日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD23] 発問場面における授業者の視線行動

熟練教師と教育実習生の比較を通して

有馬道久1, 井上奈未#2 (1.香川大学, 2.丸亀市立城乾小学校)

キーワード:発問場面, 教師, 視線行動

目   的
 教師は,授業の要とされる発問場面において,どこを注視しているのか。本研究では,発問過程を「発問中-指名まで-児童発言中-授業者応答中」の4過程に分けたうえで,熟練教師と教育実習生(以下,実習生と略す)の視線行動を,教室の区画や対象別の注視頻度から比較検討する。
方   法
 授業者と児童 国立K大学教育学部附属小学校の教員3名(教職経験年数9~18年,男性2名,女性1名)と同校で教育実習中の教育学部3年生3名(男性1名,女性2名)を授業者とした。児童は,3年生3クラス(各クラス,男子17名,女子18名,計35名)であった。実施授業は,実習生1名が道徳を行った他はすべて算数であった。
 録画装置と録画手続き 録画には,アイマークレコーダEMR-9(nac社製)を用いた。授業者は頭部にアイマーク検出ユニットと視野カメラからなるヘッドユニットを装着し,腰に録画ユニットを装着し,授業者の視点から授業を録画した。
 リフレクション手続き 授業後,授業者視点映像を見ながら,指名意図など自由に話してもらった。
結果と考察
 座席表をもとに教室を9~10区画に分けたうえで,授業者視点映像をもとに授業者の注視点を観察記録し,注視時間に関わりなくカウントした。
 その結果まず,“発問中”の熟練教師は,注視頻度の70%が“広範囲の児童”(児童4名からなる1区画)であった。実習生も“広範囲の児童”を見ることが多かったが,熟練教師より少なかった。その代わりに,“何もない場所”を見ていた。しかし,リフレクションによるとその自覚はなかった。
 つぎに,“指名まで”の注視点は,熟練教師が“特定の児童”が最も多く,次いで“広範囲の児童”であったのに対し,実習生はその逆であった。熟練教師は,児童の挙手やつぶやき,ノート内容などをもとに指名した点が違いの理由と考えられる。
 また,“児童発言中”については,まず合計頻度が熟練教師の方が3倍以上も多かった。割合から見ると,実習生が“何もない場所”が多く,熟練教師が“黒板”が多いという特徴があった。
 最後に,“授業者応答中”についても,注視頻度の合計が熟練教師の方が2倍近く多かった。割合から見ると,熟練教師が“特定の児童”が多いのに対し,実習生は,“教卓の資料・教科書”や“何もない場所”が多いという違いが認められた。
 熟練教師もリフレクションの際に映像を見て,自らの注視点に気づくなど,総じて無自覚の視線行動が多かったが,その多くは意図的であった。意図の有無が実習生との大きな違いと考えられる。