[PD18] 教授されたルールの適用に関連する学習者要因の検討(2)
ルール適用場面における認識的信念に着目して
キーワード:ルール学習, 認識的信念
問題と目的
特定の領域における学習者の認識的信念を解明することは,その領域における学習者の学習のあり方,課題理解の仕方,そして学習の阻害要因について検討する上で有用であると指摘されている(Hofer,2002)。本研究は,ルール学習における学習者要因として,この認識的信念を取り上げ,認識的信念とルール学習の関連性を検討するものである。従来までの認識的信念に関するモデルを統合して構築された「個人の認識論についての多重時間スケールモデル」(野村・丸野,2011)によれば,人が何らかの認知活動を行う場合,個人の認識論と現実の認知活動における課題の要求との間の相互作用によって「仮説的世界観」が状況依存的に構成される。この「仮説的世界観」とは,教師や児童・生徒による授業の捉え方のことであり,特定の状況における認知活動の目標や状況における適切な振る舞いを規定する機能を持つとされている。ルール学習過程においても学習者は認識的信念をもとに仮説的世界観を構成し,仮説的世界観がルール適用のあり方に影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では,学習者の認識的信念とルール学習の過程で構成される仮説的世界観を分析し,認識的信念とルール適用のあり方の関連性について明らかにすることを目的とする。
方 法
対象者 佐藤・永山(2016)の調査協力者のうち,事前認識問題にて誤ルールによる回答をしていたが,事後認識問題(代入操作問題)ではルールを適用し一貫正答に至った1名を対象とした。
手続き まず,理科の学習についての認識的信念に関してインタビューした後,調査冊子の記述内容を確認しながら,ルール適用場面における仮説的世界観についてインタビューを実施した。インタビュー方法には,予め基幹的な質問を用意する半構造的インタビューを用いた。インタビューに要した時間は約60分であった。調査終了後,インタビューデータは,調査者によって直ちにテキスト化された。テキスト化されたデータは,意味のまとまりによってセグメント化された後,大谷(2008)によるSCAT(Steps Coding and Theorization)に従って分析された。
結果と考察
分析の結果,111のセグメントから,165の概念が形成され,それらの概念は,対象者の理科の学習についての認識的信念を示す概念,ルール適用場面における仮説的世界観を示す概念に分類された。まず,理科の学習についての認識的信念に関する主な概念としては,「因果関係の中で体系化された知識」,「過程の解明を希求する志向性」,「普遍性を想定した模索による知識の体系化」,「構造と機能に対応づけた知識の習得」,「因果関係をもとにした知識の体系化による理解の深化」,及び「別条件の模索による知識の体系的整理」があげられる。こうした概念から,対象者が,理科で学習する知識を体系化された普遍性のある知識と捉えていること,理科における知識の習得は現象が生起する原因と結果と知識を対応づけ,複数の条件を考慮しながら体系的に整理しながら行うものであることと認識していると考えられる。
次に,ルール適用場面における仮説的世界観に関連する主な概念としては,「学習経験による既有知識への信頼」,「疑念を持つ必要性の認知」,「構造的な必要性に対する疑問」,「効率性の視点から現象が生起する目的についての模索」,「誤りの気づきによる判断基準の保留と仮説的判断」,そして「別条件模索への志向性」があげられる。本研究の対象者は,事前認識問題では,既有知識への信頼から「光合成は葉だけで行う」という誤ルールにより回答していた。ルール提示後も新しいルールを無条件で適用するのではなく,疑念を持つべきだという認識から,ルールが正しい根拠を光合成の効率性や構造的な必要性の視点から見出そうと模索していた。そして,ルールについて複数の条件から模索しながら問題に回答する過程で自身の判断基準の誤りに気づいたり,指示によってルールを適用して判断したりすることでルールに対する疑念が晴れ、納得してルールを適用するようになっていた。しかしながら,ルールを受容し,適用するようになった後も,異なる別条件を模索しながら光合成についての理解を深めようとしていた。このようなルール適用のあり方は,複数の条件を考慮しながら,知識を自分自身で体系化しながら習得すべきだという対象者の認識的信念によって構成された仮説的世界観によるものだと考えられる。最終的に,こうした知識を体系的に捉えようとする認識的信念と仮説的世界観が,事後認識問題にてルールを適用し一貫正答に至った要因の1つである可能性が示唆された。
特定の領域における学習者の認識的信念を解明することは,その領域における学習者の学習のあり方,課題理解の仕方,そして学習の阻害要因について検討する上で有用であると指摘されている(Hofer,2002)。本研究は,ルール学習における学習者要因として,この認識的信念を取り上げ,認識的信念とルール学習の関連性を検討するものである。従来までの認識的信念に関するモデルを統合して構築された「個人の認識論についての多重時間スケールモデル」(野村・丸野,2011)によれば,人が何らかの認知活動を行う場合,個人の認識論と現実の認知活動における課題の要求との間の相互作用によって「仮説的世界観」が状況依存的に構成される。この「仮説的世界観」とは,教師や児童・生徒による授業の捉え方のことであり,特定の状況における認知活動の目標や状況における適切な振る舞いを規定する機能を持つとされている。ルール学習過程においても学習者は認識的信念をもとに仮説的世界観を構成し,仮説的世界観がルール適用のあり方に影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では,学習者の認識的信念とルール学習の過程で構成される仮説的世界観を分析し,認識的信念とルール適用のあり方の関連性について明らかにすることを目的とする。
方 法
対象者 佐藤・永山(2016)の調査協力者のうち,事前認識問題にて誤ルールによる回答をしていたが,事後認識問題(代入操作問題)ではルールを適用し一貫正答に至った1名を対象とした。
手続き まず,理科の学習についての認識的信念に関してインタビューした後,調査冊子の記述内容を確認しながら,ルール適用場面における仮説的世界観についてインタビューを実施した。インタビュー方法には,予め基幹的な質問を用意する半構造的インタビューを用いた。インタビューに要した時間は約60分であった。調査終了後,インタビューデータは,調査者によって直ちにテキスト化された。テキスト化されたデータは,意味のまとまりによってセグメント化された後,大谷(2008)によるSCAT(Steps Coding and Theorization)に従って分析された。
結果と考察
分析の結果,111のセグメントから,165の概念が形成され,それらの概念は,対象者の理科の学習についての認識的信念を示す概念,ルール適用場面における仮説的世界観を示す概念に分類された。まず,理科の学習についての認識的信念に関する主な概念としては,「因果関係の中で体系化された知識」,「過程の解明を希求する志向性」,「普遍性を想定した模索による知識の体系化」,「構造と機能に対応づけた知識の習得」,「因果関係をもとにした知識の体系化による理解の深化」,及び「別条件の模索による知識の体系的整理」があげられる。こうした概念から,対象者が,理科で学習する知識を体系化された普遍性のある知識と捉えていること,理科における知識の習得は現象が生起する原因と結果と知識を対応づけ,複数の条件を考慮しながら体系的に整理しながら行うものであることと認識していると考えられる。
次に,ルール適用場面における仮説的世界観に関連する主な概念としては,「学習経験による既有知識への信頼」,「疑念を持つ必要性の認知」,「構造的な必要性に対する疑問」,「効率性の視点から現象が生起する目的についての模索」,「誤りの気づきによる判断基準の保留と仮説的判断」,そして「別条件模索への志向性」があげられる。本研究の対象者は,事前認識問題では,既有知識への信頼から「光合成は葉だけで行う」という誤ルールにより回答していた。ルール提示後も新しいルールを無条件で適用するのではなく,疑念を持つべきだという認識から,ルールが正しい根拠を光合成の効率性や構造的な必要性の視点から見出そうと模索していた。そして,ルールについて複数の条件から模索しながら問題に回答する過程で自身の判断基準の誤りに気づいたり,指示によってルールを適用して判断したりすることでルールに対する疑念が晴れ、納得してルールを適用するようになっていた。しかしながら,ルールを受容し,適用するようになった後も,異なる別条件を模索しながら光合成についての理解を深めようとしていた。このようなルール適用のあり方は,複数の条件を考慮しながら,知識を自分自身で体系化しながら習得すべきだという対象者の認識的信念によって構成された仮説的世界観によるものだと考えられる。最終的に,こうした知識を体系的に捉えようとする認識的信念と仮説的世界観が,事後認識問題にてルールを適用し一貫正答に至った要因の1つである可能性が示唆された。