The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD26] 3囚人問題はなぜ難しいのか

準抽象化教示の効果(2)

寺尾敦1, 伊藤朋子2 (1.青山学院大学, 2.早稲田大学)

Keywords:確率推定, ベイズの定理, 抽象化

 3囚人問題(Shimojo & Ichikawa,1989)はベイズの定理を適用して解決できるが,非常に難しく,しかも正解を納得しがたい。
 本研究では,比較的容易なベイズ推論課題が解決できる学習者への,準抽象化教示(鈴木・寺尾,2014教心総会)の効果を検証した。準抽象化とは人が構成する問題表象の基盤となる知識である。この観点から見たベイズの定理は,求める事後確率は,データ(D)が得られる「世界」の中で「仮説」(H)が正しい確率の計算である。寺尾・伊藤(2015教心総会)では,準抽象化教示を用いることで,およそ20%の正答率が得られた。教示をわずかに修正して追試を行った結果を報告する。
方   法
 参加者:青山学院大学社会情報学部での1年生必修科目「統計入門」の受講者のうち,本実験を行った2回の授業にいずれも出席した60名のデータを分析した。データ使用には同意を得た。
材料と手続き:確率についての学習が2回の授業(1回180分)にわたって行われた。ベイズの定理は2回目の授業で解説された。準抽象化の観点から,図1に示すベン図を用いて,データ(D)が得られる「世界」の中で「仮説」(H)が正しい確率を求めるということが説明された。ベイズの定理の使用を補助する図として,樹形図の構成方法が説明された。
 1回目および2回目の授業終了後に「くじびき課題」(伊藤,2008発心研)の解決を求めた。2回目の「くじびき課題」の解決では,ベイズの定理での仮説とデータの記述,樹形図の作成,事後確率の計算が求められた。
 この問題の正解を呈示した後で,「3囚人問題」の解決を求めた。最初に,事前分布のみが示された未完成の樹形図が呈示された。参加者は,仮説とデータを記述し,問題文に登場する看守の視点から図を完成させて,10分間で解答を行うよう指示された。次に,完全な図とその説明が呈示され,7分間で解答を行った。
結果と考察
くじびき課題
 ベイズの定理を未習の時点では,くじびき課題での正答者は22名(37%)であった。
 ベイズの定理の学習後は,正答者は47名(78%)に増加した。仮説とデータを正しく記述できたのは52名(87%),樹形図を正しく描いたのは48名(80%)であった。仮説とデータの記述,および,樹形図の両方が誤っていた学生は2名のみであった。多くの学生は,この問題において正しい問題表象を構築できたと考えられる。
3囚人問題
 3囚人問題への1回目のチャレンジでは,正答者は11名(18%)であった。仮説とデータを正しく記述したのは19名(32%)であった。このうち8名が3囚人問題に正解を与えた。正しいデータは「看守が“Bは処刑される”と答えた」であるが,単に「Bは処刑される」とした回答(準正解)が20名あった。正しい樹形図を描いたのは15名(25%)であった。このうち10名が3囚人問題に正解を与えた。
 完成した図を用いた2回目のチャレンジでは,正答者は39名(65%)であった。1回目のチャレンジで仮説とデータを正しく記述した19名は,2回目で17名(89%)が正答した。準正解の20名では,正答者は12名(60%)であった。記述が正しくなかった21名では,正答者は10名(48%)であった。1回目のチャレンジで正しい図を描いた15名のうち,14名(93%)が2回目のチャレンジで正答を与えた。図が誤っていた45名では,正答者は25名(56%)であった。
 くじびき課題と比べ,3囚人問題は問題表象の構築が難しい。それでも正答率はおよそ20%であり,多くの先行研究での正答率に比べて高い。準抽象化教示の効果は認められると言える。