手続き 心理学関連の講義内で調査冊子を配付し一斉に実施した。調査者(第1著者)が問題を読み上げ進度を確認しながら行った。所要時間は約30分。
 課題構成 課題として光合成ルールを取り上げた。1事前認識問題:植物の光合成に必要なものを自由記述で求めた。続いて,ホウレンソウ,キャベツ,松(以上,葉),ピーマン,キュウリ,エダマメ(以上,実),ヒマワリ,チューリップ(以上,茎),ワカメ,ゼニゴケの写真を提示し,それぞれ光合成の有無をたずねた。2光合成ルールの教授:ルール「光合成は植物の緑色の部分(葉緑体)でおこなわれている」について,ピーマンの実を例に説明した。3ルール適用場面(1):スイカの実の緑色の部分は光合成をするかどうかについて,a)直観でどう思うか,b)先のルールが正しいならばどう思うかをたずねた(選択式,理由も)4予想確認および質問の記述:スイカの実も光合成することをスライド上で説明した。続いて「これまでの説明を受けて,光合成に関してあなたが調べてみたいと思ったこと,疑問に思ったことなどを箇条書きで書いてください」と教示し自由記述を求めた。5ルール適用場面(2):熟す前の緑色のトマトの実は光合成をするかどうかについて3と同様にたずねた。6予想確認および質問の記述:トマトの実も緑色のときに光合成をし,熟すとクロロフィル(葉緑素)が分解されリコピン(赤い色素)が増えること,実が赤色になると光合成をしなくなることをスライド上で説明した。その後4と同様に質問を自由記述で求めた。7事後認識問題:1の植物10問に加えて,ホワイトアスパラガス,ムラサキキャベツの葉,紅葉したカエデの葉を提示し,それぞれ光合成の有無をたずねた。上記3問は光合成ルールの裏操作により解決可能な問題である。
結果と考察
 1事前認識問題にすべて正答した1名を除く45名が分析対象者となった。まず事前認識問題に対する回答パターンから,学習者の事前認識を「光合成は葉だけで行う」とする「誤ルール所有者」(17名)と「個別判断者」(28名)に分類し,それぞれ事後認識問題(代入操作問題(事前と同一の10問),裏操作問題(事後のみの3問))の一貫正答者数を算出した(Table 1)。その結果,個別判断者よりも誤ルール所有者の方が事後の代入操作問題で一貫正答する者の割合が高いことが示された(χ2(1)=9.26, p<.01)。このことから,誤ルールによる一貫判断を行う思考の傾向にある者は,事後課題解決においてルールの適用が促進されたといえる。一方で,事前で個別的判断を行っていた者でも事後問題で一貫正答できた者も存在する。これらの者はルールによる思考の構えが学習過程において形成されたと考えられる。このことについて探索的に検討するため,学習過程(4,6)において生成された質問内容を「ルール関連質問」(例:緑色でない植物は光合成をしないのか)と「その他」(例:どのようにクロロフィルが分解されていくのか)に分類し,事後認識問題(代入操作問題)の一貫正答と非一貫正答との関連をみた。その結果,事後一貫正答者は,学習過程(6)においてルールに関連した質問生成の割合が非一貫正答者に比して高かった(Table 2)。学習者自身によってルールの操作による問題設定がなされた場合に,その後のルール適用が促進されることが示唆される。