[PD20] 中学校の理数系教科書における問いの機能に関する検討(2)
理科に関する知識の関連づけのプロセスに着目して
Keywords:理解, 教科書, 中学生
問題と目的
教科書の問いは,読み手である学習者の,教科内容に関する理解を促すために設定されている。特に,中学校課程の理科においては,学習者が教科書に沿って問いを解くことが,授業の中心となる。そこで本研究では,中学校理科において,教科書の問いが,学習者の理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにする。理科教科書の問いに関する先行研究では,問いの形式(疑問詞の種類,「はい/いいえ」で答える問いかどうか,など)に着目したものが多く(中山・猿田・森・渡邉,2014),読み手である学習者の認知プロセスは十分に考慮されてこなかった。そこで本研究では,教科書の問いが,学習者の理解の認知プロセスに沿った構成になっているのかを検討する。なお,本研究では,「理解すること」を「知識を関連づけること」と定義し,理解の認知プロセスを,知識の関連づけのプロセスとして示す。
方 法
調査対象 東京都の公立中学校において占有率の高い3社の,中学校課程3年間分の理科の教科書(平成22年度(学習指導要領の改訂に伴う学習内容の移行措置期間中)発行)12冊を扱い,本編(学習指導要領に示されていない発展的内容は除く)中の問いを分析対象とした。
手続き 本研究では,まず,教科書において,本編中の問い(読み手に解答を求めているもの)の中から,新たな学習内容の理解に関係のあるものをすべて取り出した。そして,それらの問いの目的を,理解の認知プロセスと対応させることで,問いを4つのカテゴリーに分類した。各カテゴリーに分類される問いの例としては,分類0は「既習内容の復習」や「日常的な知識を用いて予想させる問い」など,分類1は「実験結果の抽出を求める問い」や「例題に倣った作図問題」など,分類2は「実験結果を組み合わせて法則を見つけさせる問い」など,分類3は「ある法則が当てはまる日常的事象を挙げさせ,その法則を用いて説明させる問い」などである(Table 1)。そして,教科書の各章を4つの領域(物理,化学,生物,地学)に分類し,領域別に各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。また,各カテゴリーについて4領域の合計を算出し,理科全体の各カテゴリーの問いの数とした。
結果と考察
4つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,一様性の検定(サンプルサイズが大きい場合はカイ二乗検定)によって検討し,二項検定による多重比較を行った(Holm法で調整)(Table 2)。
まず,理科全体では有意な差があり(χ2(3) =1102.9,p<.001),下位検定の結果,すべてのカテゴリー間で差が有意であった(すべてp<.001)。
次に領域別では,すべての領域で有意な差がみられた(物理:χ2(3) =329.9,p<.001,化学:χ2(3) =193.2,p<.001,生物:χ2(3) =222.7,p<.001,地学:χ2(3) =380.5,p<.001)。下位検定の結果,物理,化学,生物では,すべてのカテゴリー間で差が有意であり(物理:分類0-分類2 p<.05,他p<.001,化学:分類0-分類3 p<.05,他p<.001,生物:分類0-分類2 p<.05,分類0-分類3 p<.01,他p<.001),地学では,分類0と分類3との間を除くすべてのカテゴリー間で差が有意であった(p<.001)。
以上より,中学校理科の教科書では,全体的にも,各領域においても,新たな知識の獲得を促す問いが最も多く,知識の関連づけを促す問いは少ないことが明らかとなった。
今後の課題としては,問いの構成をより明らかにするため,分類2の問いや分類3の問いの前にどのような問いが用意されているのか,といった視点での分析も行う必要があるだろう。
教科書の問いは,読み手である学習者の,教科内容に関する理解を促すために設定されている。特に,中学校課程の理科においては,学習者が教科書に沿って問いを解くことが,授業の中心となる。そこで本研究では,中学校理科において,教科書の問いが,学習者の理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにする。理科教科書の問いに関する先行研究では,問いの形式(疑問詞の種類,「はい/いいえ」で答える問いかどうか,など)に着目したものが多く(中山・猿田・森・渡邉,2014),読み手である学習者の認知プロセスは十分に考慮されてこなかった。そこで本研究では,教科書の問いが,学習者の理解の認知プロセスに沿った構成になっているのかを検討する。なお,本研究では,「理解すること」を「知識を関連づけること」と定義し,理解の認知プロセスを,知識の関連づけのプロセスとして示す。
方 法
調査対象 東京都の公立中学校において占有率の高い3社の,中学校課程3年間分の理科の教科書(平成22年度(学習指導要領の改訂に伴う学習内容の移行措置期間中)発行)12冊を扱い,本編(学習指導要領に示されていない発展的内容は除く)中の問いを分析対象とした。
手続き 本研究では,まず,教科書において,本編中の問い(読み手に解答を求めているもの)の中から,新たな学習内容の理解に関係のあるものをすべて取り出した。そして,それらの問いの目的を,理解の認知プロセスと対応させることで,問いを4つのカテゴリーに分類した。各カテゴリーに分類される問いの例としては,分類0は「既習内容の復習」や「日常的な知識を用いて予想させる問い」など,分類1は「実験結果の抽出を求める問い」や「例題に倣った作図問題」など,分類2は「実験結果を組み合わせて法則を見つけさせる問い」など,分類3は「ある法則が当てはまる日常的事象を挙げさせ,その法則を用いて説明させる問い」などである(Table 1)。そして,教科書の各章を4つの領域(物理,化学,生物,地学)に分類し,領域別に各カテゴリーの問いの数を3社分合計した。また,各カテゴリーについて4領域の合計を算出し,理科全体の各カテゴリーの問いの数とした。
結果と考察
4つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,一様性の検定(サンプルサイズが大きい場合はカイ二乗検定)によって検討し,二項検定による多重比較を行った(Holm法で調整)(Table 2)。
まず,理科全体では有意な差があり(χ2(3) =1102.9,p<.001),下位検定の結果,すべてのカテゴリー間で差が有意であった(すべてp<.001)。
次に領域別では,すべての領域で有意な差がみられた(物理:χ2(3) =329.9,p<.001,化学:χ2(3) =193.2,p<.001,生物:χ2(3) =222.7,p<.001,地学:χ2(3) =380.5,p<.001)。下位検定の結果,物理,化学,生物では,すべてのカテゴリー間で差が有意であり(物理:分類0-分類2 p<.05,他p<.001,化学:分類0-分類3 p<.05,他p<.001,生物:分類0-分類2 p<.05,分類0-分類3 p<.01,他p<.001),地学では,分類0と分類3との間を除くすべてのカテゴリー間で差が有意であった(p<.001)。
以上より,中学校理科の教科書では,全体的にも,各領域においても,新たな知識の獲得を促す問いが最も多く,知識の関連づけを促す問いは少ないことが明らかとなった。
今後の課題としては,問いの構成をより明らかにするため,分類2の問いや分類3の問いの前にどのような問いが用意されているのか,といった視点での分析も行う必要があるだろう。